第五十三話①
このままそう言った事態、つまりは成人指定作品でしか見ない様な事が起きれば、俺の中の何かが壊れてしまう気がしてならない。
性とは、人間の欲の中でもトップ3に入る程強力なもので、それに触れて仕舞えば最後、2度と元の感性には戻れない気がするのだ。
こんなところで、こんな頭の可笑しい奴に襲われてしまうのか? 何とか魔法で抵抗して見せたいが、こいつの力のせいで魔法が使えない。
そろそろ俺が魔法を使えなくなっている現状を察知して、予め使用していた魔法が発動する頃合いだろう。
そうなれば助かるが、そうなってしまうのも面倒だ。
ただでさえこいつの仕業で1度それを発動させているのだ。2度もこいつが原因で発動させられてたまるかと、俺は体を揺らす。
「何ですか、ノリノリじゃないですか? あれですね、体は正直とった、」
「黙れ、そんなものではない。抵抗を見せているんだ」
「この芋虫みたいな動作がですか? 魔法が使えなければ赤子も同然ですね」
そう言いながら俺の頬を軽く舐めてくる。唾液の生暖かさと、舌の微細な突起が掠めてくる感触で、俺は軽くサブイボを立てた。
もう限界だ。
珍しく悲観的になっていたところに、突如として大きな物音が響いた。
俺も、王国騎士長もそちらに目を向けると、扉が勢いよく開くのが目で見えた。
「マヤト、助けに来たわよ!」
予想外なことに、そこにアカリが現れたのだ。
アカリという名に相応しく、今の俺にはコイツが希望の灯りに見えたのだ。
有難い、どうやってここを見つけだしたのかは分からないが、駆けつけてくれたことが兎に角有難い。
だが、アカリの様子が何処か可笑しい。
この部屋に入ってくるまでは勇ましく、逞しい姿に見えたのだが、今は何処か冷たく、冷酷な表情を……俺に向けている。
驚きのあまり忘れていたが、そうだ。
ここで俺はアカリの向ける表情の意味がようやく理解する事が出来た。
俺は今、ほぼ裸体の王国騎士長に跨がれている。
どう見てもいかがわしい状況。かつ、アカリはある程度心配してこの場に来てくれたのだろう。
それなのに、仲間の俺は女に跨られて顔を赤く染めている。
それは何というか…このような顔を向けられても仕方がないだろう。
慌てて弁明しようとしたところで、王国騎士長に口を押さえられてしまう。
「何をする!」
口を何とか動かしながら、王国騎士長にギリギリ言葉が届く程の大きさでそう話す。
「貴方は黙っていて下さい。口を開けば、もっと酷い目に遭わせます」
これ以上どうするつもりなのかと、正直冷や汗をかいた。
すると王国騎士長は、俺の元から離れて、ゆっくりとアカリの元へ歩き始めたのだ。




