第五十二話③(アカリ視点)
どうしたものかしら……思っていたよりも、こう言ったことには勇気が必要なのね。
ドアノブに手をかけながらも、それを回せずに、ただ時間が刻一刻と過ぎていく。
すると、静寂の中で何者かの声が聞こえてきた。
勘違いかと思いながらも、耳を澄まして音の在処を探すと、それが部屋の中から聞こえている事を知る。
やはり中に誰かがいる。けれどそれがマヤト達であるのかどうかはわからない。
私は音を立てないようにゆっくりとドアに耳をつけて、中から聞こえてくる音を聞いてみる。
すると、薄らではあるが、話している声が聞こえてきたのだ。
「少し待て、パンプキンが本当に無事なのかだけでも教えてくれ」
今の声! 間違いなくマヤトだわ!
驚きのあまり私は声をあげそうになり、後ろへさっと下がる。
ここにいることはわかった。そして今の言葉からしてパンプキンさんがここにいないこともわかった。
そして何より、この場にマヤトとパンプキンさんを攫った人がいる。
私はここを離れて、国王の元へ急いだ。
国王にこの事を知らせて兵士を向かわせてもらい、マヤトを救い出すのだ。
そうすれば、犯人を捕まえることが出来、その後すぐに犯人にパンプキンさんの居場所を聞いて、救い出すことが出来る。
……けれど、どうだろうか。
兵士たちを数人向かわせてもらったところで、マヤトを捕らえれる程の実力の持ち主を、捕えることが出来るのだろうか。
もしも兵士と皆さんが返り討ちにでもあってしまったら大変だ。被害が拡大されてしまうことになる。
そしてマヤトは、きっとやられる兵士たちなど放っておく筈だ。助ける価値も理由も見出せないだろうから。
……ならばやはり、私が扉を開いて、マヤトを助けに向かうべきなのだろうか。
少なくともマヤトは、私を仲間と判断してくれている。
大切に思ってくれているだなんて考えは出来ないが、私の様な仲間には、格好をつけて助けてくれる筈だ。
万が一に、マヤトを救い出すことに失敗して、返り討ちに合いかけすれば、力を使ってくれる筈だ。
確信は持てないが、それが最善の手がした。
勇気を振り絞って先程の扉の前まで戻り、再びドアノブに手を掛ける。
手に汗をかきはじめているのを見て、自分がどれ程までに緊張しているのかがわかった。
すると中から、マヤトの叫び声の様なものが聞こえてきた。
私は更に動揺してしまうが、それと同時にドアノブを回して扉を開いた。
躊躇っている間に最悪の事態が起きれば、それは後悔なんて言葉では収まらないほどの屈辱になる筈だ。
それが嫌で扉を開けたのだ。
中に勢いよく入って、辺りを見渡す。
「マヤト、助けに来たわよ!」
まるで漫画の主人公の様な登場だなと思っていたのも束の間、目の前にマヤトと王国騎士長の姿があった。
けれど何故か王国騎士長の服ははだけており、その状態でマヤトに跨っている。
マヤトも顔を赤くしているのを見て無性に腹が立ってきた。
口をぱくぱくさせながら動揺するマヤトに冷たい視線を送りながら、思っていた事態よりも馬鹿馬鹿しい現状に、拍子抜けとなっていた。




