表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/231

第五話①

「それで……あんたは何してんの?」

「見てわからないか?イカダを作ってるんだ」


 先日、衣服で殆どの金を使い果たした俺たちは、宿屋代をケチるためにブランケットなどを購入して、近くの森で野宿した。


 そして今日、俺はある目的からイカダの製作を取り組んでいた。

 この町に居合わせた漁師の方で、船の構造について詳しい方がいた為、簡単なイカダの作り方を伝授してもらった。


 大体の作り方はメモをとってあり、これの通りに作れば間違いなく上手くいくはずだ。

 肝心の材料は、町外れにある木材を主に取り扱っている店に赴いて調達し、釘などは町で仕入れた。

 ここまで運んでくるのに随分と時間と体力を使ったが、早朝から開始していた為、アカリが起きた時には既にイカダ製作を始められていた。 


「あんたいつからこんなの作ってるのよ?この材料だって、何処から運んで来たわけ?」

「お前が寝ている間に、隣町から運んできたんだ」

「ふーん……それじゃあそれを使って何処にいくつもりなのか、聞いてもいいかしら?」


 面倒くさそうな顔を浮かべながら手を膝に当てて、偉そうにそう問いかけてくる。


「直ぐそこの島までだ。ついでに言うと、これを機にこの町ともお別れになる。いよいよ魔王城へ向けて冒険を始めるからな」

「全く、急な話ね。まぁそれはいいけど、冒険を始めるってことは、貴方のハーレムとか言う話も絡んでくるんでしょ?その島に可愛い子でもいるわけ?」

「可愛いかどうかはわからないが、少なくともとんでもない知識を持った子が島で眠っているのは確かだ」


 この情報は、俺がこの町に辿り着いた時から耳に入っていた。

 詳しい情報はわからないが、出発する理由作りにはなると思い、ひとまずその島にいく事にしたのだ。


「何その子、既に亡くなってるの?」

「いやそうではなくて、ほんと言葉の通りだ。その島で長い間、ただ眠っているらしい。詳しい事はわからないがな」


 アカリは腕を組んで少し考え込む素振りを見せた後、仕方がなさそうにしながら、ある提案をしてきた。


「なら私が島の情報収集をしてくるわ。貴方は引き続きイカダを作っててちょうだい」

「そういえば昨日、お前がそう言った役目を担うと言っていたな…なら任せられるか?」

「わかったわ。それじゃあ私は町に向かうから、また後でね」


 そう言いながら軽く手を振って、アカリは町へと歩いていった。


 イカダ製作は順調に進んでいるが、そろそろ金槌を打つ手が痛くなり始めていた。

 魔法を使ってしまおうかとも考えたが、魔法を使わずとも出来る範囲の事は、やはり自力で行いたい。

 意図的ではあるが、やはり苦労したかどうかで、何かを成した時の喜びは変わってくるはずだからな。


 ――


 2時間ほどが経過した後、ようやくイカダが完成した。

 今日はそこまで気温は高くないのだが、かなり服の下は汗ばんでいる。

 

 だがやはり、作り上げた達成感は物凄いものだ。

 魔法を使えば数分で作ることが出来るイカダだが、こうして自分で作るだけで愛着がかなり違ってくる。


「おーい。色々聞いてきたわよー」


 すると後ろからゆっくりと、アカリがこちらへ帰ってきた。

 2時間聞き込んでいたにしては、あまり疲れていなさそうだ。


「随分と遅かったな…何をしていた?」

「情報収集だって言ったでしょ?…あーそれから朝食を食べてきたわ」

「お前……何故俺を誘わなかった」

「まぁまぁ、かなり島の情報が手に入ったからそれで許してちょうだい」

「…はぁ。それで、どれ程の情報が手に入ったんだ?」

「町から近い島ってこともあって、皆んなかなりあの島の情報を持っていたわ。長い歴史があるみたいな」


 そう言ってアカリは島についての話を始めた。


 まず島の名前だが、通称『眠りの孤島』というらしい。

 その島に住む、ある1人の女の子を元にその名前が付けられたみたいだ。


 だが元は、あの島には数千年ほど前の情報が記載された書物が残されているとされており、『知識の宝箱』と言う名前がついていたそうだ。


 数100年前、それを知った皆は島に行こうと考えたそうだが、その考えは直ぐにないものとなった。

 何故なら、そんな昔の書物が、今も尚存在しているはずがないからだ。

 紙の寿命は約1000年ほど、今も形を保てているとは到底思えない。

 その為皆は諦めて、その島の事は忘れていっていた。


 それが今から10年前の話。


 ある日の事、再びその島は話題の的となった。

 その島に先住民がいることがわかったからだ。


 代々その書物の知識を共有して、祖先に託してを繰り返し、その島からは一切出ようとはしない、そんな変わり者が住んでいたらしい。


「そしてその生き残りが、その女の子ってわけだな」

「その通りよ。どうやら島にいる人物は、彼女1人みたいね」


 そしてそれを聞きつけた者たちは、何とかその知識を手に入れようと、あらゆる大陸から船を出して、その島への接触をこころ見たそうだ。

 だが、結果的に誰1人として、女の子には会う事は出来ずに終わったらしい。


 その理由として挙げられたのは、その島に近づくにつれて起こる、猛烈な眠気だ。

 島にたどり着いたものもいるらしいが、島の地に足をつけた瞬間、瞼は鉛のように重くなり、抵抗すら出来ないまま眠ってしまったという。


 そしてそれの対策として、状態異常耐性の魔法を全て使って挑む者が現れたそうだ。

 その人物は、島に上陸する事に成功したみたいだが、その先には恐ろしいモンスターたちが蔓延っており、状態異常耐性に重点を起きすぎていた為戦う事は叶わずに、そのモンスターから逃げる為、引き返した。


「そうか…そんなにも危険な島なんだな」

「そう見たいよ…それで、どうするの?目的地を変えてもいいけど?」

「…いや、予定は変えない。せっかくこんなにも素晴らしいイカダを作ったんだ。使わないなんて勿体無いだろ?」

「そんな理由の為に、わざわざ危険な島に乗り込むわけ?」

「酷いことを言ってくれるな。これは俺の努力の賜物だぞ?…まぁそれにだ。俺の力があればきっと、あの島も簡単に攻略できるはずだからな」

「それもそうね。それじゃあ早速行ってみる?」


 俺達は、今となっては誰も足を踏み込もうとしなくなった島に、そんな軽いノリで乗り込む事に決めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ