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第四話③

 俺達に襲いかかってきたのは、純白色の丸太ほどの太さがある大蛇、頭だけでも大型トラックほどの大きさはありそうだ。


「ちょっと、大丈夫なんでしょうね!!」

「黙って見てろ…『一時停止(ストップ)』」


 俺の魔法により、大蛇はピタリと動きを止めた。

 まるでオブジェのように動かなくなった姿を見て、迫力は感じるが、恐ろしさは半減した。


「どうだ凄いだろ、これが俺の力…実に頼もしいだろ!」


 感心しろと言わんばかりにそう叫んでみたが、アカリの反応は冷たいものだった。


「えーそうね……少し技名がダサいけど…」

「まぁそうだな……これは俺の中でも不出来なものだからな」

「そもそも技の名前を叫ぶ意味なんてあるわけ?」

「ないな。特に俺は、魔法詠唱を必要としていないからな」

「だったら黙って戦いなさいよ」

「それは無理な相談だ。技名を叫んでこその主人公、少年漫画の中で、無言のまま敵を倒す主人公なんて見たことがあるか?」

「ありはすると思うけど……」


 こんな会話をしている隙に、じわじわと大蛇が動きを始めていた。

 時を止めると言った強力な魔法が故に、持続力は少ないのだ。


「それでは決めるぞ。しっかり見ておけよ」


 俺は手を大きく広げながら勢いよく前に出し、とっておきの魔法を発動させる。


「『強力魔法攻撃一号(ファーストアタック)』!!」

「ダサい!!!」


 魔法により起こった爆音と同時に、アカリの大きな声が聞こえてきた気がした。

 聞き間違いでなければ、今の俺の技名をダサいと言っていた気がするが、そんなことがあるのだろうか。


「お前今なんていった?」

「ダサいっていったのよ!何なのよアレ!恥ずかしいからもうやめて!!」


 俺に詰め寄りながらそんな事を言う彼女に腹が立ち、俺は言葉を言い返す。


「何度も言うが、俺は技名を叫ばなくてはならないんだ。それも強力なら強力な魔法ほどな」

「だったらもう強い魔法使わなくてもいいから!!地道にやっていって!地道に!!どうせアンタなら勝てるんだから!!」

「お前……戦ってもらってる立場で偉そうに……」


 俺のこの言葉に、アカリは露骨に腹を立てた態度を見せた。

 後ろからは、漫画のようにゴゴゴと言った文字が見えてくる気さえする。


「へーそんな事言うんだ…なら私も私で出来る事をするから、そしたら2度と文句言わないでよね」

「あ?お前が何をするっていうんだ?」

「私はこの世界の事を調べる事にするわ。自分はこの世界の事を、少し知らなすぎる事がわかった事だしね」 

「なるほど…俺は力を使い、お前は知恵を使うと言うことか」

「そういう事、貴方もまだこの世界に来て1ヶ月とかなんでしょ?ならきっと、貴方もまだ知らないことだらけだろうから、私が代わりに勉強するわ」


 アカリの言う通り、俺はこの世界の基礎的な事以外はあまり詳しくない。

 彼女にそう言った事を調べてもらうのは悪くないかもしれない。


「それはわかった、そう言った事はお前の担当にしよう……だが!技名はだな!!」

「もうわかった!それもわかったから!!…どうしても強力な魔法が必要になった時、その時は技名を叫ぶ事を許すは、それで良いでしょ?」

「……仕方ない。出来たばかりの仲間と言い争うのも嫌だからな」

「何よそれ、今更じゃない」


 俺は仕方なくアカリの提案を飲み込んで、今回の話は終結した。


 可哀想なのは無惨に跡形も亡くなっていしまっている大蛇だろう。

 ある程度派手に登場しておきながら一撃でやられて、その上、その事に触れられる事なく、全く別の話題で放置されていたのだ。


 俺は珍しく、モンスター相手にそっと手を合わせた後、お辞儀をしてその場をさった。


 ――


 俺たちは今後の話をしながら帰路についた。

 帰りは川沿いを通った為、特に体力なども消耗せずに済み、俺たちはその足でギルドハウスへと向かい、クエスト完了の報告を済ませた。


 そしてそのままギルドハウスの端の方の席を確保して、報酬を分け合った。


「ふーん、これがこの世界の硬貨ね。50万コイン……これってつまりはいくらなの?」

「俺たちのいた世界と同じ感覚でいい、ファミレスのような店なら会計は1人あたり1000コイン程度、ドリンクも100コイン前後だ」

「ふーん、なら私たちは100万円ほどを、1日で稼いだ事になるのね」

「そう言う事になるな。だがこんな割りのいい仕事は珍しい。今回はラッキーだったな」

「そうなの?モンスター討伐して終了ってものばかり思っていたわ」

「確かに今回のような、そう言ったクエストもあるが、殆どはもっと複雑な厄介ごとの解決ばかりだ。だから無駄遣いはあまりするなよ」

「まぁわかったわ。兎に角私、服が欲しいんだけど、後食べ物も」

「それなら無駄ではないか…。ならこの先にあるメイン通りにでもいくか。そこならきっと、そう言ったものも揃ってるはずだ」

「なら早速向かいましょ、もうすぐ日が暮れそうだしね。早く案内してちょうだい」

「そう急かすな…言われなくても案内してやる」


 俺たちはギルドハウスから10分ほど歩いたところにある、あらゆる店が立ち並んだメイン通りにやってきた。


 洋風の穏やかな街並みで、この町の質の良さが伺える。

 並んであるものも、それなりに良いものばかりのはずだ。


「ふーん……確かにいろんなものが売ってるのね」


 アカリは興味ありげに服屋を覗き込んでいる。


「気になるなら入ればいいだろ?」

「うーん、でも私の好みじゃなさそうなのよね……まぁ良いわ。とりあえず入ってみる。着いてきて」

「なんで俺まで?」

「貴方の意見も参考にするの、客観的な意見が知りたいからね」

「定員にでも聞けば良いだろ」

「定員さんはほら、何でも勧めてきそうじゃない?」


 アカリの意見に納得してしまい、仕方なく俺はアカリと一緒に服屋へと入る事になった。


 中は女性ものの服しか置いておらず、当然中にいたお客さんも定員さんも、皆女性だ。

 別に女性に苦手意識があるわけじゃないが、落ち着ける場所とはとても呼べない。


「これと、これと……後これかしら、試着してくるから待ってなさい」

「…早くしてくれよ」

「何貴方、女性ものの服屋さんとか、誰かと一緒にいった事ないの? 女友達とか?」

「あー……ないな」

「ふーん…そんな感じするわね」


 そう言った後、少しニヤけた面を浮かべながら試着室へと入っていった。


 煽られた怒りから居心地の悪さなどはすっかりと忘れて、あいつが着てくる服全てを似合っていないと罵倒してやる準備を始めた。

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