表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

129/231

第四十一話③

「よいしょ」

「……よいしょじゃないぞ、今直ぐに退け」


 あろう事か、アカリは俺の膝を枕にするようにして寝始めたのだ。

 これは所謂膝枕というやつなのだろうが、俺はされる事に憧れを抱くことはあっても、する側を憧れたことは一度もない。

 邪魔に思いグッと頭を押すが、アカリはその場を頑なに退こうとはしない。


「だから言ったでしょ、私は落ちるのが怖いんじゃなくて、屋根が硬いから眠れないの」

「これでは俺が眠れなくなるだろ。それに、硬いから眠れないのは嘘であることはわかっているんだ。怖いのを隠したいのはわかったから、ここを離れろ」

「違うって言ってるでしょ。納得するまではこうしておくから」

「わかった。ならばそういうことにしてやるからここを退け、案外頭というものは重いんだ」


 そう言ってようやく退く素振りを見せたが、再び膝へと戻ってくる。


「何なんだ……。物語の本質から逸れるような行動ばかりするな。今は俺たちを脅かす犯人は誰かと言った、シリアスパートの筈だろう」

「物語にはこう言ったオフタイムも必要な筈よ。じゃないと行き詰まっちゃうでしょ?」

「それはそうだな。わかったから退いてくれ」

「……何だかね。あんたの膝の上なんて乗るもんじゃないとも思ってたけど、乗ってみると不思議と安心してしまったの。今日一日は借りておくことにするわ」

「そんな事をすれば、俺の膝の感覚が無くなってしまうかも知れないんだぞ」

「私の安心の為の犠牲にしては、安いものね」

「……もうわかった。ならばせめて、お前が眠るまでだ。お前が寝た後直ぐに退かすからな」


 アカリは不満そうにしながらも了承するかのように頷いた。

 頭の重みが膝に乗り続けて、じわじわと痛みを感じ始める。

 アニメのヒロインなどは、短時間だから主人公を膝に乗せることができていたのだなと理解した。

 

 これは、1時間や2時間し続けるものではないな。


 そんな事を考えながら、空を見つめる。


 異世界に来る前までは、誰かとこんなくだらないやり取りをするだなんて考えもしなかっただろう。

 元は友達どころか知人と呼べる人間すらいなかったのだ。

 子供を助ける選択をしなければ、今も尚元の世界で、社会や世間に愚痴を溢しながら生きていっていたのだろう。


 俺はこの世界できてよかったと心の底はそう思っている。

 だが俺のような人間は少数派なのだろうか。

 アカリはできる事なら元の世界へ帰りたいと言っていた。

 アニメや俺のよく読んでいたラノベの主人公も、異世界やゲームの世界に飛ばされた後は、元の世界への帰還を目的として行動していた。

 だが、俺にその意思は少しも存在しない。


 こう考えると、元の世界の事を何とも思えない俺は、元の世界になど帰りたくはないと考える俺は、もしかしたら不幸だったのだろうか。

 

 今が幸せなのだから、どうだっていい事なのだから、ふとそんな事を考えしまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ