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第四話①

――

 

 2人で話しをした翌日、俺たちは再び広場で会う約束をしていた。

 

 あの話の後直ぐに俺たちは、なけなしの金を使って安い宿屋に泊まり休息を取った。

 

 同じ宿に泊まっていたのだから、宿で集合で良かった気もするが、彼女曰く直ぐそばで待たれていると、急かされる気がするから、離れた位置での集合がいいとの事、特に断る理由もないので承諾して、俺は集合場所である広場にやってきていた。


 まだ集合時間まで10分程はある。

 その待ち時間に、ふと昨日のことを思い出していた。


 確かあいつ、俺の発言に何故かため息を吐いていたな。

 俺のあのハーレム発言を、よく思わなかったのだろうか。

 だが、俺の目標である主人公像とは、可愛く綺麗な女の子たちに慕われて、幸せに過ごすというのも鉄則だ。

 それを揺るがすわけにはいかない。


「お待たせ、待たせた見たいね」


 そう言いながら昨日と同じ格好で、アカリはやってきた。

 顔を少し上に上げて、同じ身長ほどだというのに、上から目線で話そうとするその素振りを見て、自分を持った彼女を取り戻したのだなと実感した。


「「全然待ってなんていないよ。僕も今来たところだよ」……と、いうべきだったよな?こう言った時は」

「そう言った発言は、あんたには似合うわないわよ」


 他愛もない会話を挟んだ後、俺は確認の意味も込めて、ある事を問いかける。


「昨日の事だが…俺とパーティを組むって事でいいんだよな?」

「……仕方なくよ仕方なく。ツンデレなんかじゃなくて、そうするのが一番良いって判断しただけ」


 一日考え抜いた末に、やはり辞めておくと言われる可能性も考えていたが、どうやら余計な心配だったみたいだ。


「なら今から軽く、お互いの紹介もかねてクエストを受けてみないか?」

「どうして紹介がてらにクエストに行くのよ。そこら辺の喫茶店にでも行けばいいじゃない」

「それぞれの実力を相手に知ってもらう為だ。そして何より金がない。喫茶店に行って水だけ飲むとかいう冷やかしはしたくないからな」

「……それもそうね。仕方ないけど、クエストとやらに行ってみましょうか」


 アカリは少し嫌そうにしながらも、この事を承諾した。

 彼女はこれまで、貴族として生活してきた事を考えると、クエストというものは無縁だったのだろう。

 最初は緊張するのも無理はない。


 ――


「ここがギルド、初めてきたわ」

「やっぱりそうなのか、今まで貴族令嬢……いや、悪役令嬢として過ごしてきたのなら、知らないのも無理はない」


 俺たちは早速ギルドへと足を運んだ。

 ギルドハウスの中は、少し広めなただの居酒屋のような内装をしており、荒くれ者達が昼間にも関わらず飲んだくれていたりしている。


「それで、私はどうすればいいの?」

「あそこのカウンターのお姉さんに、冒険者登録をして貰えば良い。登録だけなら金もかからないしな」


 保険やサービスが受けられるプランも存在するが、今はそれに加入する金がない為、入ることは出来ない。

 それに俺は、入る事が出来た時から、別に加入するつもりはなく入っていない。


 今となれば入っていれば良かったと後悔している。

 金が底を尽きた時の為の、サービスもあった筈だからな。


 アカリはカウンターに向かい、受付のお姉さんと一緒に、書類を書くなどをして、登録を済ませてきた。


「これで登録完了ってわけね。何か、いろんな文字が書かれてるけど、これは何?」


 そう言って登録が完了した際に受け取ったカードを俺に見せてきた。

 このカードの存在は、冒険者にとっては常識なので、特に説明もしてくれなかったのだろう。

 代わりに俺が教える事になった。


「まずこの大きく書かれた氏名の右上にあるのが、お前の今のランクだ。今は『F』と記載されているな。所謂最低ランクだ」

「これは何かの拍子に変わったりするの?」

「実績次第だな。何か成果を上げるたび、ランク申請が行われて上がる事がある」

「あんたのランクは何なの?」

「『S』だ。特殊ランクのクエストを除いて、全てのクエストを受ける事ができる」

「そこに関しては、流石チート持ちの冒険者ね」

「ただ前話した通り、俺の信用は失われているからな。このカードがあっても、クエスト申請は通らない」


 哀れな者を見る目で俺を見つめる。

 そんな顔をするなと言おうとしたところで、彼女は話を続けて誤魔化してきた。

 

「それじゃあ、この下の空白の欄は何なの?」

「……使える魔法が記載される。それもクエストを挑む上でよく確認されるところだ。毒の森なら状態異常を緩和できる魔法を所持しているのかどうか、とかな」

「……なら貴方のカード、文字でびっしりなんじゃないの?」

「いや、記載するのが面倒になったのか、∞と描かれている。これで本来は何処のクエストに行けるわけだが、先程話したとおり、」

「もう良いわ、哀れ過ぎてとても聞いていられない」


 彼女はその後、俺の代わりに良さそうなクエストがないか確認しに行ってくれた。

 すると暫くして、何やら腹正しそうにこちらへと近づいてきた。

 

「ていうか何で、さっきから私1人で行かせるわけ?貴方もついてきて教えなさいよ」

「別に良いんだが……ここ最近、俺の悪い噂が飛び交ったせいで、何故か皆俺を恨んでいるんだ。目立つ場所に立てば、喧嘩になるかもしれないぞ?」


 彼女はゆっくりと辺りを確認して、俺に向けられている敵意丸出しの視線を、ようやく認識したみたいだ。


「貴方……どこまで嫌われてるのよ」

「俺自身もそう思う」


 俺は彼女がそう言った揉め事を嫌うと思い、ずっと出入り口の前で待っていた。


 けれど彼女は予想外な行動を取り始める。


 俺の胸ぐらを掴んで、クエスト申請用紙が貼られているクエストボードのところまで引っ張って行こうとするのだ。

 それは部屋の中央に位置する場所にあり、一番目立つ事になるところだ。


「良いのか?喧嘩になっても知らないぞ?」

「あんた昨日、自身と信念は曲げるなって、私に生意気に言ってきたでしょ?貴方自身がそうしないでどうするのよ」


 俺はいっぱい食わされたと思いながら、その発言に笑いで返した。

 こいつはやはり面白い奴だと思い、俺は彼女に手をどかすように伝えて、自分の意思で彼女と共に歩き始める。


「お前のいう通りだな。これからは迷惑を考えず、自分の好きなようにやっていく事にする」

「限度はわきまえなさいよ。私もそうするから」


 そうしてクエストボードの前に立ち、向けられる視線を気にしないまま、共に受ける始めてのクエストを選び始めたのだ。

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