第三十四話①
手を広げながら魔法を発動させる。
物体を生成させるといった、基礎的な魔法でありながら、それに何層もの特殊な魔法を組み合わせていき、俺は自身の顔を隠す為のマスクを生み出した。
本来は防具として扱うものが故に外装は固く、銃弾すらも貫通できそうにない重みがある。
どす黒く、明らかに敵側の人間であるといった見た目のそのマスクは、今から行う作戦にうってつけだ。
「……始めるか」
辺りに誰もいない事を確認してからマスクを装着し、俺はゆっくりと空へと浮かび上がる。
城のてっぺんと同じ高さまできたところで、俺は特別な魔法を発動させた。
雲ひとつない空に黒い雲を出現させて、大量の雨を降らせる。それと同時に、建物や土地全体が揺れるような防風を巻き起こして、俺は高らかに笑い声を上げた。
それを合図かのように、街は途端に騒がしくなっていく。
何が起きたのか、一体この街で何が起ころうとしているのか、その原因を皆は探しているみたいだ。
そして皆は次第に、その原因となるものを見つけだしたかのように、一点に視線を集中し始めた。
そう、それこそが当然、俺の事である。
建物の中から窓を使い、あらゆる人物が俺に注目し始める。
そして風に煽られながら、城の中から大量の兵士たちが姿を現した。
自分は外に出ず、国王は城の中から俺の事をじっと不安そうな顔で見つめてきている。
「貴様は何者だ! 応えろ!」
偉そうな態度をした兵士の、馬鹿な質問には答えずに、俺はじっと黙って魔法を発動させ続ける。
「この事態を引き起こしたのは貴様か!? 応えろ!」
すると次は、見知った顔をした女騎士が俺にそう問いかけてきた。
やはり……王国騎士長か……。
俺はこの質問には答えようとしたが、質問の相手が誰なのか確認した後、それが少し面倒になり始めた。
今の俺は、城に攻めてきたマヤトとしてではなく、謎の仮面を被った化け物として、この国を混乱の渦に沈めなくてはならないのだ。
この女に正体をバレるわけにはいかない。
「作用……わ、我こそが、この偉大なる魔法を使用したのだ」
一人称を変えながら声を低くする事で、何とか正体をバレないようにする。
仮にバレてしまったとしても、シラを切るほかない。
この状況で、何も口にする事なく暴走を続ける事は出来ないからな。
仮にバレてしまっても仕方のない事だ。




