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第三話

「パーティって何?……つまりは一緒に冒険がしたいって事?」


 私は距離を離すように手ではらいながら、冷静に相手に問いかける。

 

「その通りだ。この世界を周り、放棄しようか悩んでいた魔王退治を実行する」

「それはあんた個人の目的でしょ?巻き込まないで」

「何も無条件で巻き込もうとしてるわけじゃない。あくまでも、それぞれの目的の為だ」


 生き生きと私を勧誘し続ける彼に、疑問を感じつつも、相手の発言に興味を示し始めていた。


 出会った時は口数が少ない人だなといった印象だったが、今は妙に饒舌になっていて、私の質問にもしっかりと答えてくれる。


 私自身、今後どうするかについては悩んでいた。

 彼とパーティを組むのも悪い気はしない。

 だが今一つ、私を熱心に誘う理由が分からず、彼に対して不信感を抱いてしまっていた。

 

「それぞれの目的って?」

「お前は男達に、見返してやりたいんだろ?魔王を倒した偉大なパーティの1人となれば、きっとそれも叶うはずだ」

「ふーん、そういうことね。確かに威張った顔で、彼らの前に立てるけど、まだ何か足りない気もするわ」

「なら冒険の途中に、あらゆる偉業や功績、地位や名誉、そして富に力を手にすればいい」


 やはり悪くない提案だ。

 断る理由が今一つ見当たらないくらいには、魅力的な提案かもしれない。

 彼の実力が嘘じゃなければ、今後苦労することも少なくなるだろう。

 だがそれが故に怪しいと感じてしまう。

 上手い話には、いつだって裏があるものだ。


「何が不満なんだ?……いや、不満というよりも、俺を信用していないみたいだな」

「……悪いけどそうね。出会ったばかりの男をすぐに信頼できるほど、心の綺麗な人間じゃないから…散々男達に、酷い目に遭わされたわけだしね」


 本来、それとこれとは話は別だ。

 あの件に関して彼に非はないのに、嫌な言い方をしてしまった。


 だが彼はそんな事に全く気にする様子を見せず、依然として楽しそうにしながら、私に交渉を続けてくる。


「それじゃあ、何か質問でもしてくれないか?何でも素直に応えてやる」

「そうね……何故私を誘ったのかしら?それが知りたいわ」

「そんなの簡単だ。パーティというのは、同じ境遇の者が組むというのは鉄則だからな。それに従ったまでだ」

「境遇が同じだから、それだけ?」

「いや、それだけじゃあないな。目的も共通しているところがある。それぞれ無駄のない冒険が出来るだろう」

「他には?」


 意地悪かもしれないが、私は質問を続ける。

 これは無駄な事ではない。これからの事を考えると、必要な事なのだ。


「後はそうだな…お前の心意気に惚れた」

「……は?」


 試すような事をしていたのに、とんでもない発言が飛び出してきてしまい、私は驚きのあまり声が溢れた。


 急にこの男は何を言い出しているんだ。

 人間という生き物自体を馬鹿にしていたような人が、急にこんな事をいうなんて、どう言った風の吹き回しだ。

 

 余計に怪しく感じてしまうと同時に、よくこんなにも恥ずかしい事が言えるなと思い、私は少々呆れた態度をとってしまう。


「お前の話を聞いて確信した。お前とならやっていける。自分の中の正義を一度を曲げてしまったみたいだがそれも大丈だ。その失敗を得て、2度と同じ過ちを犯す事は無くなっただろうからな」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。惚れたって何?それは恋愛的な……話?」

「恋愛かどうかはわからんが、気に入ったという事だ」

「騙そうとしてるんじゃないでしょうね?」


 私ははっきりと、言葉にしてそう伝えた。

 こんな発言をされて仕舞えば、良くも悪くも本音が見えてくるはずだ。

 自分に人を見る目があるかは分からないが、今はこれで判断する他ない。


「お前なんぞを騙して何になる?力もなければ金もない。ここで騙して無理に連れて行く理由が、何かあるのか?」


 ぐぅの音が出ないような事を言われてしまった。

 それもそうだ。はなから私を騙す理由など、ないじゃないか。

 何を私は勘違いしていたんだろう。

 調子にのっていたのは私の方だったのかもしれない。


「そうね。今の私には何もない…酷い発言ばかりして悪かったわね」

「…みっともない謝罪なんてするな」


 ここで彼は、初めて表情を崩した。

 それは怒りを感じているような、眉間に皺を寄せて、私を睨みつけてくる。


「な、何よ…?」

「お前の魅力…つまり力は、その自身と信念だ。それを曲げるような真似を2度と見せるな。お前は何事も自分の正しと思った事だけを実行する。そんなエゴイストのままでいろ」


 まだ数時間しか話していないのに、何故私を知ったような口を聞いたいるのかといった怒りを感じてきたが、相手に言い返す言葉がない事に気がついた。


 私の自身や信念などといったアイデンティティは、異世界にきてから失っていっていた。

 

 それに気がついて、自分という人間がどう言った人間だったのか、どうやって生きてきたのかをはっきりと思い出し、ようやく異世界にきて初めて、自分という人間を、取り戻せた気分になった。


「幸か不幸か、俺たちは異世界で蘇った。これが幸せだったと言えるような、そんな旅をしよう。俺についてこいアカリ」


 そう言って彼は真っ直ぐに私を見つめてきた。

 何とも臭いセリフだ。痛々しくもある。

 だが、嫌いじゃない。


「……わかったわ。私の目的である、あいつらを見返してやる事も、あなたの目的である魔王退治も、共に頑張りましょう」


 そう言って握手を交わすように、私は手を差し出した。

 だが相手はその手を取らずに、不思議そうに私を見つてくる。


「ん?何か勘違いしていないか?」

「勘違い?何か間違った事を言ったかしら?」

「俺の目的についてだ。俺の目的は、魔王退治じゃないぞ?」


 何を言い出しているのかと思った矢先、相手は宣言するかのように、大声で自分の目的を話し始めた。


「俺の目的は、俺自身のハーレムを作る事だ。俺を慕い、尊敬し、そして尽くしてくれる。そんな理想のハーレムを、俺はつくるんだ!!!」


 こいつの事がわかった気がした。

 いい年した中二病で、自己中心的で性格が悪い、ただの馬鹿みたいだ。

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