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2 後編

「?」

「?」

 ・・・・・・・

 意味がわからない。


「あの・・・。し・・・神官さんが、乗って来るって・・・?」


 いま話している神官の人は、目の前にいるんだけど・・・?

 いま『私』って言ったよね?


「ああ、そうだね。君たちにはちょっとわかりにくい話だよね。」

 困惑した顔をしている2人に、神官はまた優しげに微笑んだ。

「私はここにいるのに、なぜ7日後に地球に着く宇宙船ふねにも『私』が乗っているのか? って話だよね?」


「ええっと、神官さんは・・・」

 神官は2人で1組で、ずっと昔に別れたもう1人が帰って来るんだろうか?

 リオンはまず、そんな仮説を立ててみた。


 神官は人間みたいに死んだりしない。

 だから、大昔に別れたもう1人と再会するってことはあるのかもしれない。

 でも・・・、それは、『もう1人』であって、『私』ではないはずだよ?


「呼びにくそうだから、名前でいいよ。今は『神官』なんて呼ばれてるけど、私の名前はスワニ。賢者の身体ボディのお世話をするのが本来の仕事なんだ。」


「賢者は神殿の中に住んでいるんですか?」

「そうだね。正確には神殿が賢者の身体からだなんだけどね。」


「詳しいことは、リオン、君が宇宙船そらふねに乗れる年齢としになったら、またちゃんと説明してあげよう。君は好奇心も強くて頭もいいようだから、きっと理解できるだろう。

ああ、そうだ。やってくる宇宙船そらふねに私が乗っていることについてだったね。」


 そう言って、スワニ神官は、はるか昔の話を2人にしてくれた。




 ずっと昔、君たちが生まれるずっとずっと前だ。

 この地球には7人の賢者がいた。つまり、7つの神殿があったんだ。

 そのうち6人の賢者は宇宙へと旅立った。

 地球型の生命が生きられる惑星ほしを探すために。

 地球の生態系と人類を見守るために、この地球には賢者シャロンが残った。

 『生態系』ってわかるかな?

 ああ、そうか。ちゃんと勉強してるんだねぇ。


 『神殿』はもともと、50億人の人間の意識を入れる機械の身体うつわだったんだ。

 その意識が少しずつ統合されてゆき、最終的に7つの意識になったんだね。

 それが『賢者』だよ。


 それで、賢者の身体ボディである『神殿』の維持メンテナンスのために、私は神殿の外に残ったんだ。

 それぞれの賢者に50体ずつ。

 身体からだはたくさんあるけれど、意識は1つ。私なんだ。


 その身体ボディの1つが地球に帰って来るんだよ。

 君たちと同じように、肉体を持った人間——向こうで受精卵から始まった人類の子孫だね——その代表と一緒にね。


 遠く離れていた身体ボディ間の通信が再び始まったから、いま私の意識は忙しいよ。

 なにしろ、1万年分の歴史と記憶を共有しなくちゃいけないんだからね。




 スワニ神官はにこにこと話してくれているけれど、それはリオンにはちょっと想像の追いつかない話だった。


「全部自分、って、どういう感じなの? いまぼくと話してるスワニさんの他に、何人ものスワニさんがいるの? その人たちは、ぼくとお話ししてるわけじゃないんでしょ?」


「ふふ。そうだねえ。1つの身体からだに1つの意識のリオンには、ちょっと想像できないかもねぇ。何人も、じゃなくて、何体もの身体ボディはあるけど、私は私。ちゃんとリオンと話しているよ。」


宇宙船そらふねの中のスワニさんも?」

 と、そこがリオンにはいちばん不思議だ。


「うん。だって私だもの。」

 そう言ってスワニさんが笑うと、たまたま神殿の階段を下りていた神官——あの人もスワニさん?——が、片手を上げてリオンに微笑んだ。


「それぞれの身体ボディは、それぞれ違う動作はしているけどね。たとえば、宇宙船そらふねの中の私は使節団のカシュガと話しているよ。地球にはリオンという宇宙船そらふねに乗りたい男の子がいるよ——ってね。」


 同時に違うお話なんてできるものなんだろうか? とリオンは思う。

 サニアなんか、ぽかーんと口を開けて、すっかり話についていけてない感じだ。


「それもまあ、この機械の身体ボディ能力スペックがあればこそ、できることなんだけどね。」


 空をゆく鳥の影が、スワニとリオンたちの間をさっと横切った。


 リオンは、ふとスワニさんが羨ましいような気がした。

「ぼくも、スワニさんみたいな機械の身体からだが欲しいな・・・。」


 スワニさんはリオンの頭の上に手を乗せた。

 ひんやりした手だった。


「この温かい肉体で、生きて、成長して、そして老いて・・・。それから、神殿に合流するか、そのまま大地に還るか、選んだらいいよ。君はまだ子どもなんだから。」


「んーと、そういうことじゃなくて・・・。」

 リオンは少し考えてから言った。

「スワニさんみたいにたくさんの身体があったら、どんな感じがするのか知りたいんだ。」


 リオンは果てない身体を欲しがっているのではなく、好奇心を満たしたいと思っているようだった。

 かつて、賢者ダンもそれを望んだことがあったな——。と、スワニは思い出した。


「意外と孤独なんだよ。」

 そう言って、またスワニ・ロビタは微笑んだ。


「たくさんいても、私は私だけなんだから。」





        了



そうです。

お気づきの方はお気づきだと思いますが、これは『夢見る機械』の後日談です。

6賢者が宇宙へ飛び立って、また随分と時間が経った地球のある日の出来事のスケッチみたいなものです。

それにしても、たくさんの身体で1つの「私」という意識って・・・、どういう感じなんでしょうね? (*´ω`*)


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― 新着の感想 ―
[良い点] アイスクリームのバルクがひとつの人格だとして、そこからディッシャーで掬われ、カップやコーンに入って分かれていくそれぞれのアイスの意識はどうなってるんだろう? と、以前から思っておりましたが…
[一言] リオンの少年らしい素直な好奇心が眩しくて、スワニと同じく私も微笑ましさを感じさせて頂きました。 『夢見る機械』の世界と繋がっていたのですね。 あとがきで仰っている通り、たくさんの身体がひとつ…
[良い点] なるほど、あの未来の先にこの話があるのですね(*´Д`*) あいかわらず不思議な世界観を作り出すのがとても上手ですねぇ…… ほのぼのとしてるけど、どこか知的な空気があって、面白かったです!…
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