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1 前編

しいなここみさんの『宇宙人企画』参加作品です。

平和なお話です。

安心して読んでください。。(^^;)

「宇宙人が来るんだって。」

 小川をぴょんと飛び越えてきたサニアが、目を輝かせてリオンに言った。


 サニアはリオンより1つ下の7歳。

 栗毛色の柔らかな髪に、よく動く鳶色の瞳を持った活発な女の子だ。


 太いムクルルの木の根元に座って空を見ていたリオンは「宇宙人」という言葉に思わずサニアを見上げていた。

「宇宙人?」

と聞き返す。


 リオンは髪がカラスのように真っ黒で、瞳も夜空のように真っ黒な男の子だ。

 サニアを見る時、空を見上げる時、その瞳はキラキラとよく輝いた。夜空に星が(きら)めくのと同じように。


 サニアはそんなリオンの瞳が好きで、小さな頃からリオンの行く先々にころころとくっついて回っている。


「うん。宇宙局の人が言ってたんだ!」

 サニアはリオンがこの話題が好きなことを知っていて、リオンを喜ばせようと思って今聞いたばかりの最新のニュースを抱えて走ってきたのだった。


 宇宙局。

 それは、人間が月や星の世界に行くための「船」を造っている研究所。


 船は長い年月をかけて、少しずつ実験を繰り返し、いよいよ完成を見ようとしていた。


「船に乗るんだ。」

 というのが、リオンの夢だった。


 この地球を、宇宙そらから見てみたい。

 リオンはサニアにも大人たちにも、その夢をいつも瞳をキラキラさせながら話していた。


「いっぱい勉強しなきゃね。」

と学校の先生は言う。

 もちろんリオンは本気だから、よく勉強していた。

 地球が丸いことも、太陽のまわりを回っていることも、月が地球のまわりを回っていることも、リオンは学校に入る前から知っていた。


 そんなリオンは、きっとこの話を喜んでくれるに違いない。

 そう思って、サニアは話を聞いてからどこにも寄らずに、真っ直ぐリオンのところに走ってきたのだ。

 リオンはきっと、いつものムクルルの木の丘にいるだろう。


「誰から聞いたの?」

「宇宙局のリンゲさん。リンゲさんは、神官から聞いたんだって!」

「じゃあ、ご神託?」

「うん・・・。だ・・・と、思う・・・。」

 サニアもちょっとはっきりしない。


 普通、ご神託は人間の方から問いをたてない限り、出ないものなのだ。

 神殿の方から出てくるというのは、とっても珍しい。

 第一、ご神託なら首都政府が発表するはずなんだけど、それはまだ聞かない。


 リオンは、んしょっ、と立ち上がった。

「リンゲさんに聞きにいってみる。」

「サニアも行く!」



「他には言いふらしてないよね?」

 リンゲさんはちょっと困ったような顔で2人に言った。


「言ってないよ。リオンにだけだもん!」

「ならいいけど。いや、別に秘密ってわけでもないんだけど、政府がまだどう発表するか困ってる段階みたいだから・・・。」

 そう言ってリンゲさんは、口の前に指を持ってきた。

 「とりあえず、まだ2人だけの内緒ってことで。」

 政府発表の前に子どもが言いふらして回った、とあれば、子どもに漏らしたリンゲは後で大目玉をくらうかもしれない。


「神官には聞いてもいい?」

 リオンが言う。

 もともと神官から出てきた話なんだから、神官にもう少し詳しいことを聞くのは構わないだろう。

 それは、地球の首都ルクキラにいる者の特権ともいえる。

 神殿のあるルクキラには神官が多いのだ。


「ああ、いいともさ。」

 そう言ってから、リンゲさんはちょっと意地悪そうな笑顔を見せた。

「神官が、子どもを相手にしてくれればね——。」


 大丈夫さ。

 とリオンは思う。


 ぼくは将来の宇宙飛行士なんだ。

 子どもといったって、宇宙そらへ行く船に乗る候補生なんだ。

 宇宙人については知っておかなくちゃ。


 しかし神殿のそばまで行って、透き通るような銀色のケープを羽織った神官が歩いてくるのを前にすると、さすがにリオンは気後れしそうになってしまった。

「ほら、神官来たよ。」

とサニアがリオンの背中をつつく。


「あ・・・あの・・・」


「おや。きみはたしか、リオン? 宇宙船そらふねに乗るって言ってる子だね?」

 意外にもその神官はリオンのことを知っていた。


(うわさ)を聞きつけたのかな?」

 神官はちょっと腰をかがめて、優しげな笑顔でリオンの黒い瞳を覗き込んだ。


「あ・・・あの・・・、ぼくのこと、知ってるんですか?」

「ふふ・・・。そりゃあ、このルクキラで『船に乗る!』って宣言してる子どもっていったらリオンくらいしかいないもんね。前にもちょっと話してるし——。」


 そういえば——。とリオンは思い出す。

 1年ほど前、神殿の儀式で神官に花束を渡す役を担ったことがある。

 確かにその時、その神官はちょっとお話ししてくれたけど・・・。

 あの時の神官がこの人なんだろうか?

 神官はみんな同じ顔をしているから、区別がつかない。


「あの・・・」

とリオンは思い切って話しかけた。

「宇宙人が来るって、聞いたんですけど・・・」


「ああ・・・」

と神官は、透きとおった笑顔を見せた。

「うん。あと7日ほどで着くよ。『宇宙人』というのは、正確ではないんだけどね。」


「宇宙人ではないんですか?」

「そうだね。宇宙から来る——という意味では『宇宙人』かもしれないけど、彼らは遠い昔に別れた地球の人間の兄弟なんだ。」


「それは、神殿の賢者のご神託なんですか?」

 あらゆることを知っている賢者だから、7日も未来のことがわかって、それを神官に告げたのだろうか?

 リオンもサニアもそう思った。


 ところが神官は、少しはにかんだような笑顔を見せて、意外なことを言った。


「私が知ったんだよ。それでそれを賢者に伝えたら、賢者もとても喜んでいた。」

「神官さんが、賢者より先に?」

 リオンは思わず聞き返した。


「うん。だって、その宇宙船ふねに私も乗って来るんだもの。」



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