第94話 再会
「え~と皆さん。長い間休憩中でごめんなさい」
『魔王の憩所』から出て、プライベート・コールを解くとボクは配信を見ている視聴者さんたちに謝罪する。『魔王の憩所』内で『奇跡の欠片』のチャンネルを確認したら、何人かの方が今も同時視聴してることに気付いたからだ。何日もの間、ずっと放置していたのにも関わらず見てくれている人がいたことに感謝の念を覚える。
「いろいろあって探宮をずっと中断してしまい申し訳ありません。さらに申し訳ないことに、これから外せない用事が出来てしまったので、今回の探宮はこれで終了したいと思います」
ボクはオルクス越しに見ている視聴者さんたちに、もう一度深々と頭を下げた。他の面々も謝罪の面持ちで同様に頭を下げる。
「あと、ネットでバズっている例の噂については、近日中に何らかの形でお話をしたいとは考えていますので、もうしばらくお待ちいただけると嬉しいです」
これについても、これから会う謎の人物との会合次第でどう転ぶかわからないので、ふわっとした回答をしておく。
「それでは、以上で配信を終了したいと思います。今回、このような虚無な配信を視聴していただいた皆さんには本当に感謝申し上げます。ありがとうございました」
一礼してヴォイヤーの配信を停止するとボクは『始まりの間』へと目を向けた。『魔王の憩所』の出入口は自由に設定できるので、今回は相手と会う約束していた『始まりの間』に直接繋ぐことにしたのだ。
そして、ちょうど配信を終了したタイミングで『始まりの間』に現れた人物にボク達は注目した。
ん? 思ったより背が小さい?
……ってか、子ども?
近づいてきたのは、一見すると小学校高学年か中学生と見紛う可愛らしい女の子だった。ピンクの髪を左右のお団子にした魔法少女のコスプレのような恰好で、ある種の界隈の人にぶっ刺さる容姿だ。
でも待てよ、探宮資格は16歳以上だから、あの姿でも高校生以上なのは確実な筈だ。合法ロリ……いや18歳未満かもしれないから、やっぱり違法か。
ちなみに前にも言ったけど『迷宮変異』は別人に変身する訳ではない。角や耳など多少のニュアンスの変化はあるが、本人とさほど変わらないビジュアルをしている。
年齢についても同様で、素の本人の年齢に左右される。蘇芳秋良なんて、『迷宮変異』してもイケオジである(ちょっとズルい)。なので、目の前の人物の実世界の姿も今見えている姿に酷似しているわけで、どう見ても蘇芳秋良に会合を提案したきた相手とは、とうてい思えなかった。
けれど……。
「こんにちわ。『奇跡の欠片』の皆さん」
どうやら、本当に蘇芳秋良が会って欲しい人物のようだった。
「どうぞ、こちらへ。ここでは目立つので場所を移しましょう」
声は容姿からのイメージと違い、少し低めで落ち着いていた。原作付きアニメなら声が合っていないと批判されそうだ。
はて? どこかで聞いた声のように思えるけど、思い出せない。どこで聞いたんだろう……。
案内されたのは先日も取材で使用した会議用ブースだ。全員が着席するのを見届けると謎の中学生さんが口を開いた。
「今回はご無理を言って、申し出を受けていただきありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございます。蘇芳……秋良さんの話ではボクにとって悪い話ではないそうで……」
蘇芳さんと言いかけて、朱音さんもいるのでフルネームで言い直す。
「では、さっそく……の前に私が誰かを言わないとフェアではありませんね」
ボク達の訝し気な視線を感じて、謎の中学生さんはニコリと微笑む。眼差しにわずかな妖艶さを感じ、やはり見た目と中身は違うんだと気付かされる。
「私は……うむ、どうも言い慣れない一人称はやりにくいの」
謎の中学生さんは話し出そうとして言い淀む。
「どうせ、腹を割って話すのじゃから、普通にしゃべるとしようかの」
そう言うと可愛らしい印象が消し飛んで、ふてぶてしい表情に変わった。
「わしはオリエ……『オリエ・アルブ・スティグリ』と言うものじゃ。よろしくな」
の、のじゃロリだと……。
ますます界隈の人が喜ぶ属性じゃないか。
ん? 待てよ。どこかで聞いた名前なような気が……。
「あんた、本当にあの伝説の魔法少女『オリエ』なのか?」
探宮者オタクの朱音さんの驚く声にボクも思い出す。
URクラスの魔法少女『オリエ』、異界迷宮探宮の黎明期に活躍した探宮者だ。数々の伝説を残して引退したと聞いている。
そして、今では……。
「伝説の魔法少女『オリエ』さんってことは、迷宮協会名誉会長の『オリエ』さんですか?」
「そうじゃの。今では魔法少女よりそっちの肩書の方が有名かの」
オリエ・アルブ・スティグリ迷宮協会名誉会長……全世界の迷宮協会の元トップで、『国際迷宮機関《I・L・O》』の理事の一人だ。
えっ……ということは確かご高齢な筈だから。
「正真正銘の『ろりババァ』だと!?」
「ん? 何か言ったかの」
「いえ、何も……」
「誰が『ろりババァ』じゃ、耳は遠くなっておらんわ」
ボクの失言にオリエさんが睨みつけてくる。
「ご、ごめんなさい」
ボクは慌てて平謝りする。蒼ちゃんからも女性に年齢の話題は禁句と何度も釘を刺されていたっけ。
「まあ、つくも君とは『初めまして』では無いので今回は許してあげんでもない」
「それはどうも……ん? 初めましてじゃない?」
そう言えばどこかで耳にした声だ。
「どこかでお会いしましたっけ?」
「お会いも何も仲良くお話しした挙句、命を助けてもらった仲ではないか」
「命を助けた…………ああ、あの時のお婆さん!」
道に迷っていたお婆さんを道案内してたらフルフェイスの暴漢に襲われるという謎な事件があったっけ。確かにその時のお婆さんに声がそっくりだ。
「え、でも……見た目の年齢が……」
「細かいことは、どうでもええじゃろ。それより、わしはお前さんと大事な話をしに来たんじゃ」
オリエさんは真剣な表情でボクを見つめた。
「つくも君、お前さん。『国際迷宮機関《I・L・O》』の管理下に入らんか?」
な、何ですと?
第94話をお読みいただきありがとうございました。
はたして相手からの提案はどんな意味なのか?
つくも君の選択は……。
次回をお楽しみに(>_<)
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よろしくお願いいたします。




