第81話 1階層主
「まずは雑魚を片付けるぞ。ラピス、シロ一緒に前衛をしてくれ。クロウは奇襲攻撃、リーフはあたし達が接敵するまでに魔法攻撃を頼む」
「わかったわ」
「OKです」
「了解だ」
「お任せください」
リーダーの朱音さんの指示で一斉に動き出す奇跡の欠片。すでに自分の役割を認識しているメンバーの動きには迷いが無かった。
「火炎弾!」
走りだしたボク達の後方から翠ちゃんが遠距離魔法攻撃を放つ。低レベル魔法のため敵を殲滅するような威力は無いが、唯一の範囲魔法なので、団体戦に有効な魔法だ。
「グルルッ!」
「ウギャッ!」
「ナギャ!」
コボルトキャプテンを中心に雑魚コボルトを巻き込んだ炎の弾丸はそれなりのダメージを与えたようだ。けれど、さすがに一匹も倒れてはいない。
が、その間にボク達は間合いを詰めて雑魚コボルトを近接攻撃の範囲に収める。コボルトの三匹を朱音さんが二匹をボクが受け持つ。プレートメイルに盾というパーティー屈指の防御力を誇る蒼ちゃんがコボルトキャプテンに相対した。
気が付けば、いつの間にか玄さんの姿が見えなくなっている。
あれ? どこにいるんだろう……と思った次の瞬間、コボルトキャプテンの背後に玄さんが現れ、奇襲攻撃を食らわせた。
「スナイプ・ショット!」
部屋の灯りが届かない暗がりに潜んで意外なところから奇襲攻撃を行う暗殺者の特殊攻撃だ。
「グゴォォオ……」
かなりのダメージを負わせたようだが、残念なことに特殊攻撃は初手の一回しか使用できないのだ。
「後は、リーフの護衛しながら、弓で攻撃する」
そう言うと玄さんは翠ちゃんの近くまで後退していった。
「ふんっ!」
朱音さんの両手剣が振り下ろされ、コボルトAが袈裟切りにされる。コボルトAは声も上げずにドサリと後ろに倒れた。いくら、翠ちゃんの魔法攻撃があったとは言え、一撃で倒せるとは思えないのでクリティカルヒットが発生したのかもしれない。
蒼ちゃんはコボルトキャプテンを警戒しながら、ボクの前にいるコボルトDに片手剣で攻撃したが惜しくも回避された。
ボクはと言うと、目の前のコボルトEを攻撃することにする。市販品のショートソードで斬りつけるが、難なく命中した。しかも朱音さんと同様、一撃で相手を倒してしまう。
それは当然と言えば当然の話で、現在ボクのレベルはコボルトキャプテンの一つ上のレベル5相当になっている筈なのだ。たぶん今、与えたダメージもオーバーキルもいいとこなのだろう。戦闘中に手を抜くようなことは避けたいが、魔王スキルがバレないように今後は多少の調整が必要になるかもしれない。
同時にコボルト側の反撃もあり、朱音さんが多少ダメージを負い、蒼ちゃんはコボルトキャプテンの攻撃を盾で弾き返した。もちろん、ボクにもコボルトD、コボルトEの攻撃が集中したが当たることは無かった。
後退した玄さんは短弓に武装を持ち替え、コボルトキャプテンに弓を放ち、翠ちゃんは『マジックアロー』3本を頭上に発生させ、残っている雑魚コボルト達に投射する。残念ながら玄さんの攻撃は有効打にならなかったが、翠ちゃんの魔法はことごとく雑魚コボルトに命中した。まだ倒れるには至っていないが、もはや虫の息に近いようだ。
そして、次のボク達の攻撃で残った雑魚コボルトは全て倒され、階層主であるコボルトキャプテンだけが残った。
コボルトキャプテンは玄さんの奇襲攻撃を受けただけなので、まだかなりのヒットポイントを有しているようだ。
けど、一対五なので負けることはないだろう。
……と、思ったのだが、コボルトキャプテンは意外としぶとかった。
まず、防具を着込んでいるのとレベル差なのかダメージがなかなか通りにくい。さらに、一打一打が重く前衛の朱音さんと蒼ちゃんへのダメージもけっこう馬鹿にならなかった。聖騎士の『聖なる盾』や守護者の『結界防御』という固有スキルがあるので、死ぬようなことは無いと思うが、万が一にもクリティカルヒットでも出れば危ういことになりかねない。
なので、ボクもなるだけ前に出てコボルトキャプテンの攻撃を受けることにした。ボクにはかなりの敏捷力があるので、いわゆる避けタンクと言われる役割が担えるのだ。もちろん、防御力は紙装甲なので一打でも食らうとアウトになるのは、お約束なのだけど。
蒼ちゃんもそのことを知ってるため、しきりに下がれと目で訴えて来たけど、あえて無視させてもらった。だって、蒼ちゃんを守るのはボクの信条だから。
まあ、実際に食らいそうになったら空間魔法を身体の周りに展開してノーダメージにするつもりなので、たぶん安全だと思うしね。
やがてボクの介入が功を奏したのか、二人の攻撃は徐々にコボルトキャプテンを追い詰めていった。
そして……。
「グランド・スマッシュ!」
「神の鉄槌!」
朱音さんと蒼ちゃんの固有スキルによる最大攻撃がコボルトキャプテンに炸裂する。これにはコボルトキャプテンも抗しきれず、ついに膝を折って倒れ伏した。
「ふ~っ、ようやく1階層主を倒せたね、おめでとうフレアさん」
ボクがリーダーである朱音さんに笑顔で話しかけると朱音さんもほっとした表情で返事を返す。
「ああ、何とかな。思ったより、ずいぶん手こずった感はあるが……」
え? そうなの? 時間はかかったけど、割と楽勝に感じたけど。二人ともヒットポイントにも余裕あったし……。
「そうですわね。雑魚コボルトもそうですが、コボルトキャプテンは特に強い個体のように感じました」
翠ちゃんも同じように感じているみたい。
そ、そうなのか……ん、待てよ、通常のパーティーよりかなり強く、さらに今回レベル5相当のボクがいる『奇跡の欠片』を相手にこれだけ戦えたってことは、やっぱり手強かったと言っていいかも。
「確かパーティーレベルに合わせて階層主戦って調整が働くんじゃなかったっけ?」
蒼ちゃんが思い出したように言い、ボクをちらりと見る。
え? もしかしてボクのせいなの?
もし、それが事実だとしたら……。
「そうだな……そういう話は聞いたことがある。そうか、つまり『奇跡の欠片』はそれだけ強いパーティーってことか」
朱音さんは、少し嬉し気に納得したように頷く。
ご、ごめんなさい朱音さん。きっと、それボクのせいです。しかも、今後もずっとそうなる可能性が高いです……。
「まあ、それだけ強い相手と戦えるってことだから、フレアさんとしては願ったりじゃないの?」
「リーダーとしては頭痛いが、個人としては望むところだな」
蒼ちゃんのボクへのフォローに朱音さんはハッキリと肯定する。
うん、さすが戦闘狂。ボクとしては申し訳ないけど、本人が納得済みなら仕方ないか。
まあ、その分みんなのためにボクも精一杯、頑張るしかない。
「それよりフレア。宝箱やドロップ品が出てるが確認しないのか?」
玄さんの言葉が、みんなの心を現実に引き戻した。
「おっと、そうだ。とにかく、まず戦利品を確認しよう。クロウ、宝箱の罠感知と鍵開けを頼む」
「ああ」
「他のみんなは休憩してくれ。確認が終わったら、とりあえず……階層を下ってみよう」
そう言うと朱音さんは奥に見えている2階層へと続く階段のある部屋の扉に視線を向けた。
第81話をお読みいただきありがとうございました。
ボス戦ですw
戦闘、難しいですね(>_<)
ようやく階層主を倒せましたので、デビュー編は終わりと言っていいでしょう。
もしかしたら、少し時間軸が飛ぶかもしれません。
よろしくお願いいたします。




