第79話 それぞれの想い
喧騒を逃れD級迷宮に入るとボク達はホッとした。本来なら迷宮に入って緊張するところなのに、逆に緊張をほぐすというのは、なかなか無い経験だ。
「す、すごかったですね、シロ様」
「うん、びっくりした。ボク達、こんなにも人気だったんだって実感したよ」
翠ちゃんが驚いた表情で話しかけてきたので同意する。
「いえ、シロ様なら当然の話ですわ。同じパーティーでなければ
わたくしも絶対鑑賞しに来ましたもの」
「まあ、人気がある方が無いよりは良いだろう。アーカイブの視聴数もうなぎ上りだしね」
玄さんの目、¥マークになっていないよね。
「惜しむらくは校則で他の芸能活動に制限があることね」
出来れば、お金を稼ぎたい蒼ちゃんとしては少し残念そうだ。
「まあ、そう嘆くなラピス。高校生である期間は3年だ、卒業すれば自由に活動できるようになるさ」
先頭を進む朱音さんが振り返って蒼ちゃんに話しかける。
「そう言えば、皆さんの進路ってどうするおつもりなのですか?」
急に思いついたように翠ちゃんが疑問を投げかける。
そういや、ホントにそうだ。
今は全員が高校の探宮部で活動しているけど、将来はどう考えているのだろう。
プロの探宮者を目指すボクとしては興味がある。
「自分はまだ未定だな。この先も、行き当たりばったりの人生に決まってる」
普段なら、あまり自分ことを話さない玄さんが真っ先に答えたのが意外だった。けど、それにしても玄さんらしい答えと言うか。自由人過ぎるだろう。
「あたしは探宮者になるぞ、決定事項だ」
朱音さんは……まあ、そうだよね
「なんだ、シロ。その、『ああ、わかってます』って顔は」
「いやいや、フレアさん、いつも自分で言ってるじゃないですか。それに今から目標を持ってるってのは良いことだと思いますよ」
ボクも朱音さんと同じ気持ちですし。
「え、フレアさん、大学はどうするおつもりなのですか?」
「ああ、それについては母親から進学するように強く勧められている。あたしとしては高校を卒業したら、すぐにでも探宮者として本格化するつもりだったんだが、かなり反対されていてね」
朱音さんは少し不満げだ。
「どうせ探宮者になるんだし、大学4年間がもったいないじゃないか」
「でも、大学生活は決して無駄ではないと思いますし、大学生をしながら探宮者として活動している方もいっぱいいるじゃないですか」
「うん、うちの母親もそう言ってる」
「まあ、普通はそう言うよね。選択として、それが真っ当な気もするし」
蒼ちゃんも朱音ママの意見に理解を示す。
「ふむ、みんながそう言うなら、少し考えるとするか……けど、あたしのことはさておきラピスやリーフはどうなんだ?」
「私? そうね……今もそうだけど、お金を稼ぐには探宮者が一番向いてると思うんだ。大学の授業料なんかも必要だから進学しても続けると思う。ただ、その先は……まだ未定かな」
まだ未定と蒼ちゃんは言うけど、将来の夢が小学校の先生になりたいってことをボクは知っていた。ただ、蒼ちゃんの成績だと学校の先生ではなく文科省とか教育行政に進む可能性もが高いような気もするけど。
「リーフは?」
「わたくしも大学に進学します。けど、ラピスさん同様、探宮者は続けたいと思っていますわ」
「まあ、そうだろうね。リーフの家は厳しいからな。それで、卒業後は親の会社に入るんだろ」
「いいえ、そのつもりはありません。自分の未来は自分で決めます」
朱音さんが何気なく問うと翠ちゃんはきっぱりと答える。
「リーフ?」
「だって、将来の独立資金を貯めるために、わたくしは探宮者をしていますのよ」
「え?」
朱音さんは初耳だったようで、かなり驚いている。
「リ、リーフちゃん、大丈夫? これ、配信にのってるよ! 親にバレちゃわない?」
蒼ちゃんが慌てて翠ちゃんを制止する。
「大丈夫です、ラピスさん。あの人達はわたくしに一ミリの興味も無いので、配信なんて絶対見ませんもの」
淡々と答える翠ちゃんの闇が、ちょっと怖かった。
「……そ、そうか。あたしも協力するよ……で、シロはどうなんだ?」
いま、明らかに無理やりボクに話題を変えたね、朱音さん。けど、ボクも翠ちゃんを取り巻くダークが怖いんで話を合わせるよ。
「ボク……もちろん探宮者として最奥を目指すよ」
あ、今絶対に配信の向こう側で吹き出したヤツいるな。
一般職が何言ってんだって笑ってるに違いない。
けど、元々のボクの夢が迷宮の最奥に挑むことだったし、今の状況の謎を解くためにも最奥を目指さなければならないんだ。
これは、誰何と言おうと成し遂げなくてはならないボクの想いだ。
「あと、ラピスちゃんが異界迷宮に挑み続ける限り、ボクはラピスちゃんを守るから」
ちょっと恥ずかしかったけど、これだけは譲れないし嘘も言いたくない。
「シロ君……」
「ゆ、百合の波動を感じます……」
蒼ちゃんは目を潤ませ、翠ちゃんは目をハートにさせている。まあ、ダークよりましか……。
「いいな、それ」
朱音さんは真剣な表情でボクに対して笑みを浮かべる。
「シロ、あたしと一緒に最奥を目指そう!」
◇◆◇◆◇◆
1階層は、ほぼ回り切った。階層主のいる部屋の扉を開ける鍵もすでに三つ揃っている。あとは階層主を倒して2階層に進むだけだ。
あ、一応異界迷宮の階層について説明しておくね。
各階には中ボスである階層主がいて、それを倒せば次の階層への階段が現れる仕組みになっている。また、その部屋に入るための鍵がその階層のあちこちに隠されていて、見つけ出さないと階層主のいる部屋に入ることが出来ないのだ。鍵の数は階層によって違い、1階層は3つらしい。
また、階層主を倒すとステータスに〇階層クリアと表示されるようになり、次回からは鍵なしで階層主の部屋に入れるようになる。つまり、階層突破者はクリアした階層を最短距離で踏破出来るが、階層主を毎回倒さなければならない仕様なのだ。面倒と言えば面倒だが、毎回アイテムが手に入るので、全くの損とは言えない。まあ、ギリギリで階層主を倒せる程度だと、次回も苦しむことも往々にしてあると聞くけど。
ちなみにパーティーに一人でもクリアしていない者がいると上記の特典を得ることが出来ず、鍵探しが必要になってしまうのも重要な点だ。
なので、2階層を突破しているボク(クリア表記は『魔王の風采』で隠蔽)がいても残りの全員が未クリアなため、当然鍵探しが必要なパーティーとなる。
「いよいよ、1階層主だな」
朱音さんが悠然と言った。
「ええ、たしか階層主は『コボルトキャプテン』でしたわね」
「全員レベル2(一人嘘)だから、大丈夫だと思うよ」
朱音さんの言葉に翠ちゃんとボクが念を押す。
「油断は禁物よ」
「気楽にやろう」
蒼ちゃんと玄さんも準備万端だ。
「では、階層主を倒して次へ進むぞ」
朱音さんは鍵を合わせ、階層主のいるボス部屋の扉を開けた。
第79話をお読みいただきありがとうございました。
リアルがボロボロです(>_<)
早く一年経たないかなぁ……。
無理せず頑張ります。
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