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第76話 予想外の反響


 金曜日の放課後、ボク達は明日の第2回目の迷宮探宮について部室で話し合っていた。


 一応、今日までの経過報告をしておくと、『奇跡の欠片』のMyTube動画の『よいね』や再生回数は、いまだに恐ろしい勢いで伸び続けている。現時点での初配信動画の再生数は20万回以上となり、チャンネル登録数も2万人を超えた。その反響の凄さにボク達は嬉しさよりも、戸惑いを通り越して恐怖さえ感じているほどだった。


 さらに迷宮協会を通じてパーティーリーダーである朱音さんのところへ複数の芸能事務所からオファーも来ているとの話だ。

 確かに『奇跡の欠片』はメンバー全員が女子高生で超がつく美少女ばかり、その上一人を除きほぼ全員がレアクラスという話題性に富んだパーティーだ。アイドル売りできると見込んでのオファーが殺到するのもわからないでもない。

 ただ、たった一本の動画でここまで劇的に状況が変化するとは、いまだに信じられない気持ちでいるのも事実だ。まるで長い夢を見ているかのような不安に駆られていると言っていい。


「周囲の連中が、あたし達を見る目は変わったが、あたし達自体は変わっていない。なら、いつも通り普通にやればいい」


 朱音さんは動じることなく、そう言ってのけた。さすが有名人の娘、発言に重みがある。おそらく幼い頃から『蘇芳秋良の娘』という注目を浴び続けてきた朱音さんにとって、他人の評価より自分がどうであるかの方に重きを置いているように感じられた。


「それと芸能事務所からのオファーだが、断る方向で良いか? 所属する前提条件として顔出しや歌手活動が含まれているからな」


 所属すれば、経費の面やマネジメントの問題について丸投げ……もとい、お任せできることがメリットだが、制約も多いらしい。なので、みんなの意思を確認して返事をしたいとの話だ。朱音さん的には商業活動より迷宮探宮を優先したいため、出来れば断りたい意向らしい。


「あの……顔出しの芸能活動はうちの学校のアルバイト禁止の校則に違反するのでは?」


 蒼ちゃんが、もっともな意見を述べる。


「む、そうか……そうなのか玄さん?」


「あおあお(蒼ちゃんのこと)の言う通りだね。『迷促法』※の対象外になるから普通に駄目だろう」


※『迷促法』――正確には『異界迷宮における探宮促進に関する法律』。国が迷宮探宮を国民に浸透させるために成立させた法律。この法律により16歳以上なら誰でも異界迷宮を探宮することができる。したがって、文科省ひいては公立高校も迷宮探宮を禁止することが出来ない。この点においては実質上のアルバイト解禁状態になっている。


 と言うことで、全員の意思確認するまでもなく芸能事務所のオファーを断ることに決定した。


 ちなみに彩芽さんの所属するメイズ・エンターテインメントはオファーしてきた芸能事務所に含まれていなかった。ただ、あの事務所は探宮者の意向を尊重しているので、望めば迷宮探宮だけの活動も許されていると聞いている。なので、あの事務所からのオファーがあれば所属することも不可能ではないのであるが……。


「では、迷宮協会を通じて断りの返事を送ることにしておこう。みんな、明日の探宮も頑張ろう。ああ……それと、このような状況だ。もしかして身近で不穏なことが起きるかもしれないので十分注意してくれたまえ。何かあればすぐにあたしか警察に連絡するように」


 ごめん、朱音さん。つい最近も起きてます、不穏なこと。いろいろヤバすぎて報告は出来ないけれど。



◇◆◇◆◇◆



「何これ……」


 『迷宮の扉(エントランス)』のある神殿の周りは、たくさんの人で溢れかえっていた。


 ボク達探宮部の面々は第2回探宮のため迷宮街にやって来たのだが、いつもとは違う人の多さに心底驚いていた。


「今日って何かイベントでもあったっけ、あおいちゃん?」


「確か何もなかったと思うけど」


 迷宮協会発行のカレンダーを自費で購入し、年間の行事日程に詳しい蒼ちゃんにも心当たりが無いらしい。


「いや、どうやら原因はあたし達のようだ」


「へ?」


 どういうことって? って朱音さんに聞き返そうとするが、周囲の声が耳に入って来る。


「なあ、今日って『奇跡の欠片』が探宮する日だったよな」


「ええ、配信でそう言ってました」


「俺、実物が見られると思って見に来たんだ」


「僕もそうです」


「何でも、『迷宮変異ラビリンス・メタモルフォーゼ』する前も相当な美少女だって話だろう」


「そうらしいです、期待しちゃいますよね」


「絶対、見てみたいよなぁ」


 こ、これはボク達目当てで集まった視聴者さん達ですか?


「みんな……いったん別れるぞ。連絡はあとでする」


 危険を察知した朱音さんが急遽別れて行動すると宣言する。


「了解ですわ」


「承知だ」

   

「つくも君、こっちへ」


「うん」


 朱音さんと翠ちゃんは連れ立って離れ、玄さんは単独行動、蒼ちゃんはボクの手を握ると人混みから離れるように移動した。


 現実世界にアイドルと見紛うような5人組が一緒に歩いていたら『奇跡の欠片』と身バレするのは必至だ。間違いなく朱音さんの判断は正しい。


 蒼ちゃんとボクは、とりあえず『迷宮の扉(エントランス)』のある神殿が見えるオープンカフェへと避難する。


「何だか凄いことになっちゃったね」


「うん、まさかだよ」


 飲み物を注文して落ち着くとボク達二人はしみじみとした調子で溜息をついた。


 ホント、予想外の展開でビックリしている。バズっているのは承知済みだったけど、ここまでの状況になっているとは、さすがに思ってもいなかった。


「そう考えると、つくも君の『魔王の憩所(いこいじょ)』って凄いよね。いつでも異界迷宮に入れるんだから」


「けど、出入りの証拠が残らないから怪しさ大爆発だけどね」


 確かに、と蒼ちゃんはくすくすと笑う。


 うん、蒼ちゃん笑顔が優勝! 檄カワです。


 たまにはこんな風に、まったりお茶するのも悪くないな……と思っていたらスマホに着信が入る。


 朱音さんからだ。


「え~と何々……急がなくて良いから迷宮会館に来てってさ」


「じゃあ、もう少しゆっくりしてから向かおうか」


「うん、そうしよ」


 朱音さん、迷宮会館に来いって言ったけど、何か打開策でも出来たのだろうか?


 ボクはミルクティー(コーヒーは苦手)を飲みながら、楽し気に話す蒼ちゃんに、すっかり見惚れていた。

第76話をお読みいただきありがとうございました。

今回も短めですみません。

実は4月に転勤したのですが、同僚と上手くいっていません(>_<)

精神的に参っているので、更新をお休みするかもしれません。

申し訳ありません。

高評価、感想、レビューなどいただけたら、元気が出るかも……。

よろしくお願いいたしますm(__)m

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― 新着の感想 ―
ダンジョン内も現実も、美女がもてはやされるのは良いことだと思いますよ♪
>>「何でも、『迷宮変異ラビリンス・メタモルフォーゼ』する前も相当な美少女だって話だろう」 明らかに個人の姿をネットに晒しそうな奴らが気持ち悪い。 しかしダンジョン外と姿が変わるとはいえ、探索をネ…
玄さんだけいっつも読み方忘れる問題( ˘ω˘ ) どうしても無理なようなら上司に相談するんだよ?
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