第75話 それぞれの報告
帰宅して晩御飯を食べ入浴した後、ボクはすっかり日常化した『魔王の憩所』で寛ぎの時間を過ごしていた。もちろん、蒼ちゃんも一緒だ。
「で、彩芽さんはどうだったの?」
ボクは気になっていた放課後別れた後のことを聞いてみる。彩芽さんとは、以前に蒼ちゃんとパーティーを組む件で、いろいろとあったので様子が気になるのだ。まあ、今回蒼ちゃんと一緒に会うことさえ、NGなのだから、関係性がわかると思うけど。
「うん? 駅で待ち合わせして夕飯奢ってもらいながら普通に話をしただけだけど?」
ボクが、やきもきしていることは蒼ちゃんに伝わっていないようだ。
「彩芽さん、何か言ってなかった? ボクらのこと」
何しろ、彩芽さんに対して「あおいちゃんとパーティーを組むの貴女じゃない、ボクだ」だなんて、あれだけ大見得を切った手前、彩芽さんが『奇跡の欠片』をどう評価しているのか気になって仕方なかったのだ。
「気になる?」
蒼ちゃんは少しだけ悪戯っぽい目でボクを見返す。
「……うん、気になる。あおいちゃんが言いたくなければ別だけど」
「どうしよっかなぁ…………噓嘘、ちゃんと話すから」
情けない顔でもしていたのだろうか、蒼ちゃんはボクを見て慌てて言い募る。
「彩芽さんはね、凄く褒めてたよ。みんな落ち着いていたし、動きも新人離れしてるって……まあ、ほぼ私のことばっかり褒めまくってたけどね」
「そうなんだ」
「私以外だと、特に朱音さんに注目してたかな」
まあ、朱音さんは目立つ存在だし、パーティーリーダーだからね。
「全体的に安定しているし、パーティー編成のバランスも悪くない。あれが初探宮と考えたら100点満点の出来だって」
ボクもそう思っていたけど、トップ探宮者である彩芽さんからそう評価されると実感が湧く。ネットの評価も概ね高評価だったし、新人とは思えないという感想も多かったから間違いないだろう。
もっとも、パーティーの実力に対する感想より容姿の良さに関わる感想が圧倒的だったけれども。
「…………ところで蒼ちゃん。彩芽さん、ボクのことは何か……」
恐る恐る肝心なことを聞いてみる。
が、その途端蒼ちゃんの表情が曇った。
「……よく頑張ってる……って言ってたかな」
何だか語尾に近づくにつれ、どんどん尻つぼみになっていくような……。
ずいぶん後になってから彩芽さん本人から聞いた話だけど、実はこのとき彩芽さんはボクのことをボロクソに言っていたらしい。そしたら蒼ちゃんがブチ切れて、「もう今後一切、支援しなくていい。いや支援するな」さらに「今まで頂いた装備の代金も迷宮で得たお金で利子を付けて全額返す」と啖呵を切ったのだそうだ。(実際の表現はもっとマイルドだったらしいが)
とにかく蒼ちゃんは一見するとクールでお淑やかに見えるけど、かなりヤバイ……もとい熱い女なのだ。
虎の尾を踏んだ彩芽さんは瞬時に己の失策に気付き、平身低頭で謝罪を繰り返したらしい。まあ、ボクの件を除いて、二人は大の仲良しさんなので、何とか事なきを得たようだけど、「あのときの蒼、マジ怖かった」と彩音さんが思い出すだけで震えていたっけ。
「そうそう、こっちも別れたあと、こんなことがあったんだ」
彩芽さんのことが、おおよそ聞けたので、ボクも自分の身に起こった不思議な出来事について蒼ちゃんに報告する。
「実は帰り道で困っているお婆さんがいてね……」
一通り顛末を話し終えると、蒼ちゃんの表情が険しくなっていた。
「ど、どうしたの。あおいちゃん?」
「つくも君、それってかなり不味くない?」
「え、そうなの」
無自覚に小首を傾げると、ますます蒼ちゃんの眉間に皺が寄った。
「だって、現実世界のつくも君がターゲットになってるってことは、つくも君に異常な身体能力があるってバレてる証拠じゃない」
あ……確かに。
「もしかしたら、つくも君が『魔王』だって気付いている可能性もあるかも」
「ま、まさか……」
「わからないよ。つくも君、魔王配信でろいろやらかしてるから、見る人が見たらバレていてもおかしくないと思うんだ」
ひ、否定できないところが悲しい。
「それと、そのおばあさんも絶対グルだと思う」
「あのおばあちゃんが?」
俄かに信じられない。
「そうでしょ、案内した場所……つまり誘い込まれた場所で待ち伏せされて襲われたんだから、怪しいに決まってるよ」
呆れた目でボクを見る蒼ちゃん。
「そう言われれば、そうかも……あ、でも息子さんの住所、教えてくれたよ」
「そんなの、適当な住所を言ったかもしれないでしょ」
そ、そうかな? 何か言い慣れてる感じがしたけど。
「問題は、どこまでバレていて、相手がどうしてくるかね」
蒼ちゃんは腕を組んで考え込んでいる。
「おそらく今日の襲撃は、つくも君が『魔王』であることの確認作業だと思うの」
確かに最初は、明らかに威嚇だけが目的のように思えた。ボクが易々と脅しの一撃を見極めたことで本気になったみたいだけど。
「そして、つくも君が不用意にも人間離れした身体能力を見せたことで確信に変わった……そんなところかしら」
「不用意って……ボクが悪いみたいに……」
「悪いのよ」
蒼ちゃんにバッサリと切り捨てられる。
「正解は、戦わないで即逃げるべきね」
「だ、だって……あの状況でおばあちゃんを見捨てて逃げるなんて選択は出来ないよ」
ボクの答えに蒼ちゃんは大きな溜息を付く。
「ね、つくも君。その時のおばあさんの様子はどうだった?」
「どう……って普通だったけど」
「あのね、つくも君。普通のおばあさんは恐怖で悲鳴を上げたり腰を抜かしたりするものなの。そんな感じだった?」
「いや……」
考えてみたら襲撃が終わったあとも、いたって落ち着いてたっけ。
むむっ、確かに変だ。
「とにかく……相手が何者で、今後どのように動いてくるか。慎重に考えて対応していく必要があるようね」
どうやらボクはまたやらかしてしまったようだ。
第75話をお読みいただきありがとうございました。
今回は少し短めですみません。
つくも君は秘密を隠しておけない性格のようですw
モチベに繋がりますので、高評価、感想、レビューを引き続きよろしくお願いいたします。




