第73話 魔が差すことってあるよね
部活も終わったので蒼ちゃんと二人で生徒昇降口から出ようとすると、蒼ちゃんのスマホに着信が入った。連絡してきた相手の名前を見て、ちょっといい?という仕草を蒼ちゃんが見せたので、ボクは頷いて少し離れる。
下校時間も近いせいか生徒の姿もまばらだ。ボクは手持ち無沙汰になり、自分のスマホを確認することにした。
あ、エゴサはしないよ、豆腐メンタルだから。
ふむふむ、誰からも着信は無し。各種SNSからの通知も無し。家族からの連絡も全く無しとは……ふふっ、さすがぼっちを極めし男(今は女だが)一色 白……清々しいほどのぼっちだ。ぼっち度Sランクかもしれない。……か、悲しくなんて無いから、一人でいるのが好きなだけだから。嘘じゃないよ、連絡が無い方が返信とかしなくて楽だし、それに探宮部に入ってリア友も増えたもん……ぐすん。
心に見えない一撃を食らったボクは萎える気持ちを誤魔化すために、何かめぼしい事件やニュースでもないかとニュースサイトを一心不乱に漁り続ける。そんな虚しい努力をしていると、通話が終わったらしい蒼ちゃんが戻って来る。
「待たせちゃってごめん、つくも君」
「別に大丈夫だよ。スマホに来てたメールとか通知見てたから」
嘘です。全く来てません。ナッシングです。
「さらにごめんだけど、彩芽さんが駅に着いたから迎えに来てって」
「え? 彩芽さん、またこっちに来てるの?」
さては『奇跡の欠片』の配信動画を見て、居てもたってもいられなくなって、すっ飛んできたな。ホント、蒼ちゃんのこと好き過ぎるだろ、あの人。
「うん、そうみたい。このままつくも君と一緒に帰りたかったけど、ちょっと無理そう」
「じゃあ、一緒に迎えに行こうか?」
「それが、つくも君を連れてくるのはNGなんだって……何でかな?」
独占欲か、器が小さいぞ、『残像のアイリス』。いや、残像と言うより『残念のアイリス』だね、あれは。
「たぶん、あおいちゃんがバズったことを仲の良いお姉さんとして身内だけで、お祝いしたいんじゃないかな」
内心苦笑しながら、一応フォローしておく。まあ、今回の件は彩芽さんが取り上げてくれたことが一因と言っていいから、花を持たせてあげよう。恩義を感じているのも確かだしね。
そんな訳で蒼ちゃんと別れて、ボクは久しぶりに一人で帰宅することになった。
(うわっ……蒼ちゃんと一緒の時にも感じていたけど、一人になると余計他人の視線が痛く感じる……)
せっかく一人気ままに帰るのだから、久しぶりに本屋にでも立ち寄ろうと繁華街に向かったのが失敗だった。蒼ちゃんからも真っ直ぐ帰るように忠告受けていたのに魔が差した感じだ。
(いったい、何でこんなに人のことジロジロ見るんだろう? もしかしてボクが気付かないとでも思ってるんだろうか)
何か変なところでもあったのかと、心配になって自分の服装を今一度確認してみたけど、おかしなところがあるようには思えなかった。
まさか、見られているのは……ボクが可愛いから?
いやいや、それは無いでしょ……自意識過剰にもほどがあるって。
絶対、蒼ちゃんの方が美人さんだし、スタイルだってお子様体型のボクじゃ翠ちゃんや玄さんの足元にも及ばないもの。(特にある一部が)
朱音さんは……うん、カッコいいよね。華があるって言うかカリスマが溢れてる感じがする。
そう考えるとボクって、美人ぞろいの探宮部の中では、いたって平凡なのかもしれない。たぶん、今は他の四人がいないから目立っているに過ぎないんだと納得する。
けど、そうは言っても他人の好奇な視線を一身に浴びている現状を、豆腐メンタルなボクとしては、とても耐えられそうになかった。なので、思わず表通りから裏通りへと逃げ込むという選択をしてしまう。
繁華街の狭い裏路地は、まだ夜のお店が開く時間ではないので閑散としていた。時折、店の前を掃除をするおじさんが散見するぐらいで人通りはほとんどない。
蒼ちゃんなら、この段階で危険信号を出していただろうが、この時のボクは人ごみから逃れられて、逆にほっとしてる状況だった。
(あれ?)
そんな中、ボクの視界に気になる存在が目に入った。
それは、手にメモを持って辺りをきょろきょろする高齢のご婦人だった。どうやら何かを探しているように見える。
ボクはすっと近づくと、驚かせないよう気を付けながら声をかけた。
「あの……もしかして、何かお困りですか?」
話しかけられたご婦人は訝し気な表情で振り返るが、話しかけたのがボクのような女の子と知って表情を和らげた。
「ええ、ちょっと探している場所があってねぇ」
招き猫のような雰囲気がある小柄で優しそうなおばあちゃんだ。
「もし良かったら、お手伝いしましょうか?」
「あら、良いのかい」
「ええ、もちろんです。今ちょうど時間ありますから」
ボクの申し出に、おばあちゃんは安堵した顔になる。
「助かるわ、どうも道に迷ってたみたいで」
「住所を教えていただければスマホで検索しますよ」
差し出されたメモを見るとマンションらしい住所が記されていた。検索すると、この場所よりもう少し先の商店街の辺りにあるようだ。暗くなってきたし、土地勘のないらしいおばあちゃんが一人で行くには、ちょっと物騒に感じられた。
「案内しますから、一緒に行きましょう」
「あら、案内までしてくれるの?」
「はい、そちらの方へ行く用事がありますから、ついでですよ」
「なら、お願いして良いかしら?」
言葉は疑問形だが、明らかにお願いしたいように見えた。
「もちろん、良いですよ」
そして、ボク達はどんどん人通りが無くなっていく方向へと進んだ。
「へえ、おばあちゃん、日本に帰ってきたばかりなんだ?」
「そうそう、1年半ぶりかねぇ」
なんと、このおばあちゃん海外に住んでいるらしい。何でも日本に残してきた息子さんと連絡が取れなくなったので、急遽日本に戻ってきたとの話だ。
今、向かっているのが息子さんの住んでいるマンションで、おばあちゃんも初めて訪れるため道に迷っていたそうだ。
「なるほど、二人姉妹にお母さんと3人で住んでいるの。お父さんは? ああ、単身赴任……そりゃ大変だ」
思いのほか会話が弾み、ボクも自分の家族のことや学校のことをお話しした。元々、ボクはおばあちゃんっ子だったのでお年寄りと話すのは得意なのだ。
そうこうしている内に目的の場所に近づいたのだが、気が付くと周りの風景が一変していた。いつの間にか繁華街を抜け、シャッターが閉まった店が多く立ち並ぶ寂れた商店街に着いていたのだ。
街灯も消え、辺りは薄暗く人気は全く無かった。
「おばあちゃん、たぶんこの辺だと思うけど……」
ちょっと不安を感じながら、おばあちゃんを見ると彼女は前方の一点を見つめ立ち止まっていた。
「えっ?」
視線の先に目をやると、道を塞ぐように革ジャンに黒のフルフェイスを被った全身黒ずくめの大男が立っていた。
第73話をお読みいただきありがとうございました。
つくも君、またやらかしたようですw
いろいろとピンチです(>_<)




