第71話 打ち上げと反省会
結局、残りの二人もそれからしばらくして直ぐにレベルアップしたので、ボク達の初探宮はそこで終了した。比較的に空いていることもあり、日曜の午後から初探宮を始めたので、異界迷宮から出る頃にはすでに日が傾く時刻となっていた。せっかくだからと言うことで、探宮デビューの打ち上げを兼ねて夕食を共にすることになり、いつものファミレスに立ち寄った。
「探宮デビューお疲れ様! みんなが無事に帰還できて何よりだ。それと思った以上に探宮デビューが成功して良かった。これもみんなが頑張った結果だと思う」
部長として一言と言われた朱音さんが、ほっとした表情で本日の感想を述べた。全然落ち着いているように見えていたけど、けっこう気を張りつめていたことがわかる。当たり前の話だが、朱音さんだって探宮デビューなのだから緊張するのは当然だ。ましてやリーダーという役目を担っているのだから、メンバーのボクら以上に気を遣っていたのだろう。
「朱音さんお疲れ様です。リーダー役も大変でした。ホントにありがとうございます」
ボクが労をねぎらうと他のメンバーも次々と思いを述べる。
「つくも様の仰る通りですわ。無事に探宮が成功したのも朱音さんの努力の結果だと思いますの」
「最初の暴走でどうなるかと一瞬心配になったけど、その後の行動はさすが朱音さんだと思ったかな」
「まあ、朱音ならこれくらい当然だろう」
「みんなありがとう。今日は親父から探宮デビュー祝いをせしめてきたから、好きなだけ注文してくれ」
玄さんを除く三人が申し訳ないと固辞するが、「なんで遠慮するんだ?」という表情の玄さんに引っ張られ、ボク達は朱音さんの申し出を遠慮なく受けることにした。
いやだって考えてみて。間接的とはいえ蘇芳秋良に奢ってもらえるんだよ。まじ最高じゃないですか。正直、断るという選択肢はありえないでしょ。
その後、注文したメニューが続々と運ばれ、楽しい夕食が一通り済むとそのまま反省会へと突入した。前衛と後衛の連携や各人のスキルの有効的な使用方法等、いろいろな反省点が出たが、概ね今回の探宮は及第点がもらえる内容だったと結論付けられた。
ボクからすると初心者パーティーの探宮……さらにこれが探宮デビューと考えるなら、これ以上の結果は無いんじゃないかと思うけど、朱音さん的にはまだまだいたらない点が多いそうだ。
幼い頃から蘇芳秋良の探宮をずっと見続けていた朱音さんにとって、求めるハードルの高さがボクらと違って相当高いのだろう。
「しかし、それにつけてもつくもの『レストルーム』には度肝を抜かれたぞ」
ふと思い出したように朱音さんが言うと、すぐさま翠ちゃんが同調する。
「本当ですわ。もう、つくも様なしの身体ではいられなくなりましたもの」
言い方! なんか翠ちゃんが言うと変な風に聞こえるから。
「まあ、翠ちゃんの言いたいことも理解出来るかな。私もつくも君のいない探宮なんて初めから想定してないし」
蒼ちゃんもマジで対抗しなくても……。
「お、モテモテだな、つくもっち。けど、『レストルーム』は確かに凄かった。とうてい商人クラスのスキルとは思えない性能と言えるだろう。まるで伝説級アイテムだな」
ぎくり。確かに『魔王の憩所』は伝説級《UR》アイテムだ。間違っていない。それもスキルじゃなくてアイテムだと……もしかして玄さんにバレてるのか?
意味深な台詞に驚き、発言した玄さんの方を見ると、玄さんはボクをじっと見つめていた。
「は、玄さん……」
気が動転し、何も考えずに真意を玄さんに確かめようとするが、当の玄さんは何も無かったように視線を朱音さんに向けると今後のことについて話し始める。
「じゃあ、朱音。今日の探宮デビューについて、今夜のうちにZ(旧whisper)を更新しておくから。あと、チャンネルとアーカイブも確認して必要があれば編集しておくな」
「ありがとう玄さん。よろしく頼むよ。そういったことに疎くてね」
「気にするな、最初からそういう約束だろう」
先ほどの言葉が気になり過ぎて、二人の会話をぼんやりと聞き流す。
「どうかした、つくも君?」
蒼ちゃんがボクの様子に気が付き、そっと声をかけてくれた。
「うん、ちょっとね。あとで相談するから」
「わかった。じゃ、夜にいつもの場所で」
「了解」
そうこうしている内に今日の振り返りも終了し、打ち上げという名の夕食会も解散となった。例の発言以来、玄さんの動向をずっと注目していたが、あれから特段変わった行動は見せなかった。
もしかして、本当にあれは思い付きで言った偶然の産物だったのだろうか。たまたま真実を言い当てた形になり、ボクが必要以上に心配しているだけなのかもしれない。そうなら、良いのだけど……。
ボクは不安に駆られ、頭の中がもやもやしたまま帰路についた。
そして夜、入浴後に『魔王の憩所』で蒼ちゃんと待ち合わせすると、さっそく玄さんの発言について蒼ちゃんの意見を聞いた。
「う~ん、偶然のような気もするけど、玄さんは底が知れないところがあるからなぁ」
蒼ちゃんも半信半疑だ。
「まあ、つくも君が心配する気持ちもわかるから、今後は私も注意するようにするね」
「うん、お願い」
「任された……ところで話は変わるけど、今日は探宮デビューおめでとう。無事に終わって良かったね。それと、二人ともとうとう本物の探宮者になれたね」
心配げな表情から一転、満面の笑みを浮かべる。
「ありがと。蒼ちゃんも探宮デビューおめでとう。お互いの夢に一歩近づいた気がするよ」
「そうだね」
「頑張ろうね、蒼ちゃん」
「頑張ろう、つくも君」
ボク達二人は顔を見合わせ、これから経験するであろう幾多の探宮に想いを馳せた。
◇◆◇◆◇◆
翌日の月曜日、学校に登校すると翠ちゃんがボクの元へと飛んできた。
「おはようございます、つくも様!」
「おはよう、翠ちゃん。どうかしたの?」
「どうかしたどころの話では無くてですね」
普段の大人し気な翠ちゃんが、朝からテンションMAXな勢いでちょっと引き気味になる。
「つくも様、大変なことになってます!」
何ですと?
第71話をお読みいただきありがとうございました。
少し短めですみません。
忙しさは緩和しましたが、ちょっとスランプ気味です。
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次回は掲示板回の予定です。




