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第67話 初戦闘(奇跡の欠片)


 現れたのは初心者迷宮の敵としてド定番のブルースライムだった。

 思わず、過去の苦い経験が脳裏に蘇ってくる。奴らとの近接戦闘は要注意だ。ヴォイヤーの向こう側にいる一定層を喜ばせることになりかねない。

 しかし、我がパーティーには遠距離攻撃が得意な魔導士(リーフ)様がいるのだ。初見のボクのような二の舞になることは無いだろう。

 けど、ここは探宮の先輩として注意喚起しなくては……。


「みんな、スライムとの近接戦闘は避けた方がいいよ。遠距離からリーフちゃんの魔法攻撃で…………えっ?」


 ボクの言葉が終わらないうちに目の前にいた朱音(フレア)さんが猛然とダッシュしていた。


「フ、フレアさん?」


「おりゃあぁぁぁぁ!」


 いったい何が起っているか、わからないまま戸惑っているボクを尻目に朱音さんはスライムに向かって両手剣を思い切り振り抜いた。


 あ、あれじゃ朱音さんが粘液まみれに……。


 ぱりん……ぶしゃ―――。


 案の定、核を粉砕されたスライムが爆散し、辺り一面に粘液が飛び散った。当然、目の前にいた朱音さんは粘液でびしょびしょだ。


 言わんこっちゃない。一部の視聴者さんが大喜びしているに違いない。


 そう思っている内に朱音さんがボクらの元へと戻って来る。


「フレアさん……」


「どうだ、シロ。一撃だぞ、凄いだろ」


 粘液まみれの朱音さんが飛び切りの笑顔で報告してくる。


 あれ? なんだか少しも叡智な感じがしない……何でだ。


「確かに凄い一撃でしたけど、大丈夫なのですか? びしょびしょですよ、フレアさん?」


 リーフ()ちゃんが心配そうに話しかけると朱音さんは白い歯を見せて笑う。


「ん、これか? なんだかヌルヌルして生温かいけど、不思議な感じがして面白いぞ」


 そうか……あれは粘液でびしょびしょになって、気持ち悪さと羞恥で恥じらう表情にならないと叡智な感じにならないのか。

 スライムを一撃で倒したことをドヤ顔で報告する朱音さんは、さしずめ水溜まりに飛び込んで泥だらけになった大型犬が尻尾を振って戻ってきた感が否めない。何だか、微笑ましささえ感じる。


「フレアさん、初戦闘でテンションが上がる気持ちはわかるけど、単独先行は危険だと思うな。それにスライムに対してはシロ君の言った通りリーフさんに任せた方が良かったんじゃ……」


 (ラピス)ちゃんが苦言を呈する。パーティーリーダーが自ら独断先行したのだから蒼ちゃんの厳しい言い分はもっともだ。


「すまない、ラピス。君の言う通りだ。軽率な行動をしたことは謝罪しよう。ただ、どうしても一番最初に剣を振るってみたかったんだ。もうしないと約束するから、今回だけ見逃してほしい」


 朱音さんの言葉に蒼ちゃんは溜息をつき、「今回だけですよ」と苦笑いした。


「あの、ちょっと待ってください、フレアさん」


 ボクは異次元(ディメンジョン)ポケットからタオルを取り出すとフレアさんにかかった粘液を拭き取る。


「さすがシロ。用意がいいな」


 かつて自分も同じような目にあったから用意していたとは口が避けても言えない。


「それにしても商人のアイテムボックスっていうのは、やはり便利だな」


「まあそうですね、戦闘にはあまり貢献できないので、これぐらいの利点が無いと」


「いや、シロに限ってそんなことは無いと思うが……」


「フレア、後始末が終わったなら、そろそろ先へ進もう」


 ボクが自分を卑下する発言をすると、朱音さんは何か言いかけたが、様子を窺っていた(クロウ)さんが探宮の再開を促す。


「悪かったな、クロウ。探宮を続けようか」



◇◆◇



 それからの『奇跡の欠片』の面々の動きは、とても初探宮のパーティーには見えなかった。


 まず、いきなりリーダーにあるまじき大暴れをしたフレア《朱音》さんだったけど、その後の行動はリーダーとしてもアタッカーとしても目を見張る活躍だった。最大火力を擁する立場であることを十分理解した上での行動は、パーティーのヘイト管理とダメージ管理を考えた見事なものと言えた。日頃の朱音さんからは想像できないクレバーさで迷宮頭脳の高さが感じられた。いや、たぶん本能でやっているに違いない。


 ラピス()ちゃんは『聖騎士(パラディン)』として治癒役(ヒーラー)だけでなく、その重装甲を活かした盾役(タンク)もこなし、パーティーの要として機能していた。天才型の朱音さんと違い、慎重な蒼ちゃんの行動は手堅く、他のパーティーメンバーも次の動きが読みやすく連携が取りやすかった。また、パーティーのHP(ヒットポイント)管理も完璧で的確なタイミングで治癒(ヒール)してくれるのも有難かった。あと、低レベルであるがターンアンデッドも侮れない有用な能力と言えた。


 リーフ()ちゃんは『魔導士ソーサラーというパーティーで唯一の専従魔法職であり遠距離攻撃の担い手だ。皆と同様レベル1なので、まだ低レベルの魔法しか使えないが、火・風・水・光の四属性の魔法を駆使できるため幅広い敵種族に対応が可能だった。MPマジックポイントの量も1レベルにしては多く、遠距離から前衛が戦う前に敵のHPを削ることが出来るのも有用な戦法だ。武器攻撃と違って確実に命中するのも利点と言えた。今後、レベルが上がり高位の魔法が使えるようになれば、ますますその重要性が高まるに違いなかった。


 クロウ《玄》さんは、まさに中の人の名前通り『玄人(プロフェッショナル)』だった。鍵開け、罠発見及び解除という専門の仕事をこなし、戦闘も『暗殺者(アサシン)』というクラスの強みである不意打ち攻撃で確実にダメージを与えていた。探知能力にも優れ、クロウさん抜きでの探宮など、とても考えられないほどだ。また、ビジュアルも叡智なので、きっと視聴者の目を釘付けにしているに違いない。


 そして、ボクである。正直に言って、足手まといだ。何しろ、味方全員レベル1の上、敵も低レベル帯であるので、チートスキルである『魔王の矜持』が全く役に立っていない。そうなると、魔法が使えない魔法特化の『魔王』ではあまり見せ場が無かった。戦闘自体はレベル4の能力値と蘇芳秋良の『戦闘センス』でこなせていたが、それだけだ。各クラスのような存在感を示すような活躍は難しかった。

 

 覚悟はしていたが、内心忸怩たるものがあったのは事実だ。


「よし、けっこう長く戦ったな。ここらで小休憩しようか」


 フレア(朱音)さんがコボルトの集団との戦闘を終えたところで小休憩を提案する。


「あの……フレアさん。休憩するなら商人のレアスキル『レストルーム』を使いますか?」


「そう言えば、そういうスキルがあるって言ってたな。せっかくだからお願いしようか。みんなもそれでいいか?」


 フレアさんがパーティーメンバーに意見を求めるが反論は無い。いや、ラピスちゃんだけは満面の笑顔で頷いている。蒼ちゃんは『魔王の憩所(いこいじょ)』が大のお気に入りだからなぁ。


「わかった。じゃあ、シロ、お言葉に甘えてレストルームを使わせてもらえるか?」


「うん、大丈夫だよ。ただ、その前に『プライベート・コール』を宣言してもらってもいい?」


「了解、『プライベート・コール』!」


 フレアさんのコールで全てのオルクスが配信を停止したのを確認するとボクは「サモン・ルーム!」と声を上げた。

第67話をお読みいただきありがとうございました。

前回はお休みして申し訳ありません。

ずっと体調不良だった理由が判明しました。

極度の貧血状態のようです。

現在、貧血の原因を確認中です。変な病気で無ければ良いのですが……(>_<)

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― 新着の感想 ―
有識者ニキ達から訝しまれるまであと…… 貧血ですか……お大事
魔王スキルの特性上、残念ながらシロの活躍はなし。 しかしこの配信、以前のシロの実習を見た人からは、怪訝に思われる気がしますね。
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