第66話 探宮デビュー
「みんな、準備はいいか?」
『はじまりの間』からD級迷宮に一歩、足を踏み入れて、フレアさんが全員に確認する。
「大丈夫ですわ」
「自分は問題ない」
「私も大丈夫です」
リーフちゃん、クロウさん、ラピスちゃんが答え、最後にボクを見る。
「も、もちろんOKだよ」
「よし、それじゃ各自、自分のヴォイヤーを起動してくれ」
一斉にみんなのヴォイヤーからオルクスが射出される。この瞬間、ボク達『奇跡の欠片』の配信が始まった。
「それじゃ、後はシロに任せた」
「任されました……では。みなさん! はじめまして!!」
ボクはオルクスの向こう側にいる視聴者さんに向けて声を上げた。魔王あのんの配信時にも言ったけど、新人探宮者の初見配信を必ず視聴するというコアなファンが一定数いるらしい。なので、この配信を見ている視聴者さんもそれなりにいると思う。
ちなみにパーティーには各クラスによって決まった役割があるのは当たり前の話だ。戦士系は攻撃特化、盗賊系は探知特化など、探宮を円滑に進めるために分業されている。その中で一般クラスの商人で明確な役割の無いボクが配信におけるМC役を仰せつかるのは当然と言えば当然のことだった。
正直、上がり症で口下手なボクには不向きな役回りだけど、探宮において一番負担が少ないボクが行うのが理に適っていた。本当なら逃げ出したいところの筈なのだけれど、何故かこの初配信をみんなのために盛り上げなきゃという気持ちになっているのが自分としても不思議だった。それだけ、このパーティーに思い入れがある証拠なのかもしれない。
まあ、他人にはバラせないけど、探宮デビューも二度目なので緊張はしてるが何とかなるだろう。
「新人探宮者パーティーの『奇跡の欠片』です。よろしくお願いします。今から探宮デビューなので、メンバー全員ドキドキですけど、視聴者の皆さん応援お願いしますね!」
そう言いながらボクは視聴者さんの前に流れている配信画面を思い浮かべた。
パーティー登録すると全員の個人配信が一つに統合されて配信されることになる。例えば初期レベルの配信画面では、五つの個人配信画面と予め登録しておいた各個人の能力がテキスト表示された画面の六分割された表示画面となるわけだ。そして、視聴者さんは必要に応じて各分割画面を選択し全画面表示に変更することが出来る。残りの4つの個人配信はワイプ画面として表示され、いつでも変更が可能だ。
「え~と、ボク達は今、D級迷宮を進んでいます。モンスターと遭遇するまでパーティーメンバーを紹介したいと思います」
みんなに「OK?」と合図を送ると皆、頷き返してくれたので話を進める。
「まず、視聴者さんの配信画面で赤色の鎧を装備している女性がいると思います。その人が『奇跡の欠片』のリーダー、守護者クラスのフレア・カーマインさんです。頼れる姉後肌で、とても凛々しくてカッコいい女性です。パーティーリーダーとして、メンバーを引っ張って行ってくれると思います。フレアさん、一言お願いします」
「あたしが『奇跡の欠片』のリーダー、フレア・カーマインだ。自分より強い相手と戦うの大好きなんで、これからガンガン戦って行きたいと思う。よろしく頼む」
朱音さんは、やっぱり男前だ。
「次に紹介するのは青が特徴的な防具を装備している女性です。彼女は聖騎士クラスのラピス・ラズリさんです。沈着冷静でありながら、時に大胆な行動も取れる素敵な女性です。ラピスさん、一言お願いします」
「素敵かどうかはわからないけど、ラピス・ラズリです。沈着冷静と言うより、臆病なだけですが、このパーティーのために自分の出来る限りのことをしていきたいと思っています。どうぞ、よろしくお願いします」
相変わらず蒼ちゃんは真面目で自分に厳しいと思う。
「三人目は緑のローブと特徴的な三角帽。魔導士クラスのリーフ・エヴァグリーンさんです。お淑やかで優しく知的な女性です。リーフさん、一言お願いします」
「ご紹介にあずかりましたリーフ・エヴァグリーンでございます。以後、お見知りおき願います。微力ではありますが、パーティーの皆様のお役に立てるよう、特にシロさんのために誠心誠意頑張る所存ですので、よろしくお願いいたします」
え? 特にボクのため?
「四人目は黒い……というか肌色多めというか、暗殺者クラスのクロウ・トープさんです。見た通り、色っぽい謎多き女性です。ボクも、まだよくわかっていません。クロウさん、一言お願いします」
「クロウだ、よろしく」
「え? それだけ?」
ホントに一言だ。
「えと、最後になりましたが、ボクはシロフェスネヴュラです。みんな『シロ』と呼んでくれますので、視聴者の皆さんも『シロ』と呼んでいただけると嬉しいです。クラスは……商人です。足手まといにはなると思いますが、精一杯頑張りますので、応援よろしくお願いします」
う~ん、きっと今頃ボクに対するコメント欄が荒れているに違いない。
このメンバーの中で一人だけ一般クラスは、さすがにギャップの差が有り過ぎる。ボクでも思うのだから世間様の目は厳しいと思う。あとで、コメントを確認するの怖いなぁ。
「皆、注意。敵だ……」
クロウ《玄》さんの言葉でボクは現実に引き戻される。
ついに初戦闘(奇跡の欠片として)だ!
第66話をお読みいただきありがとうございました。
短くて申し訳ありません。
仕事が転勤になったため、目が回る忙しさになっています。
3月・4月の更新が滞ったらごめんなさい。
ご理解、よろしくお願いいたします。




