第65話 衣装合わせ
「お、つくも……シロ、似合ってるじゃないか」
異界迷宮の中央ホール、通称『はじまりの間』にボク達は週末の土曜日、予定通り集合していた。
「……ありがと。けど、そう言うフレアさんの方がずっと似合っていると思うよ」
朱音さんはパーソナルカラーの赤をふんだんに取り入れた鎧を装備していた。剣士の上位クラスである守護者は戦士系クラスの特徴として、どのような防具でも装備できるのだが、朱音さんは胸当てやガントレットといった最低限の防具を身に着けるにとどまっている。
どうやら、防御力より動きやすさを重視した結果のようだ。それと言うのも朱音さんは高火力のダメージを誇る両手持ちのグレートソードを装備していたが、守護者の専用スキル『戦闘防御』の効果により攻撃と防御の両立が可能となっているのも理由の一つらしい。
ボクとしては全身ほぼ真っ赤で戦国時代の井伊の赤備えみたいで歴史ファンの心がくすぐられた。
「本当ですね、燃えるような闘志が具現化しているみたいですわ」
ボクに同調するリーフちゃんもまた、その名に相応しい姿だ。
魔導士であるリーフちゃんはパーソナルカラーの緑色のローブを纏い、お約束のように魔法使いの三角帽子を被っていた。一見すると、それほど高そうに見えない布の服に見えるけど、たぶん耐火・耐刃・耐水・耐毒・耐魔に優れた素材で作られた高級品に違いない。
それよりも凄いのは……。
「その杖、めちゃくちゃカッコいいね」
「そ、そうですか。シロ様に、そう言っていただけると嬉しいです」
その豪華さに思わずボクが褒めると翠ちゃんは、はにかんだように笑う。
いや、実際凄いのだ。まるで、アニメに出てくる大魔法使いの主人公が持っていそうな煌びやかに装飾されたスタッフだった。絶対に特注品で、ローブの何十倍も高い逸品に思える。どれくらいの付帯効果があるかはわからないけど、さすがはお嬢様の持ち物って感じだ。
「確かにリーフの杖は凄いが、同じ戦闘系としてはラピスの装備の方が興味がそそられるな」
「ええ、とてもお下がりに見えませんね」
蒼ちゃんの装備が親戚のお姉さんからのお下がりと報告済みだけど、やっぱりその設定、無理があると思う。
ちなみに蒼ちゃんの装備は聖騎士の代名詞とも言える全身金属鎧だ。要所要所に蒼ちゃんのパーソナルカラーである青を取り入れた、どう見てもオーダーメイド品のように見えた。
片手剣にシールドというオーソドックスなスタイルで蒼ちゃんの堅実な性格が窺い知れる装備と言えた。そこまで折り込み済みとは、さすがストーカー彩芽さんの面目躍如だ。
「……ところでクロウは、もうちょっと何とかした方が良くないか」
暗殺者の玄さんの装備は全身黒づくめの忍者スタイル。それも、肌色多めのセクシー忍者系だ。上質の品ではあるが、使用感があることから誰かのお下がりっぽい。うん、こちらの方が彩芽さんのお下がりだと言われたら信じてしまいそうになる装備だ。もちろん、蒼ちゃんには絶対に着させないけど。
「別にいいだろう。布面積が少ない方が早く動けるんだ」
玄さんの言うことにも一理あるが物には限度があると思うんだ。
「それを言うなら、一番ヤバいのはシロだろう」
え? ボクですか?
玄さんの言葉で他のみんなの目が一斉にボクを見る。
「ど、どこか変かな?」
時間ぎりぎりに間に合わせたし、デザイン案もボク自身なので、出来栄えには不安が残っていた。
「いや、激ヤバだろ、リーフ」
「はい、クロウさん。激ヤバ可愛いいです。こんなの反則です」
目をキラキラさせながらボクを見つめる翠ちゃんの目がハート型になっているような幻視がする。
「じゃ、変では無いってこと?」
「変だなんて、とんでもない。何ですか、その純白のドレス。まんま、地上に降りた天使そのものじゃないですか!」
翠ちゃんの熱量にたじたじとなる。
「う~ん、こればっかりはリーフさんに同意かな」
笑いながら蒼ちゃんも同調する。明らかにボクが困惑しているのを楽しんでるな。
でも、そうなのか? ひょっとして、この衣装は正解だったのか?
実はボクの頭の中のヒーロー像のイメージが黒一色だったので(ほら、黒剣士とか黒魔導士とかカッコいいでしょ)、相対するヒロイン像は白一色だったのだ。ユニ君がボクの脳内イメージからデザインしたため、このような真っ白な衣装になってしまった訳だ。ボクは不安だったけど、ユニ君や蒼ちゃんに「最高だから」と押し切られてしまっていた。
「それにしても、シロの知り合いの衣装デザイナーさんは凄腕だな。とても無名な作家さんとは思えないぞ」
「ええ、それも初作品だから格安だったと言うのも俄かに信じられませんでしたわ」
そう、ボクの装備は母親の知り合いの謎の衣装デザイナー『YUNI』さんが格安で手がけたことになっていた。まだ、無名のハンドメイドの衣装デザイナーで、かつてはコスプレ衣装を作成していたという設定だ。ちょっと苦しい言い訳だったが、みんな素直に納得してくれた。今度、ぜひ紹介してほしいと言われて、笑って誤魔化すしかなかったけれど。
こうして、無事に衣装合わせを終えたボク達はヴォイヤーを使用して宣材写真を取ることになった。ヴォイヤーは動画配信だけでなく、静止画も取れるので、探究部の『Z(旧whisper)』のアカウントや『MyTube』のチャンネル用に使用する写真をとることにしたのだ。
全員、均等に取る予定だったのだけど、何故か(翠ちゃんと蒼ちゃんの悪ノリで)ボクの写真がかなり多く取られたのが(しかも半数は私用目的)、ちょっと腑に落ちなかった。
ちなみに、このデータを元に玄さんが加工して、あとでネットにアップする予定らしい。
さあ、これでみんなの準備も完了したので、いよいよ探宮部の初探宮だ。
第65話をお読みいただきありがとうございました。
短くてごめんなさい。
ずっと体調不良で今日は寝込んでいました。
リアルも超忙しくて死にそうです(>_<)
来週は更新、無理かも……。




