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第64話 初期装備

 探宮資格者証も手に入りパーティー名も決まったので、朱音さんとしてはすぐにでも……具体的に言えばこの連休中に探宮デビューをしたかったようだけど、さすがに他の部員の反対にあった。


「朱音さん、探宮デビューにはいろいろと準備が必要なんですよ。大体、皆さんまだ装備も全然整えていないじゃないですか」


 うん、翠ちゃんの言うことが正しい。


 試験中は協会から貸与された練習着(学校指定のジャージに酷似)があったから良いようなものの、今のボク達は迷宮由来の装備……下着一枚さえ持っていない状態なのだ。(ボクは除く)

 まさか、朱音さんは全裸で探宮デビューするつもりとでも言う気なのだろうか。ボクは持ってるから大丈夫だけど、葵ちゃんにそんなこと絶対にさせられない。


「朱音さん、さすがにボクも全裸は勘弁かな」


「な、何を言ってる、つくも! そんなことするわけ無いだろ」


 真っ赤になる朱音さん。最近、分かってきたけど、朱音さんって意外と純真(ピュア)だったりする。以前、翠ちゃんとボクが会話の中で(そっち)系の話を匂わせたりするだけで、明らかに目が泳ぎ出すほどの純情さだ。蘇芳秋良、あんた娘をどれだけ箱入りに育てたんだ? 脳内、全て探宮のことでいっぱいで、質の悪い男に引っかからないか将来が不安になるレベルだぞ。


「つくも様が言っていることが正しいです。朱音さんが主張していることはそういうことと同義なんです。確かに、朱音さんの家にはご両親が使ったお古の装備が山ほどあるのは知っていますけど、どこの家にもあるわけじゃないんですよ」


「え? 学校の部活動なら、迷宮協会から初期装備を貸してもらえるのじゃなかったのか?」


「それは探宮競技(・・)部の場合だけです。実践(・・)探宮部のわたくし達には貸与されません」


 呆れたように翠ちゃんが答える。


「そ、そうなのか?」


 本当に知らなかったようでボクの方を困惑気に見たので補足する。


「翠さんの言う通りだよ。高校の探宮競技は高体連が所管する正式な部活動だから迷宮協会から初期装備も借りられるし、学校によっては学校備品の貸与もあるらしくほとんど装備を買わなくて済む場合もあるんだって。けど、実践探宮部の場合は探宮報酬を得られる代わりにそういう優遇は一切無いみたいだよ」


「……そうか。そうなっているとは知らなかった。不勉強ですまない。どうやら、あたしが先走りしたようだな」


 一般的に探宮者を目指す者なら、実践部と競技部のどちらに入部するかを選択する場合、双方のメリット・デメリットを比較するのが普通だと思う。けど、朱音さんは実践探宮部一択だったから、詳しく違いについて調べていなかったに違いない。無知と言うよりは勘違いと言ったところだろう。


「別に謝ることないよ。ボクも気持ち的には朱音さんと一緒で、すぐにでも探宮を始めたい派だから(実際、我慢できずに始めてるし)」


「ありがとう、つくも。どうやら気を遣わせてしまったようだな」


「気にし過ぎだよ、勘違いは誰にでもあるって」


 自分の非を認めた朱音さんが頭を下げたので、ボクは笑って場を収める。


「では、朱音さん。この連休最後の二日間は探宮部の活動はお休みで、各人が休養と装備の準備をするってことで良いですね」


「ああ、そうしよう。あと、月曜日に顧問の中山先生にも全員合格したことを報告しなくてはいけないな」


 そう言えば、クラス担任の中山先生が顧問だったっけ。形式上ってのもあるけど存在感が無くて、すっかり忘れていた。


 とにかく翠ちゃんの提案を朱音さんが了承し、認定講習打ち上げ会は無事に解散した。 



◇◆◇◆◇◆◇ 



「だから、ボクもあおいちゃんも大丈夫だから心配しないで……じゃ、切るよ」


「今度は翠さん?」


 通話を切ったボクに蒼ちゃんが苦笑しながら聞いてくる。


「うん、そうだよ。けっこう気を遣わせちゃったみたい」


 先ほどは朱音さんからも同様の連絡があったばかりなのだ。


 それは初期装備の費用についての話だった。朱音さんは両親のお下がりを活用するらしく新たに購入する物は多くないとのことで、もし良ければ家にある在庫品を提供するし、少しならお金も融通できるという話だった。

 翠さんの方はもっと直接的で、初期装備にかかる費用について常磐家が無利子で全面的に援助したいとの申し出をして来たのだ。


 『不躾な申し出だけど』を枕詞にするぐらい本来ならしてこない内容だけれど、二人がそれだけ真剣にボク達のことを考えてくれている証であり、ボクも蒼ちゃんも不躾などとは断じて思っていない。

 二人に比べたら、ボクと蒼ちゃんの家が決して裕福とは言えないのは事実だからだ。


 実際、探宮者の装備品は性能と価格が比例するので決して安い買い物ではない。一般家庭にとってそれを用意するのは、かなりの経済的な負担だ。別に探宮部でなくとも部活動にお金がかかるのはよく聞く話で、吹奏楽部とかも同様の悩みが尽きない。また、レベルが上がればそれに見合った物が必要となるのは当然で、そうなるとさらに出費が見込まれる。

 まあ、実践探宮部ではドロップアイテムがあるので、まだマシな方と言えるかもしれない。ドロップしたアイテムを装備出来たり、売却して費用を稼ぐことが出来るのだから。


 そうそう、そもそも朱音さんや翠ちゃんのお(うち)に頼らなくても、迷宮協会でも資金の貸し出しを行っている。未成年者は保護者が契約することになるけど、必要な資金は何とかなるのだ。

 それに有望な探宮者なら借りた資金を一年で楽に返せるぐらいの実入りがあるから、借りる探宮初心者も多いと聞く。


 と、ここまで長々と話してきたけど、実際のところボクら二人の状況がどうかと言えば、さきほど朱音さんと翠ちゃんの援助を断るぐらいに何とかなっていた。


 と言うのも、まず蒼ちゃんの方だけど、あの打ち上げのあと合格したことを彩芽さん(親戚のお姉さんで有名探宮者)に連絡したら、昨日東京からぶっ飛んで帰って来たのだそうだ。しかも『私のお下がり』と称して『聖騎士』のフル装備を置いて行ったとのこと。


「どう見ても新品だし、何で私のサイズを彩芽()えが知ってるのか謎だったんだけど……」


 蒼ちゃんは首を傾げるけど、あのひと絶対に蒼ちゃんのスリーサイズとかのチェックに余念が無いと思う。蒼ちゃんを好き過ぎて、頼れるお姉さんポジションから、ただのストーカーになり下がっている節がある。大体、『忍者』のあんたのお下がりが『聖騎士』であるわけないのに、言い訳が下手過ぎるぞ。まあ、結果的に蒼ちゃんが助かったのは事実なので、その心意気は認めてやらないでもない。


 そして、ボクの装備はというと、ユニ君が絶賛作成中だったりする。前回の魔王装備(コス?)もユニ君の手による物だけど、市販品どころか下手なドロップアイテムより品質が上で、まさにオーダーメイド品の名に相応しい出来だった。

 なので、材料さえあればユニ君に頼むのが最良な選択と言えたし、必要な材料も『魔王の憩所(いこいじょ)』の召喚陣でモンスターを倒せば手に入るので、完璧なコンボと評価したい。ただ一つの難点がデザイン自体がボクの記憶を元に生成されるので、センスが微妙なところだ。


「来週の土曜日が楽しみだね、つくも君」


「来週ね……」


 そう、来週は『Z(旧whisper)』のアカウントや『MyTube』のチャンネル用の宣材写真を異界迷宮で取る予定なのだ。その時、全員の装備を披露し合うことになっており、パーティーの新衣装(?)の初合わせになるので、蒼ちゃんは今からワクワクしているらしい。


 ボクとしては、パーティーで悪目立ちせず、なおかつカッコいいデザインにするために日夜、雑誌や漫画を見てイメージをインプットしている状態である。


 ま、間に合うのか……つくも!(自分が不安)

第64話をお読みいただきありがとうございました。

つくも君の初期装備は間に合うのか……心配ですw

あと、申し訳ありません。リアルが急に忙しくなってしまい、もしかしたら、しばらく更新が滞るかもしれません。すみませんが、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
装備は大切ですよね♪
つくも君のセンスは……ねぇ? 地球を守るためにクソデカ蟻とかUFOと戦ってたりしたらメッチャ日が経ってた。
装備費用の話。金持ちの家に名探求者にコネがあったり、魔王の設備があったり、殆ど問題になってない……と思ったら、紫黒玄の話がないけど、あの人はどうなんだろ? つくもの装備に関しては、デザインよりも、それ…
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