第63話 打ち上げとパーティー名
「やった! 合格したよ、あおいちゃん。見てみて、探宮資格者証!」
「わかった。嬉しいのはよくわかったから、はしゃぐのは止めてね」
ボクが嬉しさのあまり、ぴょんぴょん飛び跳ねると蒼ちゃんは周りを気にして恥ずかしそうに窘める。
手続きを終え、各々が探究資格者証を受け取ったボク達は迷宮会館の受付ホールに集合していた。
「まったくもって、つくもはお子様だな」
「あら、朱音さんもそう言いながらも顔がニヤけていますよ」
ボクを揶揄う朱音さんも嬉しさを隠しきれず、翠ちゃんにツッコミを入れられている。
「でも、つくもっち。有料なのにわざわざカードも発行してもらったんだな」
玄さんがボクが見せびらかしている探宮資格者証に気付き興味深そうに言った。
実は探究資格者証はスマホにアプリとしてインストールされていて、プラスチック製のカードは有料オプションとなっているのだ。実質上の手続きはアプリで決済されることが多く、ICチップが内臓されているとはいえ、カード自体は探究資格を持っていることの証として見せる以外に使用頻度は低い。
そもそも、探究資格者証は迷宮協会が『国際迷宮機関《I・L・O》』に替わって発行している国際ライセンスなので、世界中どこでも使えるが、こと日本国内にいたっては身分証の役割を果たすことが出来ない。なので、わざわざカードとして持ち歩く必要は皆無と言って良かった。
「ええ~やっぱり、こういうのって手元に置いておきたくないですか?」
「うん、それにはあたしも同意だ」
朱音さんも同じ意見のようで、自分の資格者証を取り出して悦に入っている。
「見てみろ、このホログラムシールがカッコいいと思わないか?」
「思います。ホント、カッコいいですよね。それに英字で刻印されてるのも良くないですか」
「お、わかってるな。さすがはつくもだ」
「なんか朱音さんもつくも様も小学生の男子みたいですね」
ボクと朱音さんのやり取りを翠ちゃんが生暖かい目で評する。
元男子のボクとしては当然の見解だが、朱音さんも同意見というのは、やはり同類の気質を感じる。もしかして朱音さんもTSしてたりして……いや、さすがにそれは無いか。
「ねえ、そろそろ場所を移さない? ちょっと目立ち過ぎて恥ずかしいんだけど」
自分で言うのも烏滸がましいけど、五人とも顔面偏差値が高いので蒼ちゃんの言う通り、かなり目立っているようだ。何人かがこちらを見て噂をしている。ボクの超聴覚には『新人アイドルグループ?』とか『何かのロケ?』とか言っているのが聞こえていた。
「そうだな、合格祝いを兼ねてファミレスで認定講習の打ち上げでもやるか」
「賛成です」
「異論は無い」
朱音さんの提案に翠ちゃんや玄さんも賛同する。
「つくもと蒼はどうだ?」
「もちろん」
「私も行きます」
全員参加で認定講習終了の打ち上げを行うことが急遽決まった。
◇◆◇
「パーティー名?」
夕食を食べ終わり、デザートでまったりしていると朱音さんが翠ちゃんの問いかけに首を傾げる。
「そうです。全員、合格しましたから次は迷宮デビューと初配信です。そのためにはパーティー名が必要でしょう?」
確かに翠ちゃんの言う通りだ。次回からボク達の探宮活動は本格的になるだろう。配信する際には固有のパーティー名が必要になるのは当然だ。しかも、パーティーの特色や個性を視聴者に知ってもらうためにもパーティー名は大切な要素の一つであり、名前付けはやはり重要な課題と言えた。
ちなみに言ってなかったけど、認定講習中はヴォイヤーは使用していない(ヴォイヤー講習も操作のみ)ので、次の探宮からが初めての配信となる。
「別に高校の探宮部でいいんじゃないか」
「何、言ってるんですか、朱音さん。それじゃ、すぐに身バレしてしまいます。ちゃんとパーティー名を考えましょう」
「ふむ、翠はこう言っているが、みんなはどう思う?」
「翠さんの言う通りだと思いますよ。というか考えていなかったんですか? 部長だから当然考えていると思いました」
蒼ちゃんが少し呆れたように返答する。
「そうなのか、すまない。試験に受かることだけを考えていたのでな」
「と、とにかくみんなで考えてみましょうよ……」
シュンとした様子の朱音さんを見かねてボクはみんなに提案する。
「どうせなら、各自一つ候補を出して多数決で決めませんか。パーティー名はボク達の顔も同然となるのですから、全員が気に入った名前にしたいじゃないですか」
「わたくしは、つくも様の意見に賛成ですわ」
「私もいいと思う」
「自分も賛成だ」
翠ちゃんと蒼ちゃん、そして玄さんも同意したので全員、最後の一人に視線を向ける。
「ふむ、皆がそれでいいなら、あたしも構わない」
朱音さんの一言で、探宮部パーティー名決定戦が開始された。
くくっ……とうとうボクの才能を見せつけるときが来たか。
ボクはこう見えても二つ名とか必殺技名を考えるのが得意なのだ。中学時代に書いたアイデア帳には素晴らしい名前が満ち溢れていたものさ。
何故かそれを読んだ蒼ちゃんが死んだような目で黙って封印してしまったので手元には残ってないけど。ふふっ……未だ、その才能は枯れていない筈だ。
探宮部のみんなに、このつくも君の天才的センスを認めさせてあげようじゃないか。
しばらくのシンキングタイムの後、それぞれが考えたパーティー名候補が披露されることとなった。
◆
『放課後探宮倶楽部』
「これはだれの案だ?」
「わたくしのですわね」
「翠、名前の由来を教えてくれ」
「あの……放課後に行う探宮部の活動なので……ごめんなさい、単純で」
「いいんじゃない、シンプルで。私は好きかな」
「ボクも悪くないと思います」
「ただ、けっこう同じようなパーティー名もあるみたいだな」
「ふむ、玄さんの言う通りだ。検索をかけると似たようなのが……」
◆
『奇跡の欠片』
「これは私の案です」
「蒼、説明を」
「えと、私たちが出会ったのも一つの奇跡だと思うんだよね。大きくない奇跡……奇跡の欠片をこの探宮部で集めて大きな奇跡を起こしたい。そんな願いで付けました」
「あおいちゃんの案、最高!」
「わたくしも素敵だと思います」
「ちょっと綺麗すぎるかな、自分的には」
「今のところは第一候補か」
◆
『アンユイット』
「これは駄目だろ、朱音」
「何でだ、玄さん」
「これって蘇芳秋良が率いていたパーティー名だろ。さすがに不味くないか?」
「ボクは好きですけどね。それに父親のパーティー名を継ぐってのもなかなか……」
「朱音さん、許可は取れてるんですか?」
「いや? 必要なのか?」
「却下だな、やっぱり」
ちなみに『アンユイット』はフランス語で1と8の意味で、蘇芳秋良の奥さん、つまり朱音さんのお母さんが旦那さんの『一か八か』の行動にちなんで名付けたそうだ。
◆
『迷宮少女ラビリンスファイヴ』
「なんだ、これ? だれのだ?」
「自分のだ」
「玄さん!?」
「ニチアサを意識してみた。五人だし、色も分かれてるし……最高だろ」
「玄さんにそういう趣味があるなんて……ボクも好きです」
「つくもっち、わかってるね」
「没だ、没!」
◆
『天弓の森羅万象』
「こ、これは……(絶句)」
「ま、まさか、つくも君?」
「あ、わかっちゃった。ちょっと自信ないけど、どうかな(自信満々)」
「ち、厨二病だと……」
「つくも様……」
「ちなみに『天弓』は『虹』のことだよ。ほら、玄さんも言ってたけどボク達ってちょうど色ごとに分かれてるから、合ってるかなって……」
「(つくも君、虹色に白は無いんだよ)」
「つくも、『森羅万象』は?」
「え? 何となく。カッコいいでしょ、字面が……」
「…………」
結局、ボク達のパーティー名は多数決の結果(消去法で?)で蒼ちゃんの『奇跡の欠片』に決まりました。
何故、ボクの素晴らしいパーティー名が選ばれなかったのか不思議でならない。
第63話をお読みいただきありがとうございました。
つくも君の厨二病は高校に入学しても治っていなかったようですw
実は密かにタイトル回収だったりします(>_<)




