第39話 初配信
すみません。実況配信のコメントを追加しました。
「うん、想定どおり」
扉の先は今日、現地講習を受けた異界迷宮のホールだ。
ユニ君の言葉を信じてはいたけど、『魔王の憩所』の機能、【異界迷宮内の一度でも行った場所に繋ぐことが出来る】というのが事実だと証明された。つまりボクは迷宮街にある『迷宮の扉』を利用しなくても、いつでも異界迷宮に入れるという訳だ。
もちろん、探宮部として入る場合は別だけど、謎の魔王として探宮するには、かなりのアドバンテージと言えた。
何故なら『迷宮の扉』は基本24時間体制だけれど、高校生を含め未成年は原則、夜間の立ち入りが禁止されているからだ。学業優先と事件等のトラブル回避のためと聞いている。例外は事務所に所属していて、かつ成人が後見役としてパーティーに参加している場合などに限られている。言わば、『プロ』ならOKという訳だ。
そしてボクの場合、探宮部の活動がメインになるため、放課後もしくは土日・休日は探宮部員として活動することになる。なので、皆に内緒で謎の探宮者として暗躍するとなると夜間に探宮するしか方法がない。けど、高校生のボクは当然プロなどでは無い訳で、夜間に異界迷宮へ入ることなど不可能だ。つまり、『魔王の憩所』の、この機能は現状のボクにとって渡りに船と言うか、無くてはならないものと言えた。
「さてと、そろそろヴォイヤーを起動しようかな」
本来は、異界迷宮に入ったら速やかにヴォイヤーを起動し配信を始めることになっている。これは迷宮法施行規則に定められており罰則規定もある。最悪、探宮免許の取り消しもあると聞いているので、違反する者はほとんどいない。
実際の話、『魔王の憩所』のおかげでボク自身は無免許(現在仮免中)でも異界迷宮を探宮できたかもしれないが、ヴォイヤーを取得するまで待ったのは、ひとえにこの規則のせいだ。
ヴォイヤーを持たずに探宮しているのを目撃されたら通報案件確定だからだ。謎の探宮者として話題になるのは、やぶさかではないが、犯罪者として注目されるのは避けたい(無免許で探宮している時点で触法行為なのだけど)。
「それでは、ヴォイヤー起動!」
そう言いながら、ボクは額に嵌めている『VR-14S』に手を伸ばし、起動スイッチをオンにする。
すると『VR-14S』に埋め込まれている七個の『オルクス』内、中央の一個を除く六個の『オルクス』が射出され、周囲に展開する。中央の一個は探宮者視点のカメラで残りの六個が上下左右からのアングルを担当する仕様だ。
気を付けないといけないのは戦闘中に大きなアクションをするとローアングルの『オルクス』がセンシティブな画を配信してしまう危険性があるので要注意だ。
ああ、そうか。だから前衛の戦闘職の女子はスカートじゃない人が多いのか。まあ、配信数稼ぎのために見せパンを履く人もけっこういるって聞くから、必要悪みたいなものかもしれない。
ちなみに今のボクの衣装は黒ドレスだからローアングルは絶対禁止だ。下着は例の異界迷宮由来のものだし……。
「ステータス・オープン!」
ボクが声を上げると目の前にステータス画面が現れる。
異界迷宮内では、視界内のボタンをクリックしなくても音声でステータス画面が表示されるのが地味に嬉しい。目を凝らさなくていいし、手間もかけずに声に出すだけで良いから、とても楽だ。ただ、何て言うかゲーム感が強すぎて現実味に欠けるのが、ちょっと興ざめだ。
ともあれ、ボクはステータス画面の装備欄を確認する。
「え~と、確かにヴォイヤーがアクティブになってる……」
装備欄に表示されているヴォイヤーの右側にアクティブ中を示すマークが光っているのが見える。また、ステータス画面の左上部には現在配信している映像がミニ画面で表示されていた。今頃、MyTubeにこの画像が配信されている筈だ。はたして、どんなコメントが書かれているやら……。
ちなみに探宮配信は双方向受信で無いため、基本的にこちらの画像をMyTubeに配信するだけで、視聴者さんのコメントを読むことは出来ない。もっとも、コメントがあったとしても戦闘中に余所見などしていたら危ないと思うけど。
なので通常、探宮者はアーカイブに残った探宮配信を利用して、現実世界で2Dや3Dモデルで振返り配信を行ったり、普通のVTuberさんのような配信を行って視聴者さんと繋がることが多い。後は切り抜き動画やショート動画などで登録者数や閲覧数を稼いだりするようだ。
「と、とにかく配信が始まってるから何かしゃべらなきゃ……ま、まずは自己紹介か……」
ぼそぼそと独り言を呟いてから、ボクは意を決して話し始める。普段の声より少し高めのよそ行きの声だ。うん、ちょっとアニメ声っぽいかな。
「余は魔王なり。はじめて、この地に降臨す……」
◇◆◇◆◇◆◇
【#異界迷宮#実況配信】AWL配信:20××0504 No.30268726
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0人が視聴中 ライブ開始日20××0504
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初見好き:お、初見さん発見
サコツ大好き:ホントだ!
闇の屍者:初見好き、相変わらず目が早い
迷宮管理人:どれどれ、どんな探宮者かな?
サコツ大好き:楽しみ!
初見好き:あれ? しゃべらないぞ
迷宮管理人:使い方がわからないのか?
闇の屍者:おい、ちょっと待てや。この画面は?
初見好き:無償のヴォイヤーじゃない?
CATFIGT:まさか『VR-14SM』では?
初見好き:それはさすがに無いでしょ、めちゃ高価だし
闇の屍者:いや、確かに7つ視点切り替わっとる
CATFIGT:金持ちか家族が探宮者か?
初見好き:お、本人の全身が映った……女の子?
サコツ大好き:こ、これはコスプレ?
闇の屍者:マオちゃん? 『魔王ちゃんは働かない』の?
初見好き:初手コスプレは痛すぎる
闇の屍者:ほんま、そう……でも嫌いじゃない
サコツ大好き:いや、この娘はきっと美少女!
闇の屍者:何故わかる、マスクしとるぞ
サコツ大好き:目が美少女だもん!
初見好き:まあ確かに綺麗な目をしてるね
迷宮管理人:それよりも探宮者名が出てなくてアンノウンとは?
初見好き:バグってる?
闇の屍者:そんなことあるんか?
迷宮管理人:聞いたことないぞ
闇の屍者:そういや、今気がついたけど、他のパーティーメンバーは?
初見好き:本当だ。他の子の配信が見当たらない。
迷宮管理人:まさか単独ってことは?
闇の屍者:そんなん、あるわけ無いやろ
迷宮管理人:いや、どう見てもそうだろ
サコツ大好き:ねえ、何かしゃべってるみたいだよ!
初見好き:ぼそぼそ言ってて、何言ってるか聞き取れないんだけど
サコツ大好き:声、可愛いかも!
闇の屍者:し、静かに! 今度こそ、何か話すみたいや
『余は魔王なり。はじめて、この地に降臨す……』
初見好き:え?
サコツ大好き:!
闇の屍者:な、なんやと?
迷宮管理人:は?
CATFIGT:で、伝説の始まりだ(笑)
第39話をお読みいただきありがとうございました。
体調は低空飛行のままですが、何とか生きてます。
いよいよつくも君の黒歴史が本格化してきました(>_<)
あとで死ぬほど後悔すると思いますw




