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第105話 思わぬ効果

 

 オリエさんの謎のセリフを不思議に思っていたら、すぐに効果が表れた。


「聞いてください、つくも様!」


 翠ちゃんが血相を変えて『魔王の憩所(いこいじょ)』に飛び込んで来た。


 さすがに翠ちゃんも『魔王の憩所(いこいじょ)』に引きこもりっぱなしという訳にはいかないので、時間がある時に朱音さんと一緒に買い物へと出掛けるようにしていた。確か、今日は推しの漫画家さんの新刊が出ているので本屋さんに行っていた筈だ(翠ちゃんは電子より紙派らしい)。


「どうしたの翠ちゃん。そんなに慌てて何かあったの?」


 ぜーはー息をする翠ちゃんに、蒼ちゃんが冷蔵庫から出した飲料水をコップに注いで渡す。


 翠ちゃんは受け取ったコップの水を一気に飲み干すと大きく息を吐いた。


「あ、ありがとうございます、蒼さん」


「うん、落ち着いたみたいね……それで、何があったの?」


「そ、それです!」


 蒼ちゃんの質問に激しく反応した翠ちゃんは、ボク達に向かって翠ちゃんにしては珍しく大きな声を上げた。 


「お父様の……お父様のお許しが、ついに出たんですの!」


「……どゆこと?」


 言ってる意味がわからずボクは聞き直した。


「お父様から探宮者をやっていいと連絡が来たんですの……これで探宮者も続けられますし、つくも様にお世話かけていた家出も終わりになりますわ!」


「え、そうなの。おめでとう、翠ちゃん」


 あの正論が通じそうにないお父さんがよく折れたなと思いつつボクは翠ちゃんを祝福する。


「はい、ありがとうございます。これも全て、つくも様のおかげですわ」


 満面の笑みで答える翠ちゃんは興奮で頬を赤くし、とても可愛かった。


 ん? ボクのおかげ?


「ボクのおかげって……?」


「それはだな、つくも」


 どういう意味か聞こうとすると、いつの間にか『魔王の憩所(いこいじょ)』に入って来ていた朱音さんが答えた。


「どうやら『国際迷宮機関(I・L・O)』の所属になったのが大きいらしいぞ」


「え、そうなの?」


「はい、朱音さんの仰る通りですわ、つくも様」


 ボクが不思議そうな顔をすると翠ちゃんが詳しい説明をしてくれた。


「お父様のような方々こそ権威に弱いのです。明日をも知れない個人探宮者は見下しても、国際機関所属の探宮者は賞賛に値する職業と映るのですわ。行うことは一緒でも所属が違うだけで雲泥の差があると思っているのです。今回、『奇跡の欠片』が正式に『国際迷宮機関(I・L・O)』の所属になったことで、お父様の認識が大きく変わったようですの」


 なるほど、ああいう人達はそういうのには敏感だからね。


「これも、つくも様がオリエさんと取引した結果ですから、つくも様のおかげと言っても間違いないのですわ」


「そ、そうかなぁ……」


 結果論の気もするけど、これが怪我の功名ってヤツか。


「あと、国際迷宮機関《I・L・O》』の関連会社から、お父様の会社に新たな取引があったそうですわ。何でも大口の案件のようでお父様もお喜びになって、考えを変える良いきっかけとなったようですの」


 これか……オリエさんが手を回したのって。

 

「ま、とにかくこれで翠の家出騒動も一件落着ってわけだ」


 朱音さんも自分が『奇跡の欠片』に勧誘した手前、ホッとしてるようだ。


「はい、これまで通り『奇跡の欠片』で頑張りますので、よろしくお願いいたします」


 ペコリと頭を下げる翠ちゃんは本当に嬉しそうでボクも思わずほっこりした。


「そうそう、つくも。玄さんも来週には帰国するそうだから、夏休み後半は『奇跡の欠片』全員が揃っての本格始動ができるぞ」


 そうか……玄さんが帰って来るなら、ボクの秘密を説明しないといけない。

 受け入れてもらえるか少し不安な反面、これで『奇跡の欠片』のメンバー全員に嘘を吐かなくて良くなるので正直嬉しい気もする。また、久々に『奇跡の欠片』全員が揃って探宮できると思うとワクワクする思いもあった。


「よ~し、じゃ来週からみんなで探宮を頑張りましょう!」 


「お~!」


 ボクの掛け声にみんなが声を合わせた。



◇◆◇◆◇◆



「ねえ、撫子聞いてる?」


「ちゃんと聞いてるよ」


 私の連絡した内容に撫子はテンションが下がっているようだった。


「例の『シロ』さんから正式にコラボを拒否されたのが、そんなにショックなの?」


「そ、そうでもないさ」


「嘘、撫子のことは何でもわかるんだからね」


「う……菫にはかなわないな。ちょっと凹んでる」


「何よ、あんな子。噂だけで魔王でも無かったし、ただの一般クラスでしょ。正直、私たちと組むには釣り合いが取れないと思うけど」


 ホントそう。撫子がなんであんな子に注目しているのか正直わからない。

 そりゃ可愛いのは認めるけど、異界迷宮は可愛けりゃいい世界ではないのだ。実力が伴わなければ足手まといにしかならない。


「私ならリーダーのフレアさんを推すわ。あの最大火力は馬鹿に出来ないもの」


 配信を見た時にさすがの私も驚いた。同レベル帯であの火力は異常だと思う。さらにガーディアンなので防御力も高い。勇者は万能職だし、私も治癒も攻撃魔法も使える勇者の下位互換とも言える姫騎士なので、あの戦闘力はとても魅力的だ。


「いや、フレアさんを加入させるぐらいなら、菫と二人だけの方がいい」


「っ……」


 ホントずるい。性格が変わってから撫子は時々こういうことを言って私を惑わせる。けど……。


「『シロ』なら加入させたいんだ……」


「そうだね…………彼女は『特別』なんだ」


「『特別』……」


 胸の奥がチクリと痛む。


「でも断られたんじゃ仕方ないでしょ。諦めるしかないじゃない」


 あ、ちょっと意地悪な言い方になっちゃったかな。


「いや、オレは諦めないよ。もう少しレベルが上がったら、またアプローチしてみるさ」


「……す、好きにすれば」


 私は大人げなくプイと横を向いた。



(ふむ、どうやら機嫌を損ねたらしい。ちょっと失敗した)


 撫子はプンプンしている相棒をどう宥めようかと思案する。

 慣れていないこの世界で上手に生き抜いていくには彼女の協力が絶対に必要なのだ。なので、機嫌を直す最適解を行う。


「ねえ、菫。一緒に美味しいケーキ食べに行かないか? 駅前に新しいお店がオープンしたんだって」


「え? もちろん行く行く!」


 笑顔に戻った相棒にホッとしながら撫子こと勇者グリドランは思った。


(魔王シロフェスネヴュラよ。オレは決して諦めないからな。必ずお前と会って、そこで……)


第105話をお読みいただきありがとうございました。

今回、マジでヤバかったです(>_<)

先日壊れたハードディスクのデータをバックアップしていたハードディスクが

一時認識不能になって焦りました。何とか復旧しましたが、新しい物の購入が

急務のようです。複数にバックアップしないといけませんねw


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― 新着の感想 ―
翠の親の件をどう解決するのかと思いきや、金と権力であっさり解決は判りやすい。 撫子の前世では、勇者は魔王に恋慕してた? だとしたらますますややこしい話になりそう。 しかし“慣れていないこの世界”なん…
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