第104話 勇者とのコラボ?
最近、話題になっている『勇者』からのオファーは迷宮協会を通しての正式なものだった。しかも『奇跡の欠片』にではなくボク個人に対する依頼だ。朱音さんの、「つくもはどうしたい?」という問いは『奇跡の欠片』に対するものでは無く個人あてだったからのようだ。
コラボ? もちろん断るつもりだ。
まず、ボクとしては『奇跡の欠片』とのコラボでないところが問題だった。オリエさんにも言ったけど、ボクは蒼ちゃんと迷宮の最奥を目指すつもりだから、他のパーティーに参加する気は始めから無かった。パーティー同士のコラボなら朱音さんや他のメンバーの意見に従うけれど、単独でというのは考える余地もない。
そして、魔王と勇者が遭遇したらどんなことが起きるのか、実のところ興味が無いわけではないが不安の方が強い。不俱戴天の敵同士として、いきなり殺し合いとか始めてしまったら取り返しが付かないだろう。常識人で慎重派なボクとしては無用なリスクは犯さないというのが鉄則だ。
まあ、勇者側としたら、魔王疑惑のあったボクとのコラボはかなり話題性のある配信となるから、わざわざオファーを出してきたのも頷ける。また『奇跡の欠片』としても、ネットの魔王疑惑が一段落してチャンネル登録数の増加も鈍化している状態なので、おそらくオファーを受けると見越したのだろう。
だが、断る。偽魔王だったら良い宣伝だと引き受けるだろうが、こちとら本物の魔王だ、何かあってからでは遅いのだ。
朱音さんにそう説明し、迷宮協会に断りを入れてもらおうと話していた矢先にオリエさんから電話があった。
「やあ、つくも君。お久しぶりじゃの。今、時間は良いかね?」
「ええ、構いませんよ」
そう言いながらも身構える。
何故なら、ボクを含め『奇跡の欠片』が先日、正式に『国際迷宮機関』所属となっていたからだ(玄さんにはまだ詳しく説明していないけど所属することは了承してもらった)。
なので、雇い主からの電話だったので何か無理難題を押し付けられるのかと緊張したのだ。
「おや、何か声が固いな。どうかしたかね?」
「べ、別に何でもありません」
相変わらず細かいことを見逃さない侮れない相手だ。
「まだネットの被害があるようなら、いつでも連絡してくれたまえ。こちらで対処しよう」
「ありがとうございます」
「それで電話した理由はじゃな…………『勇者』からコラボの依頼があったのじゃろ?」
「……はい。相変わらず耳が早いですね」
迷宮協会経由だから、いずれはバレるだろうと思っていたけど、最速のレスポンスと言っていい。やっぱり、協会内に協力者、あるいは熱心な信者がいるのは間違いない。
「それで、探宮者の話題作りのためにも、ぜひコラボを受けろと連絡してきた訳ですね」
探宮者の裾野を広げたい迷宮協会は地上波やネット番組に有名探宮者の出演を促していると聞いたことがある。上位組織の『国際迷宮機関』もそうなのだろうと思ったのだ。
「いや、逆じゃ。絶対にコラボを受けてはならん、絶対にじゃ」
明確な拒否に意外さを感じた。
「何故ですか? 話題作りにも十分ですし、オリエさんが言っていたボクの失われた記憶とやらが戻るきっかけになるかも、じゃないですか」
「それはそうなのじゃが……」
珍しく歯切れが悪い。
「じ――っ。もしかして何か知ってるんですか?」
「……いや、何も知らん。知らんが、良い結果を生まぬように思う」
オリエさんの声は苦渋に満ちた様子で、何も知らないようには思えなかった。
「何か隠し事してません? 教えてくれないとコラボ受けちゃいますよ」
「それは困る……う~むしかし、向こうの個人情報となるからのぉ。じゃが、背に腹は代えられん」
そう躊躇しながらも、渋々語ってくれた。秘守義務、大丈夫?
「実はな。件の『勇者』もな。探宮者認定講習の一週間前ぐらいに急に性格が変わったようなのじゃ」
「……それって」
「うむ。こちらの調べでは性格と言うより人格そのものが変わってしまったらしい。しかも女の子から男の子のそれに……」
「ボクみたいに身体が変わったわけじゃないんですね」
「そうじゃ、つくも君とは違い中身が変わったようじゃ。しかも前世の記憶持ちと来ている」
せ、正当な異世界転生者だ。
「けど、それで何故コラボに反対なんですか?」
「そうじゃの。前世の記憶持ちの『勇者』が記憶喪失の『魔王』とコラボ……どう考えても悪い予感しかせんじゃろ」
確かに……いきなりバッサリ斬られたらヤダな。
しかも【魔王の矜持】は自分より高レベルの者がいる場合、その高レベル者の一つ上のレベルとなるけど、勇者がいる場合は必ず勇者のレベルと同じになるというスキルだ。
同レベルなら戦闘職の『勇者』に魔法職の『魔王』が勝てる道理もない。さらに言えば、ボクは魔法も一部しか使えない欠陥魔王なのだから。
「それでどうするのじゃ?」
「安心してください。ボクも断るつもりでいましたので……」
今の話を聞いたら、ますます会いたくなくなった。もし、相手がボクの持っている魔王スキルのような勇者スキルを持っていたとしら、恐らくボクが本物であることは即行でバレるに違いない。そんな相手に会いに行ったら、飛んで火にいる何とかになってしまうだろう。
うん、コラボは絶対に却下だ。
「そ、そうか……それを聞いて一安心した。せっかく魔王疑惑も沈静化したのじゃ、勇者とコラボしてそれを台無しにすることもなかろうて」
「全くそうですね。えと、用件はそれだけですか?」
「おお、そうじゃ。あと一つ。わしの方からも手を回しておいたでの……直に効果が表れるじゃろう」
「? どういうことですか?」
「まあ、果報は寝て待てじゃよ。では、用件はそれだけじゃ」
「あ、待ってください。あの……今回はいろいろアドヴァイスありがとうございました。とても助かりました」
「いやいや、礼には及ばん。わしはいつだって君の味方じゃからの……それではまた会おう」
ぷつりと通話が切れ余韻が残る。面と言ったら殺されかねないけど、相変わらず高齢とは思えないパワフルさだ。
それにしてもオリエさんの最後の謎のセリフはいったい何だったのだろう。
第104話をお読みいただきありがとうございました。
勇者との関係、はたしてどうなるのでしょう(>_<)
ようやく第1部の終わりが見えてきたかなと思ってます。
今後もよろしくお願いいたします。




