第101話 現れたのは……
「え? 誰かいるんですか?」
オリエさんの言葉に驚くボク。
もし、他の探宮者が隠れていたのなら、その人物のヴォイヤーが起動している筈だ。さっきのオリエさん呼びが配信に乗っていたとしたら、いろいろ面倒なことになりかねない。
「ま、魔王様。さっきの会話が配信されたんじゃ……」
「大丈夫だよ、シロ君。向こうも訳ありに決まってる。当然、配信なんかしてないさ……ね、そうだろう。かくれんぼしている君」
オリエさんが光源が届かない薄暗闇に向けて声をかけると、さっきまで誰もいなかった空間に黒いシルエットが浮かび上がる。
「ん?」
顔はまだ見えないが、その身体には見覚えがあった。あ、なんか言い方がエッチかも。けど、それほどまでにエロい……もといインパクトがある凹凸のあるスタイルは、元男子のボクとしては脳裏に焼き付ついて、そう簡単には忘れることなんて出来ない。
「お、やっと出てきてくれる気になったかい」
オリエさんの言葉に反応したのか、ようやく明るいところに姿を現したのは、最近リメイクしたらしい泥棒三姉妹アニメのコスプレ女子だ……いや、そうではなく……。
「魔王軍四天王のノルテ君だったね」
そう、迷宮協会の罠に嵌って蘇芳秋良と一戦交えた時に助けてくれた自称魔王軍の四天王さんだ。
「お前は何者だ。何故、魔王様の名を騙る?」
マスク越しでも怒っているのがわかる。ってか、秒でオリエさんが化けた魔王が偽物であることを看破したのか。もしかして、凄い観察眼の持ち主……いやワンチャン、魔王様のストーカーの線も捨てきれない。
「ほお、一発で見抜かれたか……まあ、そうだろうね。他の人間ならいざ知らず、君たち四天王が魔王様を見誤るなどと思うのは私の傲慢か」
「御託はいい。理由を述べろ。魔王様の姿を真似るなど不敬の極みだ」
前回、会ったときは意思疎通に困るほど寡黙だったのに今日は饒舌だ。よっぽど腹に据えかねているのかもしれない。
ん? 待てよ。前のボクの魔王コスはセーフなのだろうか。厨二病っぽい台詞もたくさん吐いたし、転んだりスライム塗れになったりと、威厳を損なう行動ばかりしたと思うんですけど……。
「理由ねぇ……一つは世間に流布されたシロ君の疑いを晴らすためだけど、もう一つは……」
オリエさんも仮面越しに目が笑っているのがわかる。
「魔王様に化ければ、こうして君と会えると思ったからかな」
え? オリエさん、まさかこの事態も想定済みだったの?
「そうか……そのような戯言を抜かす輩には厳しい罰が必要だな」
「おや、私に勝てるとでも思っているのかい」
「っ……おまえが強者であることは知れている。しかし、魔王様のためにもその慢心、正さなければならぬ」
「ほお、少しは骨がありそうだね……」
「ちょ、ちょっと待ったぁ――!」
一触即発の二人の間にボクは慌てて割り込んだ。
「ふ、二人ともバトル漫画のキャラみたいなこと言ってないで、ちゃんと話し合おうよ」
いくらオリエさんが今回の茶番劇のために『迷宮の扉』を通行止めにしているとは言え、ここは異界迷宮の中、通りすがりの探宮者が現れる可能性もゼロでない。
なのに、こんな階層の浅いところで魔王四天王と魔法少女の激熱バトルが展開されたら、いろいろと不味い。
「……御身がそう仰るなら矛を収めましょう」
ダメ元で仲裁に入ったら四天王さんがすぐに言うこ聞いてくれた。
言動といい、もしかして、ボクが魔王だってバレてる?
「まあ、そうだよね。偽物がわかるなら本物だってすぐにわかるの当然か」
そう言うとオリエさんは変身を解き、元の可愛らしい魔法少女の姿に戻る。
戻るときには呪文を唱えないんだ……と思って見ているとオリエさんは目ざとく見つけて苦笑する。
「今、『戻るときは呪文とかポーズを取らないんだ』って思ったじゃろ?」
「べ、別にそんなこと……」
「言っておくが、本当は変身ポーズも呪文もいらないんじゃ。あれは、お約束というか伝統芸だから、仕方なくやっておるのじゃよ」
「そうなの? でも、何かノリノリだったような……」
「こほん……で、どうかね、四天王ノルテ君。ご要望通り、変身は解いたぞ。話し合いの余地はあるかの?」
「魔王シロフェスネヴュラ様がお望みなら」
「だって……シロ君」
「そう言われましても……」
とは言え、話し合いが可能ならそれに越したことはない。
「それじゃ、まあノルテさん……で良かったですよね。あの、オリエさんと平和的な話し合いをお願いできますか?」
「御身が望むと言うのなら」
どうやら即バトルは避けられそうだ。
「ありがとう、シロ君。ほんに助かった……さて、ノルテ君。君を呼び出した理由なのじゃが……」
「……」
「どうだね、私とパーティーを組まぬか?」
無言で戦闘態勢に移行する四天王さん。
「ちょ、ちょっと落ち着きたまえ、ノルテ君。君は短慮が過ぎるぞ」
「今のはオリエさんが悪いと思います。場の空気を考えて、言っていい冗談と悪い冗談があるんですよ」
ボクもジト目でオリエさんを睨む。
「なんか私が悪者になってないか? それにシロ君から普通にダメ出しされると、けっこう凹むんじゃが……いや、そんなことより……」
オリエさんは気を取り直して殺す気満々のノルテさんに向き直る。
「話は最後まで聞くのじゃ。これは、君にとっても悪い話ではないと思うがの」
「笑止。お前のようなイカれた輩と話す言葉など持ち合わせておらぬ」
「まあ、とにかく最後まで聞け……これは一部の人間しか知らない事実なのじゃが、UR以上のクラスの者に、高確率で前世の記憶みたいなものが生じることが報告されている。恐らく君の行動はそのような記憶に基づいているのであろう。そして、LRクラスの魔王なら、ほぼ間違いなく前世の記憶持ちの筈じゃ。ところが、君もすでに気が付いておると思うが、君の崇拝するこの魔王様にはそれがない」
ボクをチラリと見てオリエさんは言った。
え……ボクって記憶喪失してるの? 自分的には全くそうは思っていないのだけれど。
「…………」
ノルテさんは無言で会話を促す。
「ではどうしたら、記憶が戻るのか。ヒントは異界迷宮にあると私は思っておる」
そうなの? けど、もしそうなら、何でも迷宮のせいにするのは安直だと思う。
「異界迷宮に……?」
けど、ノルテさんには刺さったようだ。
「そう、シロ君はいつもこんな感じであるが、異界迷宮での戦闘中は少し人が変わるのじゃ。それも、良くない方向に」
あ、それは確かにボクも感じてた。自分が自分じゃない感じになる感覚を何度か経験してる。ちょっと危険で暴力的な自分にだ。
「だから、レベルを上げ、より深い階層に挑めば、自ずと記憶が呼び覚まされるのではないか考えておるのじゃよ」
本当にそうだろうか?
「それで……パーティーか?」
「そう、私と君とシロ君でパーティーを組んでS級迷宮を目指そうじゃないか……」
第101話をお読みいただきありがとうございました。
果たしてオリエさんの提案は通るのか(>_<)
ようやく鉄剤が効いてきたのか貧血も治ってきました。
けど、急な冷え込みで節々が痛いです。皆様もお気をつけください。
無理せず頑張ります!




