第100話 配信を終えると……
「えと……『奇跡の欠片』というパーティーで探宮者をしている『シロ』こと『シロフェスネヴュラ』です。どうぞ、よろしくお願いします。あ、五月から探宮を始めたばかりで、まだ駆け出しの探宮者です」
オリエさんが化けた魔王あのんの傍に立ったボクは、オルクス越しに配信を見ているであろう視聴者さんたちに、ぺこりと頭を下げる。あえて自己紹介をもう一度繰り返したのは、魔王の件で話題になっているとはいえ、ボクのこと知らない視聴者さんもいるかもしれないと思ったからだ。
「今日は来てくれてありがとね、シロ君。急なお願いにも関わらず、快諾してくれて助かったよ」
「いえ、今回の件は実際のところボクも困っていましたし……魔王様に逆らうなんて怖くて出来ませんから」
「やだなぁ、怖くナイカラネ。で、今回『シロ』君を急遽ゲストとしてお招きしたのは、ネットを中心に魔王あのんの正体が『シロ』君だと実しやかに噂されていると聞きましてね。だったら、答え合わせの意味も含めて、ぜひ一緒したいと思って、こうしてコラボすることになりました。それで合ってるよね」
「はい、魔王様の言う通りですね」
「と言う訳で奇跡のコラボと相成った訳ですが、どうです? 視聴者の皆さん。私とシロ君、本当にビックリするぐらいそっくりでしょ。魔王あのんの正体が『シロ』君だっていう噂を初めて聞いた私もすぐに配信を見に行ったんですが、あまりに瓜二つ過ぎて驚いちゃいましたよ。マジで双子の妹が探宮者になってるかと思っちゃいました、まあ、私に双子の妹はいないんですけども」
魔王あのんがテンション高めに話を続ける。ほんの少し声のトーンも高めに発声していてボクとの差異をさりげなく印象付けている。なかなか芸が細かい。
「けど、声もそっくりだし、誰かの検証だと行動パターンも似てるみたいらしいから、もう双子でいいんじゃないかと思ってます」
「いやいや、血のつながりは無いですよね、ボクと魔王様」
「そうだけども、こんだけ似てるとご先祖様が一緒とか……いやワンチャン異世界の私が転移してきたとか?」
「あの……そもそも、ここ異界迷宮ですけど」
「じゃ、異界迷宮人だ」
「どっちかって言うと、魔王様の方が異界迷宮人に見えますけど」
「ふむ、その質問は禁則事項になっていて残念だが答えられないんだ」
「そ、そうなんですか……あ、皆さん。ちなみにボクも今日突然、魔王様に拉致……もといお話しする機会を得たばかりなので、魔王さまについて実は何も知らないんです」
一応、そういう設定で行こうと話し合い済みだ。
「それと声を大にして言いたいですが、ボクはあんなに厨二病じゃないですからね」
「にゃ、にゃにお―、誰が厨二病だって? そっくりそのまま、シロ君に返してあげようじゃないか」
実際はボクが魔王あのんとして、やらかした数々なので、ぐさりと自分に突き刺さっている。けど、シロの時はちゃんと抑えているからバレてない筈だ。
「あと、ボクはあんなに強くないですから。ドラゴン瞬殺とか本当に人外じゃなきゃ出来ない所業ですよ」
「てへっ、照れるなぁ」
「全く褒めてないです
ボクのツッコミにオリエさんが的確に反応し、まるで漫才でもしてるようなノリだ。
「――まあ、そんなわけで。結論を言うと私たちは、いわゆる他人の空似ってヤツだな」
「そうなりますかね」
「けど、こんなに息ピッタリなら、やはりコンビでも組むか?」
「ヤですよ。ボク『奇跡の欠片』のメンバーの一人なんで、他のパーティーになんて入りたくありません……あと、魔王さまの変態にはついていけないんで……」
「ふ、ふんだ……私は孤高の天才だからソロで十分なのさ」
「ぼっちなだけじゃないですか」
「ぐさっ」
ぐさっ、自分で言って致命傷になってる。
あ、そうだ。メンタル凹ませている場合じゃなかった。この場を借りて言わなきゃならないことがあったんだっけ。
「あの、すみません魔王様。ちょっとだけ、うちのパーティーのお知らせしてもいいですか?」
「もちろん、構わないけど?」
「では、この場をお借りまして告知します。あの……ずっと『奇跡の欠片』チャンネルがプライベート・コール中ですみませんでした。詳細な理由は言えませんが、私事のため8月一杯そうした状況が続くかもしれません。ご理解のほど、よろしくお願いいたします」
そう言ってボクは深々と頭を下げた。
例の翠ちゃんの件は、この夏休み中に解決するとは、到底思えなかったので視聴者さんに予防線を張っておく必要があった。とにかく協力的というより孫に激甘なお祖父様を抱き込んで、何とか父親を説得する方向に持っていくしか、翠ちゃんが探宮者として生き残れる術が無いように思えた。その説得のためにも、まとまった時間が必要だろう。
「あれあれ、『奇跡の欠片』もいろいろ大変みたいなんだね。もし、シロ君が困ったら、いつでもコンビを組んであげてもいいんだからね」
「それは、さっき断りましたよね。大体、魔王様とボクじゃレベルが違い過ぎます」
オリエさん、割と本気で言ってる気がするぞ。確かに魔王スキル【魔王の矜持】のおかげでオリエさんの一つ上のレベルになっている筈だから、十分バディーとしてやっていけるだろうけど。
でも、それじゃドラゴンなんて倒せないレベルの探宮者だから魔王じゃないという論拠が崩れかねない。当然、却下だ。
「そりゃ残念だ。君となら上手くやっていけそうな気が……ん?」
「どうかしました?」
「いや、何でもないよ…………それより視聴者の諸君。そういう訳で私とシロ君が別人であることは、これでよく分かってくれたことと思う。さて、一応証明も済んだことだし、今回の配信はここまでとしようと思う。今日の配信を見てくれてありがとう、感謝しているぞ。シロ君は何か言い残したことあるかね?」
「いえ、別にありませんが……最後に、皆さん今日はありがとうございました。これからも『奇跡の欠片』は頑張って探宮していきますので、どうかよろしくお願いします」
オリエさんが急に配信を終えようとしたので、怪訝に思いながらもボクもそれに合わせて、終わりの言葉を述べる。
「それでは視聴者諸君、余の再びの降臨を期待するように……」
そう言うと、オリエさんは浮かんでいる全てのオルクスを停止させ配信を終えた。
「あの……何か、あったんですか、オリエさん?」
気になったボクは配信が確実に終了したことを確認すると、すぐオリエさんに尋ねた。
「まあね、どうやらお客様が来たようだよ……そこにいるのはわかっているんだ。隠れていないで出てきたまえ」
オリエさんは冷たい笑みを浮かべながら迷宮の奥に向かって声をかけた。
第100話をお読みいただきありがとうございました。
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
体調もようやく回復してきましたが、無理せず頑張りたいと思います。




