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第99話 謎の特典


「では、どうぞ。今日のゲスト、奇跡の欠片のシロ君です!」


 魔王あのんに促されて、ボクは先日話し合いに使ったばかりの取材用の会議ブースから姿を現した。プライベート・コールが使えない状態で『魔王の憩所(いこいじょ)』から出る訳にはいかなかったので、あらかじめ会議ブースに待機していたのだ。


慎重な足取りで魔王あのんの近くまで進み出ると、貸し出した【VR-15D(魔王オリジナル)】のオルクスが一斉にこちらへと視線を向けたのがわかる。何度も配信している筈なのに、何だかいつもより注目を浴びている感じがして顔が赤くなり、ほんの少し怯む。その怖気心を何とか呑み込み、ボクは魔王あのんを見た。表情は仮面に隠れて見えないが、わかっているのは仮面を外した顔はボクに瓜二つということだ。まさに自分が二人存在しているみたいで不思議な気分だ。


 さて、こんなことになった理由を説明するためには少し時間を遡る。そう、ボクがオリエさんの提案を受け、『国際迷宮機関(I・L・O)』に所属することを受け入れた時点まで。


◇◆◇◆◇◆


「わかりました、オリエさん。ボク、『国際迷宮機関(I・L・O)』に所属することにします」


 ボクがそう答えるとオリエさんは目を輝かせながら念を押す。


「ありがとう、つくも君。本気と受け取って間違いないね?」


「ええ、間違いありません。よろしくお願いします」


 ボクが真剣な顔で頷くとオリエさんは見るからに安堵の表情を浮かべた。


「いやぁ……良かった。正直、今までの感触から無理かもしれないと思ってたよ」


「緊急避難的な意味合いも大きいですから。またオリエさんたちが信用を失うような事をしたら、すぐに退職しますからね」


「もちろんだとも……では、この『採用志願書』に本籍地と現住所、氏名を記入してくれたまえ……」


「わかりました……そう言えば、さっきの提案の中で『魔王バレ』を解決できる特典があるって言ってましたよね」


 差し出された書類を記入しながら、ボクは気になっていた特典のことを尋ねてみる。


「ああ、そのことか。書き終えてから説明するとしようかの」


 あくまで契約が成立するまでは明かさないつもりらしい。確か、向こうの機密事項にあたることがあると言ってたから慎重になるのも当然だろう。


 書類を書き終えオリエさんに渡すと、じっくり見直してから頷いた。


「うん、間違いないね。これで君も正式な『国際迷宮機関(うち)』の職員だ。けど、つくも君って可愛らしい字を書くんだね」


「ど、どうせ字は下手ですよ」


 ボクの書く文字は、ちまちました丸っこい字で、ちょっと個性的なのだ。小学校の時にクラスの男子から、よく揶揄われたせいで人見知りの一因となっているぐらいだ。


「そ、んなことないよ。つくも君の字、昔から私は好きだよ」


 すぐに蒼ちゃんがフォローしてくれたけど、蒼ちゃんの字はとても綺麗で読みやすく、いつも羨ましく思っていたから、その優しさが逆に辛い。

 自分の字が下手なことは自分が一番よく承知しているから大丈夫さ。くすん。


「いや、蒼君の言う通りだよ。そんなに卑下するほどではないと思うぞ」


 いやいや、貴女が余計な事言うから、ボクが心にダメージを負ったんだからね。


「とにかく、これは確かに受け取った」


 オリエさんはボクの書いた『採用志願書』を大事そうにしまうと、蒼ちゃんたちに改めて向き直った。


「さて、先ほども話したけれど、君たちもつくも君と同様に『国際迷宮機関(I・L・O)』に所属する気があるのなら、あとで用紙を渡すが、どうするね?」


 オリエさんの問いかけに、蒼ちゃんや朱音さん、翠ちゃんも所属を希望するする意思を表明した。玄さんに聞いていないので全員一致とはならないが、『奇跡の欠片』が『国際迷宮機関(I・L・O)』所属になるのは、ほぼ決まったと考えて良いだろう。


「本当に良いのかね。特に、蒼君はずっと反対の立場を取っていたように見えたが」


「反対したのは、つくも君のことを考えてのことです。なので、つくも君が所属することを決めたなら私が所属することは自明の理です」


「健気だねぇ。本人はたぶんわかってないと思うが……」


「余計なこと、つくも君の前で言わないでください」


 蒼ちゃんが射殺すような視線でオリエさんを睨みつける。

 

 ん? どういう意味?


「怖い怖い……それはさておき、特典の話じゃったの」


「はい」


 ボクが期待を込めた目で見るとオリエさんは少し照れくさそうに立ち上がった。


「え~と、これからのことは『国際迷宮機関(I・L・O)』の機密というより、わし個人の秘密であるからの。他言は絶対無用でお願いしたいのじゃ」


「? ええ、もちろんです。みんなもそうだよね」


 蒼ちゃんたちに声をかけると、みんな肯定の意を示す。


「うん、わかった。ほんじゃ、やるかの……やっちゃうかの」


 オリエさんは何故だか恥ずかしそうにテンションを上げる。


「……おっと、そうじゃった。ところで朱音君、わしが何のクラスか覚えておるかの」


「え? ああ、確かUR(ウルトラ・レア)クラスの『魔法少女』でしたよね」


「さすがは蘇芳秋良の娘、よく覚えておるの……だからまあ、そういうこと……なわけさ」


「え?」


 意味不明なことを口走るオリエさんは少し開けた場所に行くと、不意に右手を高々と上げた。そして…………。


「――マジカル・パラレル・メタモルフォーゼ!」


 ま、まさか……。


「『一色白(いっしきつくも)君』になあーれ!!」


 オリエさんは、まごうことなき魔法少女だった。


 いや、見た目が少女っぽいので誤魔化されているが、中身を知っているボクからしたらかなりのドン引きだ。


「うわっキッ……」


 オリエさんが、かなりアレな魔法の呪文を唱えると、指に嵌められた魔法のリングが光り輝き、オリエさんの全身を覆う。そして、その輝きの中ちょっと叡智なシルエットが浮かび上がったかと思うや否や、フラッシュのような眩い光が辺りを包み込み、やがてすーっと消えた。すると、オリエさんの立っていた場所にオリエさんではない女の子が立っていた。

 否、どこから見ても、それはボクだった。


「ど、どうかな? 上手く変身できた?」


 声までボクにそっくりだ。いや、仕草や表情も完璧にボクだった。


「す、凄いです! つくも様が二人になりました。これなら尊さも二倍です。そうだ、蒼さん。二人いるなら一人は、わたくしがもらっても良いですよね」

 

 あ、翠ちゃんが壊れかけてる。


「落ち着け、翠。一人はオリエさんだ。中身がそれでもお前はいいのか?」


「がーん、そうでした。残念です、パチものはノーサンキューです」


 意気消沈した翠さんは、それでもオリエさんをまじまじと見つめたまま呟いた。


「このわたくしの眼を持ってしても、一瞬とはいえ見誤るとは、魔法少女恐るべし」


 いや、一瞬で違いを判別できる君の方が怖いから。でも、ボクから見ても全く違いがわからない。


「翠ちゃん、いったいどこに違いがあるの?」


「可愛い方がつくも様です! 愛があれば、すぐにわかります!」


 どうやらオカルトのようだ。 


「ですが、これならオリエさんの言う特典と言うのも、まんざら嘘とは言えませんね」


 翠ちゃんが後方彼女面で腕を組みながら納得したように頷く。


「でしょ。だから、つくも君。魔王あのんの衣装と【VR-15D(魔王オリジナル)】を貸してくれたまえ」


 ボクと同じ顔が同じ声で話すのを聞くと、とても変な感じだ。


「そして、二人で仲良くコラボ配信と洒落(しゃれ)こもうではないか」


第99話をお読みいただき、ありがとうございました。

少しの間、お休みをいただき大変申し訳ありませんでした。

検査結果も異状なしで原因不明のままです。

体調は低空飛行ですが、無理せず頑張ります。

今年の更新はこれが最後です。今年一年本当にありがとうございました。

来年もよろしくお願いいたします。

皆様も良いお年を♪

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― 新着の感想 ―
きつとババア無理すんなとか言ってよくシバかれてる職員とか居そう。 お大事に~
レッドドラゴンを余裕で倒した辺りから、何となく感じてましたが。やはり魔王の方が偽物でしたか。 しかし正体が老婆の魔法少女の振る舞いとか、読む側もきつい…。 そしてどうかご健康に気をつけて。
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