プロローグ
どうやら夢を見ているみたいだ。
いつの間にか、僕は今度入学する高校の真新しい制服に袖を通して、見覚えのない草原にぽっかりと開いている迷宮の入口に立っていた。
だから、これが夢だと僕にはすぐにわかった。何故なら僕は一昨日、中学の卒業式を終えたばかりで、この制服を着て外へ出るのはもう少しばかり先の話だったからだ。
そもそも制服自体、合格発表後に採寸したばかりで、まだ家にも届いていない。
それに迷宮に入る資格だって16歳の誕生日を迎えていないと駄目だから、5月生まれの僕がこんな状況になること自体があり得ない話なのだ。仲間らしい人影も周りに一人も見えないのもおかしい。
あの異界迷宮に単独で挑むことなんて、無謀な行為に等しいことだからだ。
だいたい僕自身、探宮者になる気など全く無かった。そりゃ小さい頃は憧れはしたけれど、大きくなるにつれ現実というものを理解したのだ。いや、理解させられたと言っていい。探宮者というのは選ばれた者だけが成功する特別な世界なのだと……。
(まさか、夢に見るほど未練が残ってるとは思わなかったな)
心地よい風が吹き抜ける中、僕は小さくため息をつくと、迷宮から立ち去ろうとして何気なく空を見上げた。
(あれ?)
視線の先の雲一つない青空に黒い小さな点が見えた。
(何だろ……)
目を細めて見つめていると黒い点はみるみる大きくなっていき、輪郭がハッキリしてくる。
(え……まさか人? っていうか女の子が落ちてくる?)
どうやら落下してくるのは、黒髪で無いことから外国人の少女のように見えた。
(まずい、このままじゃ……)
危険を感じて逃げようと動き出した時には、すでに遅かった。
(ぶつかる!)
目の前に少女の顔大写しになる。
無表情だった彼女の瞼がすっと開き、目が合った。
(綺麗な紅い瞳……)
次の瞬間、目の前が真っ黒になり意識が暗転した。




