扉
「フー終わった」
来週早々お得意様に提出する書類作成がやっと終わる。
腕時計に目を向けると12時を過ぎていた。
あー今日もタクシーで帰宅かぁ。
まぁいい早く帰ろう。
後片付けをして廊下に向かう。
電気を消そうと腕を伸ばしてスイッチを押そうとしたら、押す前に電気が全て消えた。
へ?
廊下の電気も全て消え非常灯だけが灯っている。
窓に近寄り眼下を見下す。
真っ暗な街並みが広がり、車のヘッドライトが道を照らしてるだけ。
停電か。
スマホで停電情報を得ようとしたら、復旧の見込みは未定っていうものしか得られなかった。
あぁ……停電だと当然エレベーターは使えないから、階段を降りることになる。
でも俺がいるのは50階建ての本社ビルの上層階。
高さが約250メートルあるビルの200メートル付近。
40階も歩いて降りなくちゃならないのか。
エレベーターや階段があるホールに行くまでに電気復旧を願うがそんな都合の良い事にはならず、ホールも真っ暗で非常階段の在処を示す非常灯が灯っているだけだった。
階段の前の扉を開ける。
階段の上を見ても下を見ても真っ暗な闇が広がり、階ごとの非常灯が薄く階段を照らしていた。
手すりに手を添えて階下に向けて階段を降りる。
俺、子供の頃から暗い場所苦手何だよなぁー。
闇が広がる階段の上下、自分の知らない異世界に繋がっていそうじゃ無いか。
それに、非常灯が灯る各階の扉が突然開き得体の知れない化け物が現れるかも知れない。
苦手な暗い場所にいるとそんな怖い事ばかりが頭に浮かぶ。
そういえば子供の頃友達の家で見たマンガに、異次元の階段に迷い込んだ男たちが幾ら階段を上り下りしても出口に行き着かないってのがあったな。
それだけは嫌だ。
そんな取り留めのない事を思いながら階段を降りて来たが、今何階だろう?
非常灯が灯る扉に近寄りスマホの明かりで階を確に…………。
何だよ! 25.55階って。
誰かの悪戯か?
階段を降り次の階の扉に書かれている階の数字を見る。
25.555階? 何だよこれ、階段から出てホール側から確認しようと扉のノブに手を掛けてガチャガチャと開けようとしたけど、開かない。
階段を駆け降り次の階の扉をガチャガチャと開けようとしたけどここも駄目。
俺はまた階段を駆け降り次の階の扉に手を掛けた、でも駄目だった。
ドンドンドンドン!
「誰か! 誰かいませんか! 開けてください!」
扉を叩き大声を上げる。
扉に耳を押し当ててホール側の音を聞こうとしても何も聞こえない。
スマホで助けを求めようとしたら圏外。
「ヒィィィィィーー!」
俺は悲鳴を上げ階段を次々と駆け降り、駆け下りるごとに扉を開けようとする。
ガチャガチャ
ガチャガチャ
どの階の扉も開かない。
「ワアァァァァーー!」
悲鳴を上げ続けながら俺は、ホールに出られる扉を求めて階段を駆け降り続けていた。