奇跡の残り香と結界石、そして血の代償
村へ帰り着いたと思った時、それは起きた。
途中まで終始悪くない感じの無言だったアトリアが、激怒する程度の事。
先頃使ったポイントによる力の代行、それが終わっていなかったようで。
これは意図しない事故であったけれども、起きた結果は割と大事なようだった。
そう、結界に何故か弾かれて村に一時的に入れなくなった上、無理やり押し通ったのだ。
結界にはいくつか種類があるが、忌避感や道に迷うといったあまり物理的に作用しない結界のはずだったらしい。
それが、ボクが通ろうとしたときだけ急に磁石の同極同士を近づけたかのような斥力が働いたのだ。
何度も通ろうとしているうちに、村の結界石が傾き倒れてしまった。
書かれていた紋様が色を失って剥がれ落ちるおまけ付きでした。
「なんて事してくれるのよーーーー!?」
『わざとじゃないです、自分でもなんでこうなったかよくわかりません。』
「アンタに結界直せるの? 無理でしょ!」
『そりゃそうですが、不可抗力です。』
「やっぱ聖獣だと思ったのは間違いだったみたいね。」
おでこチョップを食らった。
反撃にしっぽスイングを食らわせてやる。
『勝手に聖獣やら害獣やら認定しておいてボクの意思は無視?』
「あー、もうこうなったらアンタの一部を素材に結界を貼り直してやるんだから!!」
首根っこを掴まれて地面に押さえつけられた。
なので首から下を腕に巻きつけ、ひっかきに掛かる。
『横暴、動物虐待反対!!』
「うるさい、ちょっとじっとしてなさい!」
アトリアは石剣とは別の刃物(石製)を取り出した。
噛みつきも追加してやる。運動した後の汗の味。
『いやーーっ! 乱暴する気でしょう!? 玩具みたいに遊ばれて捨てられるんだわー!』
「何言ってるかわからないけど、もう逃げられないわね。」
首元に突きつけられる刃物。
嫌な汗が肉球を伝う。
『まて、早まるな。落ち着いて話し合おうじゃないか』
「もう遅いのよ。」
残念、ボクの抵抗はここで終わってしまった。第一部完。
…でもなかったようで。
「はい、アナタの血を貰ったわ。」
『生きてる…?』
「何をやっておるんじゃ。騒がしいのがそこまで聞こえておったわい。」
ヴァレトリさんが騒ぎを聞きつけてやって来たようだった。
そしてカクカクシカジカの説明の後、無事倒れた結界石は元の場所に据えられた。
ボクの血で描かれた紋様があるおまけ付きで。
結界の効果を見るためしばらくは様子を見に来るという。もちろんボクを連れて。
出血大サービスの骨折り損のくたびれ儲け。
「それはお互い様でしょ。」
お後がよろしいようで。