紋様と浄化そして祈り
村に帰ると、すぐにアトリアの家へと向かった。
「師匠、大きめの魔石の魔物が出たわ。瘴気の浄化の準備を。」
そう言うが早いか、アトリアは以前見た仮面とひときわ模様の細かいポンチョの様な上着を取り出していた。
「どの程度のモノじゃ? ワシの出番か?」
「こぶし大の大きさ、リスの魔物。私で対処できそう、やっても良い?」
「分かったわい、後で確認に行くからの。」
「アナタにはこれね。」
そう言うと、アトリアは赤い色をした液体と筆を持ってきてボクの前に立った。
『塗るの?』
「魔除けの文様を描くわ。魔術的なものよ。」
『あんまり変なのにしないでね』
「アナタ次第ね。動くと変になるから。」
『くすぐったい〜、冷〜た〜い〜。』
文句を言いながらもなるべくじっとしていると、体の各部に模様を描かれた。
部屋にあった金属を磨いた鏡を見ると、歌舞伎の隈取り的なカッコ良さの化粧をされたように見えた。
「すぐ出るから、見とれている余裕はないわ。」
『どんなのかもっと見ーせーてー。』
その後、アトリアに片手で抱え上げられながらボクはまた村を後にした。
『自分で歩けますが?』
「下手に動くと描いた文様が落ちるからよ。」
『1つ言っていい?』
「何?」
『持ち方下手くそ。』
「畜生め、黙れ。」
そう言いつつ持ち直してくれる辺り好き。言わないけど。
再び森へ入ると、すぐに先程感じた嫌な臭いがするのを感じた。
アトリアに方向を指示して向かわせると「ソレ」はあった。
黒くてドロリとした液体が地面から分離されていく最中に見えた。
アトリアはそこまで感じないらしいが、ボクにはむせ返るような不快な臭気を放っているよう感じられた。
中空に分離され漂う球体の中に何か動物の影のようなものが見えた。
「アレの中に生き物が取り込まれて、もがき苦しみながら魔核が作られていくわ。」
『それで、どうするの?』
「私達は模様のおかげでアレの影響を受けにくいわ。少し時間がかかるけど、浄化を手早く終わらせるわ。
『それで、ボクは何をすればいいの?』
「もしも瘴気の沼から上がってくる魔物化した動物がいたら食い止めてちょうだい。」
そして、アトリアは跪くと何事か呪文を唱え始めた。内容から考えると祝詞とかに近いかもしれない。
神に力の行使をお願いする内容のようだった。
「…偉大なる地の女神シェバナよ。地を覆う瘴気を祓い清める力をお貸し下さい。ルランツ・アルラ・マイレイ…」
『…。』
特に問題も起きなそうだったのでボクも少し目を閉じてお祈りの真似事の様な事をしてみた。
少しは力になれるかもしれないと思ったのだ。
__汝に力を授ける__我が眷属の末席に連なるものよ__
…!?