水浴びと朝食そして不足物
村の一日は早い。
朝起きると、まず水浴びをする。
巫女見習いにアトリアは当たるそうで、清めるのは大事なことらしい。
だが、それに巻き込まれて高山の早朝の凍える中を泉に投げ込まれる身にもなってほしい。
「起きないから仕方ないじゃない。」
『疲れてたんよ。』
「昨日は名前つけただけじゃない。」
『何か体に負担がかかりそうな光り方してたけど?』
「そうね、私も疲れたわ。」
『ほんなら、もう少し手加減してくれてもええんやで。』
「なら、アナタももう少し早く起きられるよう気を付けなさいな、ラビィ?」
『無意識はどうにもなりませんー。』
などというやり取りをしながらもアトリアはボクを洗っていく。
石鹸みたいな泡立ちのする謎の草の汁を使って。
文化が違うと使う物が変わるんだなとかどうでも良い事を考えていると、洗い終わったようだった。
後は流すだけかなと思っていると、首根っこを掴まれて思った。
コレはマズイ流れだ。コイツまたやる気だ。
そして泉にまた放り込まれた。
アトリアはと見ると、少し離れたところでこちらの様子を眺めていた。
やりやがったなチクショウめ、至近距離でブルブルしてやる。
「ちょ、こっ来ないでよ。そのために投げ込んだのに!」
『それは災難でしたな、もっと丁寧に扱えー!』
そして追いかけ回して村に戻ること数分。
乾いた。
村に戻ると家で朝食が待っていた。
粉々になった芋のデンプンを水と塩で練って焼いた主食。以上。
他にないのか聞くと、あるけど冬場は節約が大事との答えが帰ってきた。
そうだね。ないものねだりは出来ないね。
いつか食料事情を改善せねばなるまいと心に誓った。
え? お前、草食なのか肉食なのかって?
分からん、分かるまでは雑食系です。
とりあえず、この体で美味しいと感じられるから問題があってももう少し様子見。
質素倹約な食事の後、アトリアに連れられてヴァレトリさんの前に連れてこられた。
「師匠、今日の仕事は?」
「そうさね、薬草がちと足りん。主に体を温めるものじゃな。」
「分かった、採取に行けばいいのね。」
「話が早くて助かるの。」
「ラビィは連れて行って良い?」
「いいじゃろう、ただし無茶はさせるでないぞ。ワシでも知らん獣じゃから、調べてみたいこともあるでの。」
「分かったわ。主に私で何とかする。」
「それで、薬草の残りの詳細はどんな感じ?」
「アウィリンリの数が節約して3日といったところじゃの。ウツも少なくなっておるが、次に行商人が来た時にでも買い込めば良かろう」
「そうなると、交渉材料にヤナリリウの数があった方がいいかも知れないわね。」
…
分からん。
専門用語の飛び交う初心者には厳しい職場です。
とりあえず、二人の会話について行けそうもないので辺りの様子を観察する。
乾燥した植物の入ったツボが幾つか確認できる。
あの中に足りないものもあるみたい。
葉だけではなく、根を使うものもあるみたいだ。
見ただけではどれがどの植物かなんてそうそう分からないと思った。
特に、ここは地球ではないようだし。
そうこうしている内にアトリアとヴァレトリさんの話が終わったようだった。
「準備できたらすぐに出るわ。アナタも何かあれば今の内にしておくことね。」
『準備って何をすれば?』
「そうね、アナタに物理的な準備は難しそうね。知識でもあれば役に立つんじゃないかしら?」
「ワシで答えられることなら聞くが良い。」
『ボクでは危ない相手って例えばどんなの?』
「鳥じゃな、肉食の鳥がおるでの。気をつけるんじゃぞ?」
鳥かぁ…、対空用の技とかなんも習得してないから警戒するしかできそうにないや。
『他には?』
「熊じゃな。お前さんなぞ一噛みじゃ。」
熊、逃げるには目を合わせないようにしてゆっくり動くんだっけ?
多少は分かっても自分やアトリアでどうにかなるようには思えない。
危険な世界に来てしまったようだ。
そういえば、魔法とかの不思議な力がこの世界にはあるみたいだし、それを聞いてみようか?
『魔法ってボクにも使える?』
「それはワシにも分からん。じゃが、魔術の初歩なら教えることができるが?」
『教えて。』
「そうじゃの、基本は強く念じることじゃ。成したい現象を想像し、自らの一部を使って引き起こすといった感じかの。」
『自らの一部…』
「何事かを成すには対価が必要じゃろう?」
『もっと詳しく。』
「魔術は詠唱を行うと効果が安定しやすくなるぞい。」
『詠唱なしだと不安定?』
「練度によるがの。」
「準備出来たからそろそろ行くわよ。」
『まだ心の準備が…!』
「馬鹿な事言ってないで出かけるわ。」
「くれぐれも気をつけるんじゃぞ。」
そうして、ボクは連れ出された。