目醒め
「先に言ったな、この眼は剣で、奴は獣だと」
『あぁ、それはつまり』
「同胞だ。奴と俺は。作るもの、担うものが違うだけで同質の力を宿している」
今は話し合えているものの、何時再び戦闘が起こるかわからない為に魔力を込め続けている右眼の瞼を指で上げ、ゼルは簡潔に説明した。
「俺がこれに目覚めたのは三年前だ。……厳密には生まれた時からだが、明確に目覚めたのは」
『待て』
「なんだ」
王眼を宿した時のことを語ろうとするゼルを、枯樹人は手で制した。
『私が聞いているのは』
「獣の王の事だろう、分かっている。取り敢えず聞いてろ」
『…………』
唸る枯樹人を無視し、ゼルは話を再開させる。
「明確に目覚めたのは今から三年前の冬だ。前日に初めて右眼に魔力を込めたからか、その日は右眼の激痛で目を覚ました。そして……」
地獄が始まった。
『地獄だと?』
「そうだ。起きている間は常に右眼が痛み、それを晴らすように魔力が勝手に剣を作りあげて滅多矢鱈に振り回す。簡単に言えば暴走だな。それは月が一巡りするまで続いた」
暴走している間、ゼルは周りに迷惑をかけないために、親に頼んでとある場所に自分を移動させた。
「そうして収まると、こうして自在に剣を作り出せるようになっていた」
言いながら手元に剣を作り出したゼル。
とある場所――例の地下室――から出た時に、ずっと暗い空間に居たことで光を忘れた目を灼こうとしてきた太陽を、無意識に作り出した盾で防いだのはいい思い出だ。
それに自分で驚いて、外に居た妹に暫く気付かなかったのも。
ゼルはそう、弱く笑った。
「そして、同時に、これが偶に脳裏に浮かぶ様になった」
剣を消し、指輪の状態の黄金を直剣に変えるゼル。
『それが縁か?』
ゼルは首肯した。
「だが当時は何か分からなかった。ただ鬱陶しいナニカとしか思っていなかった。……今も変わらんがな。勿論、王眼についても知らなかった」
『では何故知った。我ら樹人との繋がりも何も無いではないか』
「旦那様」
いつまで経っても魔王について語らないゼルに、強い口調で問い掛ける枯樹人を諌める森の小精。
「長寿にしては短気だな」
『なんだと?』
「旦那様!」
ゼルのぼやきに反応した枯樹人が、軽く木々を蠢かせるのを森の小精が強く諌め、ゼルに挑発するなと非難の目を向けた。
この話し合いは、既に森の小精が居ないと成立しないものになっていた。
「魔法使いだ、知った原因は。暴れ回ってた頃の魔力を感知して、春に二人の魔法使いが家に来た。幼少の頃に俺が魔眼を宿していることを仄めかして使わんよう警告した幻想の主と、氷の大地の主だ」
『おぉ……っ!』
ゼルが告げた二人の魔法使いに、枯樹人は感嘆の唸りを上げた。
『あのお二人は存命であったか……! ならば……、どうした?』
興奮した様子の枯樹人を横目に、ゼルは森の小精に目線を送り、森の小精は首を横に振ったあとに頷いた。
そんな様子に何か嫌なものを感じた枯樹人は、二人のやり取りの意を訊いた。
「家に来たのは導きのヒタンと、放浪爺ゾロディナだ」
『? 何を言うておる。放浪爺ゾロディナ? 違うだろう、幻夢エイジアであろうが』
その言葉に、ゼルは無言で首を振った。
「当時最強と謳われた魔法使いエイジアは、危機に陥ったヒタンを逃す為に命を落とした」
『なん……っ!』
「その際に彼が使ったのは、あんたのいう"渡り"の術から着想を得て作り出した、転移の魔法だそうだ。いや、厳密には似たものか。幻想の主はかの地を経由して移動出来るらしいからな。それを利用したのかも知れん」
遂には打ちひしがれた様子で、枯樹人は近くの木の根を呼び寄せて座り込んだ。
これから語る内容の一端は、この樹人に多くの絶望を叩き込む事になるだろう。
ゼルはそう確信していた。
禁忌を犯した。この男はそう言った。
樹人にとって、森の調停者にとっての禁忌など、考えるまでもない。
循環の理から外れ、森の殺戮者へと反転する程の強い覚悟を以て戦ったこの戦士にとって、戦いの結末は決していいものとは言えない筈だ。
『……他には』
「ん」
『……他には、誰が。導きのヒタン以外に、誰が残っている』
「…………良いのか」
自分でも分かっていた枯樹人は、聞かねばならぬと力無く問い、力無く頷いた。
「当時を生き抜いたのは、妖姫アルミド、星狩りのクルヌテ。ヒタンを除けばこの二人だけだ」
『………………九人も、死んだのか』
「ヒタン自身が俺に語った事だ。貴様の宿す魔眼は、王眼は、これだけの事を為せる程に強大なものなのだとな。奴が偽っていない限り、確かだろうよ」
今度こそ、枯樹人は何も言えずに沈んだ。
彼が脱落した時は、魔法使いの死者はまだ四人だった。
そして、その内に彼ら樹人の父にして母たる、クリナミルストの担い手は含まれていなかった。
だが、彼の者の名はゼルの口からは出ていない。
「……ヒタンは問うた」
沈む枯樹人を前に、ゼルは静かに語り出した。
まだ魔王との邂逅も、何故自分が樹人の言葉を解するのか語っていないから。
「死か、服従か、若しくは監視下の平穏か。それらに猛る俺に爺さん……ゾロディナがヒタンには内密で一つ提言した。旅に出ないか、と。俺はそれに飛びついた」
当然だ。他に選択肢など無いのだから。
「どうやってかヒタンを説得して見せたゾロディナと俺は直ぐに旅に出た。……そして、クネメという街に寄った時、奴と出会った」
あの時の光景は鮮明に思い出せると語るゼルの手に、自然と力が入った。
「クネメの外壁から高く黒煙が上がっていたのを見た俺たちは、急いで街に駆けつけた。そこにあったのは多くの死体と瓦礫と、それらを量産していく二体の獣」
その獣達こそ、紫眼の同胞の獣であった。
「俺は何とかしなければと、ゾロディナが向かった巨獣よりは多少小さい奴に向かって吶喊して……まぁ、死にかけた。で、その時でさえも脳裏に過ぎる黄金に、活路があるのでは無いかと全ての魔力を注ぎ……呼び寄せた」
『呼び寄せた……? 作り出せたではなく、か?』
流石に疑問を放置して聞き続けようとは思わなかったのだろう、枯樹人はゼルの言い方に覚えた違和感に首を捻った。
「あぁ、戦いが終わったら消えてたからな。呼び出したと言った方が正しいだろうよ。兎も角、そうして呼び寄せた途端、眼と黄金二つの力に反応した奴が、己の意識を獣に移して俺を見た」
そして告げたのだ。
「あぁ、我が目醒めたのは貴様が原因か。と」
『っ!』
「駄目です! お願いだから抑えて下さい旦那様」
ゼルの口から放たれた魔王の言葉に、枯樹人は蔦を嗾けようとするも、森の小精に拒まれた。
「……この森の獣たちには、奴の目醒めは関係ないぞ。あんたを殺すよう命じられたんだろう? 森を大きく蠢かせるものを警戒して」
『…………分かっている。だが』
「他に押し付けたい気持ちは分かる」
『………………』
それは枯樹人自身が言ったことだ。
何故自分を殺す為に魔王が遣わせた獣が未だに生きている? と。
「でも、旦那様の目覚めには無関係じゃない」
「『は?』」
唐突に挟まれた否定に、ゼルと枯樹人は声を合わせた。
そこからは、枯樹人を諌めるだけに留めていた森の小精が話の場を支配した。
「確かに獣達が動き出したのには貴方様は無関係です。でも旦那様の目覚めを早めさせたのは、貴方様です」
『何を言っている?』
「……?」
確信を以てゼルを示す森の小精に、やはり二人は首を傾げたまま。
「血ですよ、貴方様の血。それが無ければ旦那様の目覚めはあと、……そうですね、二三日程は遅れていたはずです」
「血……」
思わず自分の身体を見下ろすゼルは、その血に心当たりがあった。
「愚醜人と一緒に狼共と戦った時か? だがその時には既に……というか、その愚醜人は何処にいる」
『向こうで伸びている』
「…………そうか」
そう言えば姿が見えないと訊いたゼルに答えた枯樹人の言葉は、実に簡潔だった。
「貴方様の疑問はご最も。でも言ったでしょう? 旦那様の目覚めはあと数日と。既に力が高まっていて、狼達はそれに反応していたんです。……まぁ、貴方様の血が無ければ、旦那様はここまで動けなくてやられていたでしょうが」
「『…………』」
森の小精の言葉に、遂に二人は軽い敵対状態なのを忘れて目を合わせた。
「つまり、なんだ。俺は敵に魔力を送ったと?」
『それで私は救われたと?』
「えぇ、その通りです。だって旦那様、つい先程まで声を出せる以外はただの木と同じだったのに、今は普通に動けるどころか森全体を動かせたじゃありませんか。それに絶え間なく吸っていた血を吸っていない」
思わず枯樹人は己を見て、ゼルは血の池に視線を向けた。確かに最初に見た時と比べても殆ど減っていなかった。
「信じられませんか? なら試してみましょう。協力してもらっても?」
「あ、あぁ」
「では手首を出して」
衝撃の事実に呆然としたゼルは、森の小精に言われるがままに手首を差し出し、近寄って来た蔦を受け入れ、血を吸わせた。
すると、ゼルと同じく森の小精の言葉に呑まれていた枯樹人に、森に変化が訪れた。
枯樹人の樹皮の縦割れに血の赤い線が迸り、闇しか移していなかった眼窩に淡い魔力の光が灯った。
そして森は、草が伸び、木々が実り、花が咲いた。
『おぉ……、力が漲って、森が蘇っていく……!』
「これは……」
「ね?」
してやったりと言わんばかりに弾んだ声に、二人は再び顔を見合せた。
『そう言えば、話が中断されたのだったな。続きを頼む』
先程までの沈んだ様子は何処へやら、芯のある声で枯樹人は問い掛ける。
そこには敵意の一切が存在していなかった。
ゼルは枯樹人の変わり様に少しばかり呆けた後に、再び語り始めた。
「……奴は言った。魂だけで生かされてると。そんな状態でも目醒めてしまったのは俺という後継者が生まれたからだと。奴が目醒めたのは、俺が王眼に目醒めた冬の日だったらしい」
黄金によって無限に生成される血を遠慮なく吸っていく蔦に、どれだけ吸う気なんだと疑問を抱きながら、ゼルは枯樹人の様子を見て話しを再開させる。
その眼は既に、元の黒い瞳に戻っていた。
枯樹人の薄らとした光の眼からは、正確な感情は伺えない。
それでもゼルは、その光に知性と理性を見出し、殺意を初めとした敵意が無いことを察した。
「それで敗北して、目が覚めたら黄金が消えていて、色々あって村に戻った。そしたら全てが無くなっていた」
『……何?』
「滅んでたんだよ、村が。代わりに一つの迷宮が出来ていてな、そこから飛び出した奴が皆を虐殺したんだと」
ゼルは軽い口調で自分にとっての絶望を語った。
「でもその中に両親はいなかった。妹と、多くの友人達は失っても、まだ一縷の望みがある。そう判断して、誰も入れないとかいう迷宮に足を踏み入れた」
『待て、迷宮だと? 貴様を隔離した空間がなったのか? ただ一ヶ月魔力を発散させた程度で?』
「俺の魔力は魔法使い曰く歪らしくてな。それが原因の一端かも知れん」
枯樹人の問いにもやはり、軽い口調で答えていく。
「……でも、そんな魔力でも両親との共通点はあったらしい。迷宮にあった大扉に魔力を注いで開けると、両親の死体とそれを見下ろす騎士が居た」
『…………』
「奴は強かった。それこそ、不死の黄金を呼び出すくらいには。それでも勝てなくて、全身切り刻まれて、激痛に喘ぎながら戦って……気付いたら騎士はいなくなっていた。そして黄金が残った」
だが、どうしても沈んでしまう。
「……俺は、何かを諦めそうになっても諭して、支えて、そうして導いてくれた両親に報いようと思っていた。だが、失った。何もかも、全て気付かない内に」
『……それを言えば私もだろう。今貴様から聞かされ、漸く知った。友を、同胞を、父を失った事を。そして、時代にも取り残された』
「……あんたは、今自分を殺したいか」
枯樹人はゼルの言葉を、首を横に振って強く否定した。
似たような目に遭っても、森と共に生きる樹人のうちに漲る活力が卑屈になる事をさせないのだ。
ゼルは留まり悔恨の内に沈んだが、枯樹人は森と共に今を見て先へと進む。
同じように、知らぬ間に全てを失ったものらでも、その意志の在り方は正反対であった。
「…………俺は殺したかった。だから自分を刺し続けて……夢を見た。同胞達の夢を。何一つ救いが無かった。だからもっともっとと殺し続けて、その度に夢を見た」
『………………その内の一つが、奴か』
ゼルは言葉を返さず頷いた。小さく、何度も。
その頬を伝うものは、何も無い。
彼の涙は枯れていた。
しかし、それの代わりになるものが、手を伸ばした。
ユグリアの蔦である。
『その剣……いや、木は……、まさか』
「……知っているのか」
『あぁ、だがそれは……』
言い淀む枯樹人に、ゼルは分かっていると頷いた。
この木は、この子は、不毛の大地を作り出した張本人だ。
対価に癒しの奇跡を齎す果実を実らせたが、絶望に病んだ少女は何も見たくないと言わんばかりに周囲の全てを枯らしたのだ。
その中には、樹人も少なからず居た。
「安心しろ、この子の本体は今幻想の地にある」
『それは知っている。エイジア殿が回収しようとした際、私もそこに居た。だが、その子? そうか、元は……』
「年端もいかない少女だ」
『…………成程、死にたくなるのも頷ける。どれ程力が強大なのかも』
沈黙。
二人は重い絶望の話に神妙な顔を浮かべて沈黙した。が、それを遮るものが一人。
「それで、貴方様は今死にたいので?」
ゼルは何の飾りもない直球な質問に苦笑し、軽く考えを巡らせる……までもなかった。
「あの空間が崩れてから旅に出て、多くを見た」
苦痛を味わっても己を貫くもの、歪んだもの。
己の意志を貫いて死んだもの、殺されたもの。
責を負わずに生きるもの、負って歪んだもの。
欲に忠実に生きるもの、忠実すぎて死んだもの。
旅の合間に出会った女性達は、末路が違うだけで、少なからず共通点があった。
それにうち三人は、自分とは違う絶望を味わいそれぞれの選択をした。
「人間は醜い。だが、その中でも輝くものは居る。眩しいものがいる」
ゼルは引っ込んだ蔦を追うように腰に手を添え、応えて避けた蔦から青珊瑚を取り出した。
これと同じ色の瞳を宿した女の言葉は、今も記憶に新しい。
これを通して見た美しい舞いは、一挙手一投足全てを思い出せる程に目に焼き付いている。
「……それらの一端を奴が潰そうと言うのなら」
次にゼルは、青珊瑚を戻すと白の剣を軽く撫でた。
「……俺は奴を殺さねばならない。自暴自棄の阿呆に潰させるものか。それは目醒めさせたものとして、最低限の責務だ」
その言葉は同じく自暴自棄になったからこそであった。
「では、少なくとも獣の王を殺すまでは死なないと言うことで宜しいので?」
ゼルは決意を滲ませる表情を浮かべ、首肯した。
迷いはある。だが、少なくとも死への渇望は薄れていた。
自死、灰化、氷漬け、毒。
どれをやっても死なないのならもう自分は死なないのだろうという、諦観もあった。
「だが、奴がどこにいるのかが分からない」
若干の悔しさを滲ませるその声に、枯樹人が力強い調子の声で提案した。
『それは私が探してやる。貴様が奴を殺すつもりなら、その為の道は拓いてやる。森をこれ以上苦しめなくて済んだ礼だ』
「……出来るのか?」
ゼルは驚きと疑いを孕んだ声で問うた。
そんなゼルに枯樹人は豪語する。
『構わん。全ての森は我が庭だ。それと、これからはリンを連れて行け。今は貴様の血が無ければ満足に駆けられない。こやつを経由すれば血の供給は問題なくなる筈だ。それに人の世がどうなっているのかも知りたい』
そう告げる枯樹人からは、既に絶望に打ちひしがれたもの特有の弱さは無い。
代わりに、やるべき事を見つけ出して前を見据える強さがあった。
「……大丈夫なのか」
「構いませんとも。私もそれを提案するつもりでしたし。まさか旦那様に先を越されるとは」
『どういう意味だ?』
「さぁ?」
「いや、そうではなくてだな」
凄む枯樹人を軽くいなす森の小精に向けるゼルの目は、魔物を連れ歩く事への不安だった。
「あぁ、それについてはご心配なく」
そんなゼルの視線の意味を察した森の小精はそう言うと、先程と同じように姿を消し……次の瞬間にはゼルの肩に乗っていた。
「なっ……。それに軽い……?」
「私達に重みはありませんので。それと『こんなことも出来ますから』」
羽根を乗せているかの如き感覚に驚くゼルに、森の小精はその場で姿を消して声を発した。
ゼルはそれに更なる驚きを抱くと共に、大きく安堵した。
「それなら構わん。流石に遍くものを連れ回すわけにもいかんからな」
「ですから! 私は森の小精です! あんなものらと」
「だが、多くのものはリンドゥを緑の小鬼と呼ぶぞ。俺が奴らの正式名称を知っているのも、魔法使いに教えられてのもんだ。殆どの人間は知らん」
「なんですって!? ならば尚更行かねば、そしてちゃんと」
「街で姿を晒したら置いていく」
自分の肩で百面相をし、愕然としたもので止まった森の小精を放置し、ゼルは新たな仲間に向かいあった。
「では、俺は行く」
『なんだ、もうか』
「ここに来たのは寄り道でな。行かなきゃならん所がある。それに、森の外の村に馬を預けている。長居は出来ん」
とんだ寄り道になったとぼやくゼル。
だがそれ以上に多くのものを収穫出来た。
そんな彼の言葉に、枯樹人は頭を抱えた。
『その村というのは』
「牛の村だな」
『……』
「謝罪しようとは考えるなよ。倒した事にするからな。そうしないと彼らは安心出来ない」
『分かっている……、これは私の過ちとして身に刻もう。死体は……全てローに喰わせるか』
「それがいいだろうな。あんなものは見せられん」
『……この森のもの等には申し訳ない事をした』
言いながら、枯樹人は強く大地を踏み締めた。
すると円蓋を形成していた大杭が大地に沈み始め、いつの間にか昇っていた朝日が煌々と森を照らしていく。
『路は拓いた。行くがいい友よ。私もローに牛らを喰わせたら此処を発つ』
「あぁ、また会おう」
大杭を収めると同時に、木々を避けさせて拓かれた村までの一本道。
ゼルは未だに固まる森の小精を正気に戻すと、村に向けて歩き出した。
魔王
「自分を殺せ。出来ないなら死ね」
序章ゼル抜粋
「感謝する、遥かな守護者よ。そして死ね、俺を殺せないのならば、老骨に求めるものは何も無い」
爺さんがいなければゼルは確実に魔王と同じ道を歩んでました。
最初は魔物相手に戦っていたでしょうが、いずれ復讐の連鎖の内で自分を殺しうる者が現れるのを願って人の世でも暴れ始める。そんな具合に。
中途半端にもそれを叶えた魔王という前例がいるから質が悪い。
まぁ、それ以上に質が悪いのはユグリアの過去なんですけど。
彼女の物語を簡潔に表すなら「絶望の内に差す一筋の希望を叩き潰す絶望」です。
なお希望を抱いたのは彼女ではなく魔法使い側な模様。
彼ら、否、彼が希望を抱いた時にはすでにあの子は壊れていたのだから。




