ギアノ星人基地にて
「ゲオルグッ! 帰ってきやがったか!」
ギアノ星人侵略軍拠点、宇宙船内。二度目の侵略作戦を終えたゲオルグが帰還すると、荒っぽい声で迎えられた。ゲオルグの目線の先には、円卓を囲むように幹部戦闘員が顔を揃えている。軍の中でも強者のみで構成された会議は、相応に物々しい雰囲気を醸し出している。
「帰ってきてすぐで悪いが、会議を始めるぞ」
四本腕に四本足、ケンタウロスかあるいはアラクネのような見た目の男、シュトルムが静かな声音で話を切り出す。
「ギッテーノがやられ、次の侵略部隊をどうするかだが……」
手に負えない獣を牽制するかのような瞳は、いつでも戦闘に入れるように周囲を威圧している。
「俺が出る! シュトルム、俺に行かせろ!!」
シュトルムの威圧をものともしない勇猛な戦士が一人名乗りを上げる。ギアノ星人にしてはかなり小柄な少年。身長は一五〇センチかそこら。人間に近い容姿で、額から二本の長い角を生やしている。上に服は着ておらず、鍛えられた筋肉がシャープに浮き出ている。
「カオレンテ、お前はダメだ」
「なんでだよっ!?」
「そもそも、まだ説明の途中だ。黙って聞け」
呆れたように首を振るシュトルムは、興奮する少年カオレンテを御すると、作戦概要について説明を始める。
「ギッテーノがやられたのは誤算だった。次の侵略では情報の収集を目的として行く。感情エネルギーを奪取しつつ、敵の戦力を探る。戦闘は必ず途中で切り上げ生きて帰ること」
「はぁ!? 倒せばいいだけだろ!?」
「ギッテーノがやられたんだ。幹部クラスの者がいなくなるのはまずい。今回、ゲオルグに行かせたのも、こいつなら──」
「俺が負けるって言いてえのか!?」
シュトルムの説明に異を唱えるカオレンテは、テーブルに拳を叩きつけシュトルムを睨みつける。角が赤く光を帯び、今にも怒りが爆発しそうなのが見て取れる。
「ギッテーノは強かった。油断できない相手だ」
「俺は油断なんかしねぇ!」
「黙れカオレンテ。怒気を抑えろ」
「……っち」
ゲオルグが黒剣をカオレンテの首元に突きつけ黙らせる。悪態をつくカオレンテだが、冷静さを取り戻し角から光が失われていく。
「油断しない者は自分の口では言わん。今回は引け。我々の大義を忘れるな」
「ふんっ、それくらい理解している!」
不貞腐れたように腕と脚を組むカオレンテは、それ以上言うことはないと目を閉じる。
「うむ。次回の侵略もゲオルグに任せようと思う。ゲオルグ、分かっていると思うが、つまみ食いもするなよ。戦闘は極力避けエネルギーの奪取を効率的に行う」
「……」
シュトルムの指名を受けたゲオルグが黙礼で返すと、それまで黙っていた他幹部たちが立ち上がった。異論を示す者はおらず、会議は何事もなく終了となった。幹部たちが銘々に散っていく中、剣を携えたゲオルグはカオレンテの隣へ足を運ぶ。
「なんか用かよ」
「そう怒るな。今回の作戦に限っては、お前が不向きなだけだ」
「けっ、そういう真面目ぶった態度が気に食わねえ。どいつもこいつも本当は戦いたくて仕方ねえくせに」
頭何個分も身長差のあるゲオルグを見上げたカオレンテは、ゲシゲシとゲオルグを膝で小突く。
「我々の背後には、守るべき、養うべき民がいる。私情を挟むべきではない」
「はっ! 俺は強い奴と命のやり取りができればそれでいい! お前らとは試合しかできねえからな。本当の殺し合いがしてえんだ。お前だって本心はそうなんだろう?」
ゲオルグが抱く義の心を嘲笑ったカオレンテは、ゲオルグの本性を暴くように問いかける。だが、
「だとしても、それを表に出すべきではない。どこに目があるか分からないからな」
「はぁ、ほんとバカだな! バカゲオルグ! あ、間違っても、あのヒーロー共を殺すんじゃねぇぞ。次に降りるのは俺なんだからな! ちゃんと残しとけよ!」
「まだ分からんだろう……」
「シュトルム黙らせて、ぜってぇ俺が行く!」
両手の拳を突き合わせてやる気に満ち溢れるカオレンテに、ゲオルグは呆れるように苦笑いを一つ零した。
「そうだ。お前が最初に持って帰ってきたエネルギー。あれ何に使うんだよ。研究所なんかに持ち込んで」
ゲオルグを置いていこうとするカオレンテは、思い出したように振り向きながら言った。その表情には詮索の意図などなく、純粋な疑問だけが浮かんでいる。
「ちょっとした実験のようなものだ」
「ふぅ〜ん……」
対して興味を抱いていないような返事をするカオレンテは、頭の後ろに両手を回して今度こそ去っていく。
小さな背中を見送るゲオルグは不気味な笑みを浮かべ、踵を返し逆方向へと歩いていく。悪童のような邪気を感じさせる歪んだ口から、堪えきれずに声が漏れた。