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必殺技

 楠木家が寝静まった深夜。ミラは作戦を実行すべく、拠点作りへと動き出していた。

 まずは学校。昼に把握した警報装置を簡単に突破し、深夜の学校に侵入したミラは図書室へと足を運んだ。地球の常識では考えられないほどの超科学技術で、図書室の合鍵は既に作られている。資料室の扉に迫るミラは、やる気に満ちた笑みを浮かべる。

「なかなか秘密基地感出てるじゃん。気合入れて作るぞー!」

 泊まり込みの警備がいないからと大声で叫んだミラは、いくつもの機械を取り出し地下室作りに取り掛かる。科学者としての顔ともう一つ、発明家としても名高いミラは、ぐへへと奇妙な笑い声を出しながら作業する。

 ミラが全てを終わらせ家に帰ったのは朝の五時頃で、帰宅したミラは充てがわれた自室のウォークインクローゼットに、とある装置を設置してから倒れるように眠りについた。


「おい、ミラ起きろ! 遅刻するぞ!」

「あと二時間……」

「そんなに寝てたら遅刻どころじゃねぇって!」

 翌朝、なかなか起きてこないミラを見かねた勇人は、ミラを叩き起しにかかっていた。

「うーん、全然寝てないのにー」

「学校行ってから寝ろ!」

「分かったよぉ」

 なかなか動こうとしないミラから布団を引き剥がし強硬手段に出た勇人。不満を垂れ流すミラは、眩しさに目をきつく閉じながら布団を探る。

「これは走らないと間に合わないかもな。優樹菜には先に行っててもらうか」

「大丈夫だよぉ」

 布団を諦め大きな欠伸をしながら喋るミラは、寝癖で跳ねまくった髪を撫でつけ余裕な態度でノソノソと起き上がる。自分とは対照的に悠々としているミラを見て勇人は呆れ果てる。

「大丈夫って……」

「優樹菜ちゃんも家に呼んで。学校までは私が送ってあげよう! この瞬間移動装置で!」

 ミラはウォークインクローゼットの中へと入っていき、自慢するようにドンと胸を張る。中には衣類やら小物をしまう衣装ケースが並んでいるが、その最奥に何やら怪しげな人工物が一つ。円筒形の形をした、電話ボックスのようなそれは、ミラが近づくと「シュッ!」と音を立て、透明な壁が消失した。

「この中に入ると、私が昨日作った基地へと一瞬で移動できます! 場所はもちろん学校!」

「……マジで?」

「その腕輪が鍵になってる。だから、優樹菜ちゃんにも渡しておこうと思って」

 ミラのやることにもはや驚かなくなった勇人は、関心を寄せながら返事をした。

「勇人! 優樹菜ちゃん来たよ!」

「分かった!」

 二人が話していると、ちょうどリビングから母の声がかかり、勇人は小走りで玄関に向かう。ドアを開けると、朝の陽気と一緒に優樹菜が入ってくる。

「お邪魔します」

「おはよう、優樹菜」

「うん、おはよ」

 優樹菜を出迎えた勇人はミラが待つ部屋へと優樹菜を案内する。何やらソワソワしている優樹菜は、勇人の後ろにピッタリくっついて歩く。

「優樹菜ちゃん来た! これ、着けてみて!」

「お、おはよう、ミラちゃん」

 優樹菜が部屋に入るなり、着替えを済ませていたミラが、優樹菜に迫り何かを渡した。身を引きながらもそれを受け取った優樹菜は、手のひらに乗る小さなアクセサリーをマジマジと見つめる。

「イヤリング?」

「そう。校則ではダメだったよね? でも大丈夫! こちら透明なイヤリングなのです! 着けてみて!」

「う、うん。分かった」

 少し強引なミラに押されて、優樹菜はそのイヤリングを右耳に装着する。

「──消えたっ!?」

 優樹菜の耳に装着された瞬間、イヤリングは空気に溶けるように消えた。一瞬の出来事に驚く勇人だが、優樹菜はそれが見えていないため、本当に消えているのか気にして姿見を覗き込む。

「ふふふ。これはねぇ、着けると透明になるイヤリングなのだ! もちろん外したら見えるようになるよ」

「触っていいか?」

「うん」

 試しに勇人が優樹菜の耳に手を伸ばす。耳たぶから探るように形をなぞる勇人。確かに、そこにはイヤリングがしっかりと着けられていた。

「すごいな」

「これで、優樹菜ちゃんもこの装置が使えるようになったね。そのイヤリングとブレスレッドは、私が作ったものの大半の鍵になるから。大事にしてね」

「なあ、俺のやつは消えないのか?」

「ごめん。それは消えない」

「マジかよ……」

 腕輪をリストバンドで隠している勇人は、自分のも消えるのではないかと希望を抱くが、あっけなく打ち砕かれてしまった。

「そんなに落ち込まないでよ。今度消えるようにしてあげるから」

「まあ、あんまり目立たないからいいけどさ」

 勇人は手にあるブレスレッドの感触を確かめながら返す。勇人の腕輪は幅二センチ未満の細めの物で厚みもないため、そこまで目立つような物ではない。

「で、準備はできたのか?」

「あ、朝食!」

「お前なぁ……」

 ミラは大事なことを思い出したと、目をキラキラさせながら走っていく。

「お母さん! 今日のご飯はなんですか?」

「目玉焼きだよー」

「やったね!」

 走りながらガッツポーズを決めるミラの声が聞こえ、苦笑いを浮かべる勇人は優樹菜と共に追ってリビングへと向かう。

「やっぱりお母さんのご飯は美味しいですね!」

「わぁ、本当? ありがとう」

「相性良すぎだろ……なんでこんなに打ち解けるのが早いんだ」

 初対面から一晩しか経っていないにもかかわらず、ミラと母はすっかり打ち解けていた。勇人はため息混じりの言葉を漏らし呆れ果てる。

「私も、勇人とは相性いいよ?」

「……そうだな」

勇人のぼやきを聞いていた優樹菜が、勇人の顔を上目遣い見つめながら呟いた。突然言われた甘い言葉に、勇人は返事をしてから顔を赤く染めた。

「おい、早くしないと遅刻するぞ!」

「わあああ! 待って待って!」

 勇人は照れているのが恥ずかしくなり、逃げるようにミラへと声を投げた。その片手でそっと優樹菜の手を握り、二人で先に部屋へと戻る。

 パンを片手に、頬にケチャップをつけたミラが二人の後を追って駆け出す。

「行ってらっしゃーい」

 勇人の母は三人を見送って「青春だなぁ」と染み染み言葉を漏らした。



「本当に一瞬で来れた……」

「どうよ!」

 ミラの作った瞬間移動装置で学校に移動した勇人は、驚きで開いた口が塞がらない。手を握られた優樹菜も、同じように驚いている。

 昨日まで埃っぽかった資料室は見違えるほど綺麗になっていた。その中にミラの部屋にあるものと同じ装置があり、そこから三人は出てきた。

「拠点は地下にあります。それは放課後のお楽しみってことで! よし、早く教室に行こう! 遅刻しちゃう!」

「誰のせいでこんなに遅くなったと思ってる!」

 三人は靴下のまま廊下を走り、下駄箱で中靴を履いてからチャイムが鳴るのとほぼ同時に教室へと駆け込んだ。間に合ったミラはキラキラと眩い笑顔を浮かべ、満足そうに頷いた。

「留学二日目に遅刻はまずいからね!」

「自由人め……」

 五月も半ばになれば朝とてそれなりに暑く、汗ばむワイシャツの胸元を開けながら勇人は愚痴を零す。

「はい、席についてね」

 ほんの僅かな時間差で担任が入ってきたことで、勇人の文句を言うチャンスは無くなってしまった。


「それでは、私の作った基地を案内しよう!」

 放課後になり、資料室に集められた勇人と優樹菜。その目の前には、いつの間に用意したのか、白衣を着たミラが豪快に決めポーズを取っている。

「お、おう」

「なんだよー、反応薄いなー」

 不満を全面に押し出すミラは「まあいいや」と呟いて、瞬間移動装置へと足を向ける。

「ここのスイッチを押すとチャンネルが切り替わって、地下室に行けるようになるから。覚えといて」

「なるほど」

 徐々に順応し始めた勇人は、ミラの説明を聞いてスイッチを弄る。自宅と地下室の二単語が、個室トイレの鍵のようにガチャガチャ切り替わる。

「分かった」

「じゃ、行こうか」

「ああ」

 三人は、朝と同じように装置の中へと入り、ミラの作った地下拠点へと移動する。

 フラッシュを焚かれたように視界が白一色に埋め尽くされ、瞬きをした次には移動が完了している。

「ぉぉおおっ! なんだこれ!」

 目の前に現れた光景に、勇人は思わず声を上げた。

 広々とした空間は、薄灰色を基調とした近未来的雰囲気で作られ、細部に至るまで装飾が施されていた。SF映画に出てくる宇宙船、はたまた機械基地、それか近未来のシェルターのような、製作者の趣味が極限まで絞り出された部屋に、男子である勇人はロマンを感じずにはいられない。

「こっちにあるのが、」

 驚き目を輝かせる勇人の反応を楽しみながら、ミラは壁際にある台へと近づく。

「巨大モニター! 戦闘の一部始終をここで監視することで、奴らの動向を全て把握する。これにより、私たちは戦いに集中できるのだ!」

「すっげえっ!」

 真っ黒になっていたモニターに衛生写真が映し出され、それを目にした勇人はまたしても興奮気味に声を出す。

 モニターは壁一面に備えられ、縦二メートル、横四メートル強となっている。さらに、

「ここをこうして、こうやって……」

 モニター前の台につけられているパネルをミラが操作すると、衛生写真の画像が切り替わった。

「学校? おお! これ、ここの学校か!?」

「そうです! これだけ拡大しても荒れない画質、精度。私お手製の人工衛星です!」

「なんでも作れんのかよ。すげえな」

 ハハハと豪快に笑うミラはバシバシ勇人の肩を叩く。勇人は勇人でパネル群に興味津々で、熱の篭った視線を向けている。

「この場所は好きに使って良いからね。優樹菜ちゃんも」

「うん」

「私たちが戦いに行っている間はなるべくここにいてほしい。ここなら簡単に進入されないだろうし。私たちが戦っている間は守ってくれる人がいないから」

 念を押して説明するミラに、優樹菜も真剣な顔で頷く。

「じゃあ、本題に入る前に少し過去話でもしようかな。適当に座ってよ」

 ローラーのついた椅子を引っ張ってくるミラは二人に座るように促し、神妙な面持ちになる。

「あいつらと戦うために、重要な話」

 ミラはそう切り出す。

「私の星で起こったことと、奴らについて──」


 ミラ・ブラウン。地球で生きていくための仮初の名であり、本名は「ミラ」だけ。家名もミドルネームもない。

 ミラの星(惑星テラース)は地球から遥か遠く離れた宇宙にある。この星は地球と似たような歴史を辿り、高度な科学文明を築いていた。地球よりも発展したテラースには、多くの知的生命体、仮称〈人類〉が生活していた。ミラもその内の一人だ。

 ミラは天才だった。子供の頃から多くの知識を吸収し、大学も飛び級で卒業するほどに。歴史的科学者として名を馳せるのも時間の問題とまで言われていた。

 平和を築き順風満帆な生活を送っていた人類だったが、その平穏は突如やってきた侵略者によって破壊された。

 地球を遥かに凌ぐ軍事力を有したテラースであったが、どんな兵器を持ち出そうとも侵略者たちに対抗することができなかった。そして侵略者は瞬く間に星を制圧していった。

 多くの人類が襲われ、まるで魂でも抜かれたかのようになってしまった。今の優樹菜のようにガラリと人が変わり、戦う意思どころか、何のやる気もない廃人と化してしまった。生きながらに死んでいるかのような様を、ミラは一生忘れることはない。それほどまでに悲惨な光景だった。

「私は奴らの力の源と狙いが『感情』であることを突き止めた。感情を武器とする兵器を、奴らに対抗するために開発した。でも、遅かった。星は侵略し尽くされ、人類は壊滅状態。奴らは搾り取れるだけ取って、帰っていった」

 そう締め括るミラの話に、二人は真剣な面持ちで耳を傾けていた。

「勇人!」

「お、おう。なんだ急に」

 話に集中していた勇人は、突然大きな声で呼ばれ、びくりと体を跳ねさせる。そんな勇人の様子も気にせず、片手で白衣をバサリと脱いだミラは、かっこつけるように台の装置を操っていく。すると、たちまち巨大なモニターにイラストが浮かび上がった。

「これは君の戦闘服だ。そのブレスレッドを使って変身できる」

「……そうだな」

 ミラがモニターに映したのは、勇人が変身した時の衣装だ。一度見ている勇人は、あの日の出来事を思い出しながらイラストをよく観察する。

「私が変身してたのは見たでしょ?」

「ああ」

「身バレを防ぐためにも、衣装は絶対不可欠! それに、変身は浪漫だ! それは銀河を超えても変わらない、絶対不変の真理なのだ!」

 力説するミラは握り拳を天に掲げ、ヒーローと変身の組み合わせについて論を展開しようと言葉を続けるが、話が脱線する前に止められ、「ゴホンっ」と咳払いをした。

 嬉しそうに話していたミラは、モニターに視線を移して、思い出したように目を見開いた。

「勇人、あの時は正気の人がいなかったから良かったけど、変身するところを誰かに見られたらまずいんだから。次からは気をつけてよ」

「悪い悪い」

 ミラから軽いお叱りを受けた勇人は「確かに」と頷く。あの時は勇人も決死の覚悟で飛び出していたし、周りに気を配る余裕なんて微塵もなかった。幸い、ニュースやネットに二人の情報は出ていない。

「とりあえず、衣装の説明をするね」

 モニターに映った衣装を見ながらミラは楽しそうに解説を始める。

 装置の仕組みや難しいことは全く頭に入らなかった勇人だが、ミラの熱い気持ちだけははっきりと理解でき、説明が終わると早速、実践へと移る。

「では、お手本を見せます。その後に勇人も変身してみて」

「おう」

 ミラは二人から少し距離を取り、ブレスレッドを着けた右腕を胸の前に持ってくると、

「変身!」

 声高に合言葉を叫んだ。すると、ブレスレッドに刻まれた線が橙色の光を眩く放ち出した。その光はミラの体を包み込み、完全に隠してしまう。そして、次に姿を現した時には変身が完了していた。

「これが私の衣装です! かっこいいでしょ!」

 見せびらかすようにその場でくるりと回るミラ。感嘆を漏らす勇人の隣で、優樹菜はパチパチと拍手する。

 ミラの衣装はオレンジを主としたもので、顔は完全に覆われている。フルフェイスの目元は黒いガードに守られ、視界に捉える二人の姿を鮮やかに反射している。

「じゃ、勇人の番ね」

「今のを?」

「やらなきゃ始まらないでしょうが。もしかして恥ずかしがってるの? 大丈夫。ここには私たちしかいないんだし、これは遊びじゃないの。誰もバカにはしないから。それに、

既に一度変身してるんだし、大丈夫でしょ!」

「いや、あの時は流れとか雰囲気とか……まあ、いいよ」

 言い訳がましくなった勇人は、キラキラと子供のような眼差しを向けてくるミラを見て、悟ったように諦めた。少し躊躇いがちだが、ミラに押され、恥ずかしく思いながらも見様見真似でポーズを取る。

 腕を胸の前に上げ、構えた勇人は恥じらいを殺しきれず、

「へ、変身……」

 小さな声でそう呟いた。

「……」

 時が止まったかのように、部屋の中に気まずい沈黙が流れる。空調の音が微かに聞こえるほどの静寂が、重苦しく三人の間に沈澱する。

「……何も起こらないんだけど」

 その空気に耐えかねた勇人は徐に口を開いた。合言葉を口にした勇人だったが、想像に反して変身の現象は起こらなかった。その姿勢のまま固まり機械の不調を訴えかけるが、ワナワナと肩を震わせ俯くミラを見て、開きかけた口を閉じた。

「ど、どうした?」

 だんだん恥ずかしくなってきた勇人は顔を赤らめながら、羞恥半分恐れ半分でミラに声を投げかけた。だが、ミラは不穏な雰囲気を醸し出しながら黙りしている──

「ゆ・う・とぉぉおっ! 気持ちが全然篭ってないんじゃぁ!!」

「うぉ!?」

 突如、喉が張り裂けんばかりに怒鳴り出したミラに、勇人と優樹菜はビクリと体を跳ねさせる。不満全開な絶叫が基地の中にわんわんと反響している。

「ぜんっぜん、感情が篭ってない! 魂から叫ぶんだよ! そうじゃないとその装置は発動しない! 君の気持ちに呼応してその装置は動くんだ! さっき言っただろう!? 感情が大切なんだ! 半端な気持ちじゃいつまで経っても変身できないぞ!」

「ご、ごめん……」

 ミラの勢いに圧倒された勇人は、身を引きながら謝罪を口にした。興奮するミラはガミガミと、文句と一緒にアドバイスもくれてやる。

「いいか。それは君に戦う力を与えると同時に、君の気持ちを強くしてくれる装置でもあるんだ。あいつらの扱う道具は感情をエネルギーとして動いている。強い意志がなければ、簡単に負けてしまうぞ」

「ああ」

「思い出せ。あの日、優樹菜ちゃんが襲われた日を。許せないという怒りと哀しみを思い出せ。激情に任せて叫ぶんだ。魂の底から湧き出る力は、何にも劣ることはない!」

 勇人の胸に拳を当てるミラは、小さな声に大量の感情を乗せて届ける。胸に当てられた拳から力が流れ込んでくるように熱くなり、勇人はその感覚を頼りに、倒すべき敵の姿を思い出す。

「すまん。次は、ちゃんとやる」

「大丈夫、勇人ならできる。君の優樹菜ちゃんに対する想いは、誰にも負けない力になる」

「よし」

 勇人は再びポーズを取ると、大きく二度深呼吸をした。開かれた目には確かなる意志が宿り、紡がれる言葉には、大きな力となる感情が篭められる。

 優樹菜を助けるために。あの侵略者を倒すために。

 勇人の怒りと哀しみがブレスレッドへと力を注ぎ、光を放ち始める。

「変身!」

 ミラの時と同じように、勇人の体を赤い光が包み込む。力を求める勇人の強い想いがブレスレッドを起動させた。勇人の体を覆う光は手足の先から晴れていき、段々と全身を衣装へと塗り替えていく。灼熱の光が完全に晴れると、変身を終えた勇人の姿が現れた。

「うん。やっぱりかっこいいね、その衣装」

「お、おう」

 変身を成功させた勇人の姿を見て、ミラは品定めでもするかのような表情を浮かべ、満足そうに呟いた。

 ミラと色違いの衣装を改めて眺める勇人は、何度かその場で体のあちこちを確認する。全身を覆う衣装はしっかりと勇人の面影を隠し、誰なのか分からないようになっている。

「ど、どうだ?」

「いいじゃん。勇人の熱い魂の叫び、ちゃんと聞き届けたぜ!」

 そう言いながら親指を立てたミラに、勇人は少し照れながらも嬉しそうに礼を言った。

「奴らが攻撃してきたら、ここで変身してから現場に向かう」

「分かった」

「それと何度も言うようだけど、その衣装は君の感情エネルギーを増幅させて動いている。だから、感情が萎んでしまったり、奴らに感情を奪われると著しく力が低下する。お互い、気をつけていこう」

「ああ」

 力を奪われた人間がどうなるのか。その事例を多く見てきたミラは、実感の篭もった声で忠告する。そんなミラの言葉だからこそ、勇人はより一層気を引き締める。

「あ、それと、その衣装には私が集めた戦闘データの精髄が詰め込まれているから、戦闘経験のない一般人の勇人でも戦えるようになっているから、安心して」

「へえ、そうなのか」

 勇人は体の具合を確かめるように拳を開閉してみる。今のところ、凄まじいパワーのようものは感じないが、本番になれば真の力が解放されるのだろうと、納得したように頷いた。

「でも、本当に大切なのは君自身が強くなること。だから、訓練をします。ひたすら戦いまくって、データによる補助ではなく、君の体にその動きを染みつかせてもらいます!」

「自分自身の判断で動けるようになれ、と」

「そう。戦いの中で衣装が壊れるかもしれない。その時、丸腰の素人じゃ簡単に負けてしまうでしょ。まあ、そんなにヤワな作り方はしてないから安心してくれていいけど」

 慢心とは違う、自信の篭った表情でミラは言う。

「じゃあ、朝まで特訓しようか」

「うん……は? 朝まで?」

 仮面の下で満面の笑みを浮かべ「ふふ」と声を漏らすミラは、とんでもないことをさも当然のように言い出した。勇人は額に冷や汗を浮かべ後退る。顔は隠れているが、勇人の表情が引き攣っているのがありありと見え、優樹菜は優しげな微笑みで勇人を見つめる。

「勇人。頑張って。私も一緒に頑張る」

「そこは止めて欲しかったなぁ……」

 泣き言を漏らす勇人を無視してミラは続ける。

「続いて武器の説明です! 名前を呼べば出てくるよ!」

 手を伸ばして武器の名を口にするミラの右手に、何もない空間から両刃の剣が出現した。幅広で剣全体はメカニックな仕様になっている。見た目は重そうであるが、ミラはそれを、片手で軽々と持ち上げる。

 勇人も同じようにエレメンタルブレードを召喚し、予想以上の軽さに改めて驚く。

「あの時は気にする余裕がなかったけど、軽すぎないか?」

「それ、五十キロはあると思うよ。ただ、今は変身の効果で力が増幅してるから軽く感じるの。その衣装は助けるための力だから、かなり強力に作ってあるんだ」

「そうか。もしかし車とかも持ち上げられるのか?」

「あの大きさだと重さを実感できるかな。それくらい、この衣装は強いよ!」

「すごいな」

 したり顔をするミラの前でブンブンと剣を振る勇人は、自然と理解するように構えをとった。

「その衣装に入っているデータ。変身している間は脳内に勝手にアップロードされるようになってる。だから体は理解している。その一挙手一投足を骨の髄まで叩き込む。変身していなくてもできるくらいまで」

「お、おぅ。なるほど」

「まあ、たぶん一年かかっても無理だろうけどね」

 当たり前のことように言ったミラは、勇人と同じように剣を構えた。

「まあ、普通にやったら、の話だけどね」

「ははは……」

 空笑いを漏らす勇人は、ミラがどんな手段を使うのか全く想像できず、引き攣った表情を浮かべるしかない

「訓練の前に、前回の反省からだね」

 ミラは喋りながらモニターを操作する。録画していたギッテーノとの戦闘シーンを再生し、データを参考にしながら解説を始めた。

「感情をエネルギーとするこの技術によって、君は大した怪我もせずに済んだ」

「そうなのか?」

「うん。感情は全ての力へと直結している。もちろん頑丈さにも。例えばここの打ち合い」

 画面が早送りで流れていく。ミラが流したのは、勇人の剣が壊れる直前の打ち合い。二人の剣に罅が入っているが、先に勇人の剣が壊れてしまう。

「ここ、勇人が押してた。このままいけば勇人が勝ってたと思う。ギッテーノと勇人の力はほぼ互角だった。でも、ギッテーノの剣の方が強かった」

「そうだな」

「これは武器の性能なんかじゃない。ギッテーノがエネルギーを剣に注いでいたから。だから君が押していて、ギッテーノの剣が勝った」

「つまり、力を入れる場所を考えればいいってことか?」

「そうだね。これが器用にできるようになれば、少しは受けるダメージを減らせると思うよ。勇人はまだそれができないから」

 勇人は大きなモニターに映る自分に注視する。ギッテーノと互角の攻防が崩れた瞬間、戸惑いによって明らかに動きが鈍くなっている。

「俺も、もっと強くならないとな」

 拳を握りしめる勇人は、その身に宿る力の可能性を信じて呟く。

「そうだ! ちゃんと決め台詞を用意しないと!」

 思い出したように掌に拳を打ちつけたミラは、ピコンッと音が鳴りそうな顔で頭の上にびっくりマークを出現させる。

「決め台詞?」

「前回は急だったけど、次からはちゃんと決めてよね!」

「決め台詞って、何を?」

「あいつらは一騎討ちを重んじるんだけど、毎回名乗りを上げるの。だから、私たちの名前が決まってないとカッコつかないからね! それに、人前に出る時に仮の名前がないと大変だからね」

 ミラの言い分に、勇人はこの前のギッテーノを思い出し「確かに」と納得して頷いた。だが、仮の名前と言われてもすぐに思いつきはしない。そんな勇人を見かねて、ミラが助け舟を出す。

「愛と勇気のヒーロー、カーレッジ。どう?」

「カーレッジ?」

「そう。勇気カーレッジ

「いいんじゃないか?」

「でしょう! 私もかっこいいと思うんだよね! いやぁ、自分のネーミングセンスに惚れ惚れしちゃうよ」

 嬉しそうな声音で「えっへん!」と胸を張るミラに、優樹菜も楽しそうに微笑む。保護者のような優しい笑みにミラはドヤ顔で応える。

「というわけで、ここに新たなるヒーローの誕生を宣誓します!」

 ミラが手を叩くと、優樹菜も同じように拍手をする。二人の喝采を浴びる勇人は照れ臭そうに笑った。

 何気ない普通の日常はもう戻ってこないと確信を抱きながら、しかしこの光景も悪くないと、満足げに薄く口角を上げ、頭をかく。

「でも、次は壊さないように気をつけてくれよ。その剣」

「分かった」

「まあ、壊れても仕方ない状況だったからいいけど」

 ミラは言いながら、ギッテーノに破壊された剣を取り出した。半ばから折れてしまっている剣を受け取った勇人は、労るように剣の側面を撫でつけた。

「あいつらがいつ来るか分からないし、早く強くならなきゃいけないんだろ? いつから特訓始めるんだ?」

「お、やる気だねぇ! じゃあ、隣の部屋に移ろうか。優樹菜ちゃん、こっちこっち」

 気合の入った表情の勇人を見て、ミラはニヤリと笑う。モニタールームの隣にはだだっ広い空間があり、大きな体育館のようだ。壁の一部には小部屋があり、楽しげにスキップをするミラは、勇人を残し優樹菜と二人で場所を移す。二階ほどの高さに小窓があり、そこから姿を現した二人は勇人に向けて手を振っている。

「私の新兵器を試す時が来たかなー」

「新兵器?」

「これだよ!」

 変身を解いたミラは、着直した白衣のポケットからリモコンを取り出すとスイッチを押した。すると、鋼鉄製の壁が「ウィーン」という音を立てながら開いていく。壁の中からマネキンのような物が、ガシガシと機械的な足音を鳴らしながら歩いてくる。

「自立型訓練用アンドロイドだ!」

「多いな……」

「大丈夫。そこまで強くないから。こいつで特訓だ! さあ勇人、戦え!」

「お、おう!」

「構えて!」

 手元にあるマイクを掴みミラは勇人へ声をかける。部屋の天井に内蔵されたスピーカーから音声が流れ、勇人は剣を構える。それを皮切りに、アンドロイドたちが一斉に襲いかかった。

 アンドロイドはギッテーノほど強くはない。難なくアンドロイドたちを捌いていく勇人だったが、

「数、多くないか!?」

「奴らの手下はもっと多いよ!」

「だぁっ、クソ!」

 砂糖に群がる蟻のようにアンドロイドたちが勇人を取り囲む。一体に気をつけるだけでは到底あしらい切れず、少しでも気を抜けば急所に一撃を入れられる。死角からの攻撃になす術もなく勇人は袋叩きに遭う。柔らかいスポンジ製の、おもちゃの武器によってダメージは全くないが、ポコポコと頭を殴られれば苛立ちが増していく。

「鬱陶しいわ!」

「勇人! 感情に任せれば力は増す。だけど冷静さを欠いてはいけない! 熱く冷静に対処するんだ!」

「熱く冷静にって、矛盾してねぇか!?」

 アンドロイドたちをしばきながらミラを睨みつける。だが、ミラはアンドロイドたちを止めることなく、愉快そうな笑い顔を浮かべていた。

「勇人、攻撃には必ず感情が乗る。そいつらも少なからずパワーが篭ってる! それを感じ取るんだ! エネルギーを目視以外で感じ取れるようになれば、君はもっと強くなれる!」

「感じ取るたって、どうすれば……」

 勇人の視界には、衣装によるアシスト画面が表示されている。ギッテーノの時は出ていなかった機能だ。

「訓練用プログラムが作動してるはず! 感情の数値が目で見えるようになってるはずだよ! 後は、なんとか感覚を掴むしかない!」

「適当かよ!」

「どうせ本番は邪魔で消えるんだ! 適当でもなんでもやるしかないんだよ!」

 ミラのアドバイスを受けた勇人は、アンドロイドたちの攻撃をよく観察する。後ろからポコポコと殴りつけてくるアンドロイドを蹴り飛ばしながらじっと観察していると、ようやく感情エネルギーが薄っすらと見えた。

「見えたぞ!」

「よし! 後は、自分の中のエネルギーを感じる! それができれば、相手の力も徐々に分るようになってくる、はず!」

 ガッツポーズをするミラだったが、やはり肝心な部分は本人次第と適当なようだ。勇人はため息を吐くと、同じように自分の攻撃を観察する。確かに、攻撃の瞬間に筋肉ではない別の力が篭っているのが分かる。だが、

「これをどうすればいいんだよ!」

「なんかいい感じにやれないの!?」

「いい感じってなんだよ!」

 ミラの大雑把な説明に勇人は納得がいかない。見えるまでは良いが、そこからが中々難しい。いきなり指が一本増えたようなものだ。動かし方が分からなくて当然である。今まで感じることもなかった力に、勇人はあれこれと工夫を凝らすが、一向に感覚をモノにすることができない。

「……うーん、今日は無理そうかな」

 勇人がアンドロイドとの訓練を始めてから一時間ほど経った頃、腕を組むミラは難しい顔を浮かべながら呟いた。

「くそ……はぁ、」

 アンドロイドの細腕に散々殴られた勇人は、息を切らしながらミラを睨みつける。アンドロイドたちは動きを止め、次の指示が出されるのを静かに待っている。

「よし、気配察知訓練はこのくらいにして、メニューを変更しよう!」

「は? まだやんの?」

 嬉々として言い放つミラに、勇人は怒気を孕んだ声を向ける。最初の威勢はどこへやら、疲労と苛立ちから勇人の心は折れる寸前。僅かながら、勇人の眉間に皺が寄り、そんな勇人の表情が想像できたミラはカラカラと笑みを浮かべ、容赦なく次のメニューへ移る。

「カモン! 巨兵団!」

 ふざけた様子から厳かな雰囲気へと転じたミラが声高に呼ぶと、先ほどとは別の壁が開き、その中にいた何かが闇から目を光らせた。ガラリと変わる部屋の空気を感じ取った勇人は、新たなる敵の圧力にゴクリと唾を飲み込んだ。

「オオオオ……」

 勇人が息を呑む中、壁から巨体のアンドロイドが姿を現した。喉を震わせるような低音を響かせるそれは、体長が三メートル近くもあり、ゴツゴツした金属質の体はブルドーザーのようだ。まさにタンク。頑丈そうな見た目からかなり威圧感を覚える。

 そんなデカブツが複数体、象の群れのように歩いてくる。

「次の相手はこいつ!」

「でっけえな!」

「ギッテーノより大きいよ。あいつらって結構大きい奴が多いんだよ。だから、次は一対一での戦闘訓練。サイズが変われば戦い方も変わるでしょ?」

「なるほど」

 より実戦に近い形の敵に勇人は納得して頷くと、それまでの苛立ちを清算するように息を吐き、切り替えるように構え直した。

「それから! 目的は他にもある!」

「目的?」

「必殺技を覚えてもらいます!」

「必殺技?」

 言われた意味を理解しようと、勇人は頭の中であれこれと考えを巡らす。手からビームを出したり、剣からビームを出したりだろうかと、体からビームが出るモーションを取る勇人だが、そんなものが出るはずもなく……アホな真似をする勇人を見かね、ミラが必殺技の何たるかを解説し始める。

「こっちの創作物で例えると、アンパンチとかだね」

「アンパンチか」

「そう、アンパンチ。アンパンチって名前付いてるけど、ぶっちゃけただのパンチでしょ?」

「まあ、言われてみればそうだな」

 ミラの説明を聞きながら、勇人は昔見ていた懐かしのアニメを思い出す。まだ放送されているとはいえ、高校生になって久しく見ることはない。

「あの世界ではどうか知らないけど、言葉による威力の増強っていうのは確かに存在するの。この現実世界には」

「ふむ」

 ミラの言っていることが理解できた勇人は「なるほど」と深く首肯する。

「つまり! 技の名前を決めて、それを叫ぶことをトリガーとして力を引き出そうってわけですよ! 何度もやって体に刷り込むことで、技名を叫ぶだけで感情が昂り威力が上がるという最高に楽しい訓練なのです!」

「なるほどね。まあ確かに。アンパンチはただのパンチだもんな。ていうか、アンパンマンなんていつ見たんだよ」

 ミラが地球に来てからそこまで時間は経っていないはずだが、アニメを見ている余裕などどこにあったのだろうかと勇人は疑問に思う。

「そんなことはどうだっていい! とにかく、残りの時間はひたすら必殺技を練習します」

「急に必殺技とか言われても、ライダーキックみたいなのがあるわけでもないし」

「だから、技名はなんでもいいんだよ。できれば叫びやすい方がいいけど」

「技名ねぇ……」

 自分にはどんな技が合うだろうかと考える勇人だが、戦闘は剣が主であり、頭の中にある漫画の知識を利用できないかと思うも、なかなかいい案が考えつかない。

「そうだね、勇人の場合は怒りをエネルギーにしているから、アンガーとか?」

「アンガー……」

「アンガーだけだと味気ないし、アンガースラッシュ! とか」

 名案だ! とでも言いたげなミラは満足そうな笑みを浮かべる。他に良いものが思い浮かばない勇人は「それにするか」と、静々呟いた。

「剣を振るたびに叫ぶのだ! できれば型を統一した方が効率的に力を引き出せると思うんだけど」

「素振りみたいな感じか」

 バッドを持つように剣を構えた勇人は、試しにブンッと振ってみる。

「いや、野球は違うな」

「そんな隙だらけな状態で剣を振れることなんかないでしょ」

「そうだよな」

「とにかく実践あるのみだよ。じゃ、動かすねえ」

 ミラは言いながら手元にある操作板で巨兵団に指示を飛ばす。勇人は剣を構え、何度か口の中で技名を呟き確認を済ませると、目の前に居並ぶ巨兵団を見据える。

「じゃあ、一体ずつ動かすから」

 ガラス越しに勇人を見るミラは、手元のマイクから指示を飛ばす。スピーカーからの声に、勇人が反応を返すと、早速一体の巨兵が動き出した。

 見た目のイメージよりも俊敏な動きに勇人は驚くが、対応できないほどではない。冷静に相手の動きを捉え「アンガースラッシュ!」と、技名を叫びながら剣を繰り出した。横薙ぎの一撃は巨兵の体に深々と傷をつけ、胴の半ばまで斬り裂いた。

「よし、良い調子だ! 今日は一撃で巨兵を叩き斬れるようになるまでやろう!」

「はっ!?」

「その後はもう一回だけ気配察知訓練ね! 必殺技を早くマスターしてくれ!」

「お前は鬼か──っぶねぇ!」

 言いかける勇人を遮るように巨兵が大きな棒を振り下ろした。小型アンドロイドと同じように硬くない素材でできている武器のようだが、見た目が凶悪な分、危機感が増す。

「このやろう……」

 ニマニマと悪戯小僧のような笑みを顔に貼り付けるミラは、楽しそうに巨兵を操っていく。勇人は激しく愚痴を溢しながらも巨兵を斬り刻んでいくしかない。何度か試すうちにコツを掴み始め、技名を叫ぶのと叫ばないのでは威力に差があるのを感じ出す。

「アンガースラッシュ、アンガースラッシュ、アンガースラッシュ!」

 勇人はひたすら叫び剣を振り続けた。喉が枯れるほど、腕が上がらなくなるほど。

「良いぞ良いぞ! 斬り口がだんだん深くなってきてる。もう少しだ、頑張れ!」

 熱血コーチのような激励を浴びせるミラ。勇人はそちらを見る余裕もなく、一心不乱に剣を振るう。深く、重い一撃を放つために、その剣に力を籠め、

「アンガースラッシュッ!」

「ゴォォォ……」

 勇人が放った一撃が巨兵の腹部を横一文字に斬り裂いた。バターのように滑らかに、斬り口には一切の綻びがなく、巨兵の体が音を立てて崩れ落ちた。

「はぁ、はぁ……やった、やったぞ!」

 息を弾ませる勇人は、綺麗に斬り裂かれた巨兵を前に両手を上げた。

「よっしゃぁぁ! よくやった勇人!」

 ガラス窓の向こうではミラがガッツポーズを掲げマイクを持っている。スピーカーから喜びの声が、音が割れるほどの大音量で響いた。

「流石だよ。やっぱり君はヒーローになるべきだった」

「いや、ミラのおかげだよ」

 送られる賛辞に謙遜する勇人は、倒れた巨兵たちを見て感慨に浸る。本当に自分がこれをやったのだろうかと、少し信じられないような目で巨兵団の山を見下ろす。握る手には確かな感触が、手応えが残っている。

「よし勇人。次は気配察知訓練だ」

「……そうだったぁ」

 これで終わりだと気を抜いたところに、無情なミラの声がかかった。次をすっかり忘れていた勇人はゲンナリと肩を落とす。周りから巨兵団が引いていき、代わりに多くのアンドロイドたちがガシャガシャと音を立てながらやってきた。

「さあ! セカンドステージだ!」

 興奮冷めやらぬままのミラに同調するように勇人も自身を奮い立たせる。必殺技は習得できたが、まだまだエネルギーの扱いには長けていない。もっともっと訓練しなければならない。

「あぁぁぁもう! やってやるよ!」

 やけくそに叫んだ勇人は再び剣を構える。

「まあ、これだけ感情エネルギーを引き出せれば今のところは御の字なんだけどね」

 マイクのスイッチを切ったミラは優樹菜にだけこっそり告げた。

 またぞろアンドロイドたちに袋叩きにされる勇人は、殴られまくった苛立ちと不満を抱えながら帰宅することになった。


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