3.父の結婚
その日から、父は夕食の度に見合い相手のことを話すようになった。
「ティルアはね、とても賢い人なんだよ。」
「男爵家の令嬢としての心持ちが素晴らしくてね。」
「私のことや、エラのことまで気にかけてくれたんだ。
こんな人は初めてだよ。」
父が、そのティルアさんをよく思っていることが、言葉の端々から伝わってきた。
口にはしないけど、大切にしたい、妻として迎えたい、そんな気持ちが私には伝わってきた。
だから私は、まだ見ぬティルアさんに興味を持った。
その人がこの家に迎え入れられることを、望むようにさえなっていた。
「来週、ティルアが私の婚約者としてここに来るよ。」
父が毎日のようにティルアさんの話をするようになってから一ヶ月が経った頃、父はそう言った。
一ヶ月で婚約とかって、ちょっと早くない?と思ったけど、父が幸せなら、そんなことはどうでもいいと思えた。
「ティルアさんが? やっと会えるのね。楽しみだわ。」
「彼女は本当にいい人だからね、エラもきっと気にいるよ。」
「うん!」
私はその一週間後をドキドキしながら、待った─。
もうちょっとね。
私は自分の部屋にある時計を見て、そう思う。
「ルーラ、いる?」
私は続き部屋にいるであろう、乳母を呼ぶ。
「はい、お嬢様。」
隣からルーラの声が聞こえ、数秒後にドアを開け、私の部屋に入ってくる。
「失礼します。
どうされました? エラお嬢様。」
「この服、おかしくないかしら?」
「はい、大変お似合いですよ。」
ルーラは、私を育ててくれただけあって、こういう質問にお世辞では答えない。
本当におかしかったら、ちゃんと指摘してくれる。
お父様と同じぐらい信頼がおける人だ。
「よかった〜。
あ、ルーラ。髪飾りは青と赤、どっちがいいかしら。」
「お召し物が淡い赤色ですので、それに合わせて赤が良いかと。
あ、もしくはこちらはいかがでしょうか。」
「あ、それいいね。ありがとうルーラ。」
私はそれを手に取ると、自分の髪につけようとする。
「私がしましょうか?
ついでに御髪も整えますよ。」
「え、本当? ありがとう。
よろしく頼むわ。」
ルーラが丁寧に私の髪を解き、結い、先程の髪飾りをつけてくれる。
「本当にありがとう。」
私は心からルーラにお礼を言う。
「どういたしまして。
今日はティルア様が来られるのでしたね。」
「うん。」
「緊張しておられますか?」
「そりゃ…ね。
お父様からどんな方か聞いているけど、会うのは初めてだもの。」
「大丈夫ですよ。
私もついていますから。」
「ふふ、そう言ってくれて、嬉しいわ。」
ガラガラ…
外から、馬車の音が聞こえてくる。
「来たみたいね。下りようか、ルーラ。」
「はい。」
初めて見るお父様の婚約者は、とても美しい方だった。
「はじめまして。エラ・グレイスと申します。
ようこそいらっしゃいました。」
「ご丁寧にありがとう。
私はティルア・ローゼ。よろしくね、エラさん。」
「はい。」
ん? 一瞬、ティルアさんの目が鋭くなったような…?
気の所為、かな?
その後、私たちは食事を共にした。
ティルアさんはお父様が言っていたように、とても優しく、聡明で、お淑やか。模範的な女性だった。
ティルアさんが帰ったあと─。
「お父様。」
「? 何だ?」
「私、ティルアさんが私の継母様になってくれたらいいなって思いました。」
「! それってつまり…」
「お二人が結婚するのを、楽しみにしてます。」
それを聞き、お父様は顔を輝かせる。
「ありがとう、エラ。」
そして、お父様は私を抱きしめた。
一ヶ月後─、お父様とティルアさんは結婚式を挙げた。
私は心から二人を祝福した。
─この後、どんな家族生活が待っているかを知らずに…。
どうも、こんにちは。
ティルアの名字を考えるのが少し大変だった、あぷりこっとです。
一瞬しか出てこないのに…(笑)
ちなみに、ティルアの名字の意味は、ドイツ語で薔薇。
美しいものには棘がありますからね……。
さて、前回に引き続き、今回も過去編です。
いつまで続くかは私もわかりません……。
まぁ、キリがついたら、また現在編(?)に戻ってくると思います。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
一週間、投稿が遅れてしまい、すみません。
これからも頑張りますので、応援お願いします。
では、また次回お会いしましょう。
バイバ〜イ!