19.帰り道
ゴーン ゴーン…
12時の鐘が、帰りの時刻を知らせる。
「あ、行かないと。」
私は美味しかった食事に別れを告げ、舞踏会を後にした─。
「お待たせ、リツル!」
「ちょうど僕も着いたところです。」
リツルがにこやかに私を迎える。
私が城から出てきたとき、リツルの馬車は門の前に停められ、リツルは扉の前で待機していた。
完璧である。とても服を売る馭者とは思えない。
「では、帰りましょうか。」
リツルが馬車までエスコートしてくれる。
「あのさ…、リツル。」
「? 何でしょう?」
「本当に服売りの馭者…?」
「はい。もちろんでございます。
シンデレラ様は服売の馭者がここまで紳士的な訳ない…と思われておられるのかもしれませんが…」
!?
「私はお貴族様の服を売る仕事をしています。
ある程度のことは、わきまえておりますよ。」
「あ、なるほど。」
確かに、リツルに渡されたのは貴族がよく着るドレスだった。だったら、ある程度の作法はわきまえているだろう。
……、だとしたら…出会ったときの態度は……?
「お乗りください。シンデレラ様。」
「ありがとう。」
リツルが荷車のドアを開けてくれる。
私が乗り、ドアを閉めると、リツルは流れるように運転席に座り、馬車を走らせ始めた─。
「それで、どうしでしたか? 舞踏会は。」
「う〜ん……目的は果たせなかったけど、楽しかったわ。」
「そう、ですか……。」
リツルがなぜか、気を落としたような…申し訳なさそうな…そんな声を出す。
?
「……楽しかったと、言うのは?」
「あのね、部屋の中に置かれていたお食事が、驚くほど美味しかったの!
つい、食べすぎてしまったわ。」
「それはそれは。楽しめたようで良かったです。」
リツルがクスクス笑う。
さっきのは…気の所為、かな?
それから私達は他愛のない話をして─あっという間に、帰宅した。
「そろそろ着きますよ。」
「あ、うん。」
正直、帰りたくない。
夢のような一時だったな〜。
できることなら、ずっと
「ここに…」
「シンデレラ様?」
あっ、口に出しちゃった…?
「ごめん、何でもない。」
私は笑って見せる。もしかしたら、笑えてなかったかもしれない。
リツルはちらりと振り返り、痛ましそうな顔をして、前を向く。
「もし、もしですよ。僕が…」
リツルはそこまで言うと、言葉を留め、そして、口を閉じた。
「なんでも、ありません。」
リツルはそう、静かに言う。
もしかしたらリツルは、力になりたいと言おうとしたのかもしれない。
でも、リツルは服売の馭者で私は子爵令嬢。
そんなの、不可能と行っても過言ではない。
「ありがとう。気持ちだけ受け取っとく。」
そして私は、家に帰った─。