18.舞踏会
「もうすぐですね。」
前方には、とても大きな、美しい城が建っていた。
城の敷地内に入る前に、衛兵に止められる。
それもそうだろう。どこからどう見てもこの馬車は、貴族の令嬢が乗るようなそれではない。
「お前は誰だ?」
衛兵がリツルを睨む。
ひぇ〜、やっぱり無理かな…。
慌てる私とは対照的に、リツルは落ち着いていた。
そして、長い髪をかきあげる。
「!? あ、貴方様は……!?」
?
リツルは人差し指を自分の口元に持ってくる。
「このことは内密に。」
なにか衛兵たちにリツルは言うが、私にはその声が小さくて聞き取れなかった。
「シンデレラ様、招待状を。」
「あ、うん。」
私はリツルに招待状を渡す。リツルは受け取ったあと、衛兵たちに見せる。
「確かに、確認いたしました。どうぞお進みください。」
「ありがとうございます。」
リツルはそう言うと、前に馬車を進める。
「ね、ねぇリツル。」
「はい?」
「貴方って何者…?」
「何者ってただの馭者ですよ?
シンデレラ様、そろそろご準備を。」
馬車は舞踏会会場入り口に近づいていた。
私はリツルに言われた通り、降りる準備をする。
「着きましたよ。」
リツルはそう言うと運転席から降り、荷車のドアを開く。
そして、私に向けて手を差し出す。
「ありがとう。」
私はその手を掴み、降りる。
下りた私を見てリツルは
「あっ……。」
と言い、ため息をつく。
「え!? どうしたの?」
何か私、ため息をつかれるようなことした…?
「すみません、気が回らなくて……。」
「?」
どうやら、そうではないみたい…?
リツルは荷車の中から、一つの帽子を出してくる。
つばの広い貴婦人が被っているような…そんなやつ。
そして、リツルは私の髪を帽子で覆いながら、被せる。
「これでいいかな?」
「えっと…これは……?」
「シンデレラ様のような髪色は大変珍しく、目立ってしまうので。
ご家族の方に見つかったら大変でしょ?」
「あ、そうね。ありがとう。」
なんと気の利くイケメンだろう……。
「僕は仕事を終えた後、またここに来ます。12時に着くと思うので、それまでには。」
「えぇ、わかってるわ。12時の鐘がなる頃には、ここで待ってる。」
私は大きく頷きながら、そう応える。
「では、いってらっしゃいませ、シンデレラ様。」
舞踏会は…なんというか、王城のものと言うだけあって、とても華やかだった。
ゆったりとした曲が流れ、何ペアかが踊っている。
リアム王子は……まだ来られていないみたい。
ステージの上に明らかに高貴なる方が座る椅子がある。恐らく王子が座られる席だろう。
会場の隅の方には大きなテーブルがあり、その上には美味しそうな食事が……。
私はその食事を味わい、楽しんだ。
そして、時間は過ぎていった─。