17.会いたい理由
「そして、その子供が私─エラ・グレイスなんだ。」
驚いて振り返った馭者に、私はにっこり笑って見せる。
馭者は何か言おうと口を開いた後、何も言わずに再び前に視線を戻す。
「エラ・グレイス……─シンデレラは偽名、ですか?」
「いいえ、私が継母様たちから呼ばれている名前。
エラ・グレイスは今日は舞踏会に行かないから、けじめ…みたいなものかな…?」
「そう…ですか。」
リツルは前を向いたまま、呟くようにそう言う。
「だから、本当に今日は舞踏会に行けると思ってなくて。
リツルにこうして連れて行ってもらえて、私はとっても嬉しいんだ。ありがとう。」
「……どうして」
笑って礼を言うと、リツルがまた呟くように言う。
「え?」
「どうして、舞踏会に行きたいと思われたのですか?」
その声は、どこか寂しそうだった。
どうして、そんな声で言うの…?
「それはね、王子に一言謝りたいからなの。」
「謝りたい…?」
「うん。」
私が4歳のときに、一度だけリアム殿下にお会いしたことがあるの。
あの日はお父様に連れられて初めて王城に入ったんだ。
幼かった私はどういう場所がよくわかってなかったけど、少しワクワクしてたわ。
お父様が陛下とお話しをしているときに、殿下とお会いしたの。
でね、殿下にこう言われた。
「おいお前、僕が遊んでやるよ。」
って。
それで私、びっくりしちゃって。ちょっと前に言葉は考えて使いましょうって、乳母に言われたばかりなのもあって、私
「そんな上から目線のことを言ったらダメよ!」
って言っちゃったの。
帰りの馬車の中で、あの人はこの国の王子だったって知ってね。そのとき初めて後悔したんだ。
それからずっと謝る機会を探してたんだけど……気づいたら、13年も経ってしまっていた。
だから、私は舞踏会に行きたいと思ったの。こうしてリツルに会えて、本当によかった。
……まぁ、殿下はそんな昔のことは忘れておられるだろうけど。
「それに許してくださるかもわからない。」
これはただの自己満足かもしれない。謝って、自分の枷をなくしたいのかもしれない。
「ぼ…殿下なら必ず許してくださいますよ。」
そう、リツルは私を励ましてくれる。
でも、なんでだろう…どこか傷ついたような……、そんな声をしていた気がした。
「どうして、そんなことが言えるの?」
「さぁ、どうしてでしょうね。」