16.物語
「どうしてシンデレラ様は、王城に行こうと思われたのですか?」
ギクッ
私は今日、行けることを心から喜んでいた。だから、リツルにそう尋ねられ、返事がすぐにできなかった。
「シンデレラ様? もしかして、訊いてはいけないことでしたか?」
「あ、えっと…」
どうしよう。
真実を話して、もしリツルが他の人に話したら…と考えると、真実はできるだけ隠したい。
だが、私はあまり嘘が得意ではない。
どうしようか…といつまでも悩んでしまえば、気まずい空気になることは間違いないし……。
ふと、私はリツルのことを考える。本当にリツルは周りの人に言いふらすような人だろうか…と。
彼は私と会った時、身分を気にして逃げ腰になっていた。
今も、私に質問しておきながら、やはりなしでと言いそうな雰囲気が漂っている。
真実を話すのも一つの手か、と私は思ってしまった。
「あの、やはり今のは」
「うん、話すよ。」
「え?」
私の応えに、戸惑いの声が返ってくる。
今まで相談する人は身内に一人しかいなかった。
他人に相談すると気分が楽になると聞いたことがある。私も楽になりたかったのだと、後に私は気づいた。
「リツルは知ってる? 平民と子爵の結婚の話。」
「…はい。踊り子の女と貴族である子爵が結ばれる話ですよね?
あれは本にもなっているので、流石に知ってます。」
『女は、踊り子だった。
男は、子爵だった。
ある日、男はお忍びで城下の祭りに行った。
男は、舞台の中心で一輪の花のように、美しく可憐に舞う女に心を奪われた。
その女に、男は恋に落ちた。
女も男と共に過ごすうちに、好きになっていった。
2人は恋仲となった。
でも、周りは反対した。子爵と踊り子が…と。
でも、2人は諦めなかった。
最終的に男の仕事の上司であった公爵のおかげで、結婚できたが、貴族の位というものは、女には重すぎた。
度重なるストレスに耐えきれず、女は、日に日に弱っていき、息絶えた。
でも、男には悲しんでいる暇は、あまりなかった。
女が残してくれたものがあったから─。』
「あの話には、続きがあるの。」
「続き…ですか?」
この物語は、子爵が愛を持って子供を育てる─そんな美談で終わっている。
でも、本当は─そこで終わらない。
「その後男は、上司から一つの縁談話をもらった。
男はその女に惹かれ、再婚した。
だが、子爵は気づいていなかったのだ。その女の真のすかたに─。
女は平民の娘である男の子供を、虐めるようになった。女の娘も母の真似をした。
子供の信頼できる人は徐々に削られ、使用人の真似事までさせるようになった。」
「─そんな続きがあったのですね。」
「うん。」
「でも、どうして今そのようなお話を?」
「……実はその男が私の父でね。」
「え?」
「そして、その子供が私─エラ・グレイスなんだ。」