1.灰かぶり
女は、踊り子だった。
男は、子爵だった。
ある日、男はお忍びで城下の祭りに行った。
男は、舞台の中心で一輪の花のように、美しく可憐に舞う女に心を奪われた。
その女に、男は恋に落ちた。
女も男と共に過ごすうちに、好きになっていった。
2人は恋仲となった。
でも、周りは反対した。子爵と踊り子が…と。
でも、2人は諦めなかった。
最終的に男の仕事の上司であった公爵のおかげで、結婚できたが、貴族の位というものは、女には重すぎた。
度重なるストレスに耐えきれず、女は、日に日に弱っていき、息絶えた。
でも、男には悲しんでいる暇は、あまりなかった。
女が残してくれたものがあったから─。
─それが私、エラ・グレイス─。
父のショーン・グレイスと母のレギーナ・グレイスの、娘である。
そろそろ行こうかしら。
私─エラは、布団を畳み、時計を見てそう思う。
そろそろ朝食の時間だ。
「おはよう、エラ。」
「おはようございます。継母様。」
爽やかに挨拶をしてくれる継母に、私も笑顔で返す。
そのまま継母とダイニングルームへ向かう。
「あぁ、エラ、妻、おはよう。」
父は読んでいた新聞から目を離し、私たちに挨拶をしてくれる。
「おはよう、お父様。」
「おはようございます。」
私と継母も挨拶を返す。
それぞれが、それぞれの席に座る頃、部屋のドアが開く。
「ふぁ…、おはようございます。」
あくびをしながら、義妹が部屋に入ってくる。
「こら、エレン、はしたないわよ。」
継母が注意する。
「すみません。
いつもお母様たちは早いですね…。」
「エレンが遅いだけだよ……。」
眠そうなエレンに私は呆れながら言う。
「さ、エレンも座って。朝食を皆で食べようではないか。」
こうして今日も、一見普通の家族のような朝食が始まった─。
突然だけど、私─エラ・グレイスには、もう一つ名前がある。
言ってしまえば二つ名だ。
まぁ、皆さんの想像するような、格好いいものではないけど。
「行ってらっしゃい、お父様。」
「あぁ行ってくる。…いい子にしてるんだぞ。」
「ふふ、私はもう18だよ。子供扱いしないでください。」
「そうだな。
じゃぁ、行ってくる。」
「気を付けてね。」
父は背を向けたままひらひらと手を振り、馬車に乗る。
……、行っちゃった。
私は溜息をつき、家の玄関扉に手をかける。
「……。」
私は腹を括り、扉を開ける。
「あら、もう戻ってきたの?」
「ずっと外にいればいいのに。」
「……。」
父がいなくなった途端、豹変する継母と義妹の言葉を、私は無言で聞く。
「ほら、いつまでもそんな不釣り合いな服を着ているつもりぃ?
早くこれに着替えなさい。」
継母が私のボロボロの召使いの服を放り投げて私に渡す。
「平民は平民らしく、ね。」
義妹は、私に嘲笑の目を向けてくる。
私─エラ・グレイスには、もう一つ名前がある。
「シンデレラ。」
シンデレラである。
どうも、こんにちは。
設定など、実は結構苦労したあぷりこっとです。
どんな内容にするか、ザックリは考えてたのですが、いざ描くとなると違いますね。
貴族の位とか、家族関係とか…。
どうやってシンデレラを継母と義妹が虐めるかとかも、ちょっと悩んだりしてます。
パッと浮かんだ継母と義妹の罵る言葉を口に出したら、友達になんとも言えない目で見られたりもしましたね……。次は時と場所を選びます。
そして、この小説を書くにあたり、新たな発見がありました。
シンデレラの本名は「エラ」、ということです。
「シンデレラ」は、「cinders+Ella」と、2つの単語を繋げてできた呼び名だそうです。
そんな、悪口がタイトルになってたんですね……。
さて、今回の小説のタイトルは「シンデレラ 〜馭者は〇〇でした〜」です。
この〇〇に、何が入るのでしょうか?
楽しみですね(ニヤニヤ)。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
また次回、お会いしましょう。
バイバ〜イ!