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円満な家庭

 仕事のために髪を染めようと思った。しかし問題があった。

 アリサは屋敷の周りを一回りして思う。

 屋敷の周りには視界に入る範囲に人の住む屋敷はない。

 つまり、買い物をするためには徒歩では無理、馬が必要ということだった。

 アリサの住んでいた街は平民と貴族では住んでいるエリアこそ異なっていたが見渡す限り民家がないということは無かった。

 この屋敷では十日に一度食料や衣料品を商人が売りに来るらしい。

 そして屋敷からちょっと離れた場所に野菜畑と鳥小屋があった。

 アリサは途方に暮れた。

「あの奥様、私の買い物を頼んでいいのでしょうか」

 マティアス坊ちゃんの髪をとかしながら同じようにマティルダお嬢ちゃんの髪にリボンを結んでいる奥様に尋ねた。

「あら、お化粧品なら私のを貸してあげるわよ、貴女は私と肌色が似ているし」

「いえ、肌ではなく髪を染めたくて」

「あら、奇麗な色だから染めなくても」

「髪色が目立つと言われまして」

 アリサの銀髪でとんでもない誤解を受けたことを聞いてシンシアは笑った。

「別にいいでしょう、目立つぐらい」

「でも使用人としてはけじめがないかと」

アリサは食い下がってみた。

「仕事をしてくれればいいのよ」

 そう言われるとぐうも出ない。

「じゃあ、ボンネットをかぶって髪を全部押し込んでしまいます。それなら染める必要もないので」

 真っ白な洗いざらしのボンネットなら料理女が古いものをくれるかもしれない。なければ作ればいい、端切れならある。

「せっかくの奇麗な髪なのに」

 シンシアは残念そうだ。

 マティアスの髪をとかし終え、着ている服の細部を整えて身支度は終わったが所詮は三歳男児、この奇麗な状態がお昼まで持つわけがない、どうせもう一度やり直す羽目になるだろう。

 今までの顔見知りの三歳児のことを思い出してアリサは遠い目をした。

 マティルダは小さな鏡を覗いてリボンを確認する。

「やっぱり赤いリボンが似合うわね」

 シンシアはマティルダの頭を撫でてやりながらアリサに言う。

「あの絵本を読んであげてね」

 結構な量の本がかなり大きめの棚に収められている。字を覚えるための絵本からある程度年のいった子供が読むであろう短編小説、そして大人の読むような長編小説まで盛りだくさんだ。

「本って、高価なものですよね」

 アリサの住んでいた街では絵本は絵本置き場に置いてあった。街の有志

でお金を出し合って買った本で本はそこでしか読むことができなかった。

「そうよね、旦那様が子供のためにって商人に頼んで持ってこさせたの」

 シンシアはおっとりと笑った。

 結婚したいきさつはどうあれ円満な家庭のようだ。

 アリサは最初に手に取った絵本を開いた。

「絵本を読みますよ」

 子供用のテーブルに二人をつかせアリサは中腰の姿勢で本を読み始めた。



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