お祈り
数日はアリサは静かに小間使いとしての仕事だけをしていた。
「アリサ、今日は神殿に向かいますから支度してくださいな」
神殿に向かうときには決まった服装がある。紺か茶色の地味で飾り気はないが高級なドレス。
黒は葬祭の時なのでそうでないときは紺色か茶色なのだ。
ネリーに指導を受けてその色から今の季節に合った生地で作られたドレスを探す。
見つけたのは光沢のある紺色の生地で作られたドレス、胸元に小さなフリルのついたものを取り出すと着付けと髪を結い上げて支度をした。
今日は子供たちもつれてのお出かけなので、余所行きの紺色と白ののおそろいの服を着せた。
ネリーがマティルダの髪にドレスに合わせて白いリボンを結ぶ。
もともと小間使いのお仕着せは紺色なのでいつも通りの格好でアリサはつき従うことになった。
「そう言えばネリーさんはいつお嫁に行くんですか?」
「あら、口うるさい先輩はいなくなった方がいい?」
「そんなことありませんよ、ただ、私としてはいつまで頼れるのか心づもりぐらいは立てたいだけです」
そんなことを話しながら、奥様とアリサとネリーが一人ずつ子供たちを膝に乗せる形で馬車に乗り込んだ。
「それじゃ行きますよ」
御者のおじさんが馬に鞭をくれた。
馬車が付くと神殿とは名ばかりのこじんまりとした建物だった。
それなりに大きいが、アリサの住んでいた首都の大神殿とは全く規模が違う。
たぶん地方都市ならこれくらいの規模が普通なんだろう。
中に入れば小さな礼拝所、小さなおじいさんが黒いずるずるした服を着て立っていた。
礼拝堂の奥の祭壇には女神と思われる像が鎮座している。
シンシアはいくばくかのお金を献金箱に落とすと、膝をつく。
「亡き父母のため祈りをささげに参りました」
そして、後ろに立つ二人の子供に同じように膝をつくようにと諭した。
膝をつき手を組んで目を伏せる。子供たちは妙にちぐはぐな格好で祈るような形をまねようとしていた。
アリサとネリーも後ろで膝をついた。
祈りのしぐさはこちらもあまり変わらない。
聖句を聞き流しながらアリサは目を伏せたまま背後を探る。
もしかしたら背後にルカがいるかもしれない。
そう思いながらいつでも跳ね起きられるよう下腹に力を込めた。
結局何も起こらず祈りは終了、全員立ちあがる。
子供たちは何やら不満そうだ。
確かにずっと家にこもりぱなしで元気が有り余っているのかもしれない。
「お母様、遊ぶ」
「もっと遊ぶ」
礼拝所を出てからスカートを引っ張って駄々をこねる。
「どうなさいますか」
こじんまりとした屋敷から広い外に出たのだから適当に原っぱでも走らせるべきだろうか。
「そうね、ちょっと開けた場所にお花畑があるのよ」
シンシアがそう言ったので一度休憩をはさむことにした。




