出迎えた人
漸く家に帰れば、子供たちの泣き声が迎えてくれた。
『お母様』
子供たちは父親を通り越して母親に突っ込んでいった。
スカートを掴んで泣きじゃくる子供たちをあらあらと母親は困ったように撫でている。
「奥様、お召し替えがありますので」
外出着を部屋着に着替えなければならないのだが。このまま子供たちをくっつけたままではどうにもならない。
「そうね」
シンシアはマティアスとマティルダの手をそれぞれ握る。
「さあ、お部屋に帰るわよ」
そう言って家の中に連れていく。
「ああ、ルカ」
家の中では見知らぬ少年が立っていた。
自分の知っている中には絶対いないと言い切れるのはその少年がアリアと同じく銀髪をしていたからだ。
見目は整っている。鮮やかな緑の瞳はサヴォワに残していたおばさんを思い出させた。
「彼は?」
「あら、アリアは知らなかったかしら、うちの使用人のルカよ」
「いましたか?」
初日にすべての使用人と話をしたはずだ。しかし絶対顔を見ていない。
「ルカは元暗殺者で、今は旦那様の護衛をしているの」
不穏なことを言った。
「そんな人がいるなんて聞いてませんが」
なんでそんな人がいるのにわざわざ大枚はたいてアリサを雇ったのか。
「それはまあ、役に立つかどうかわからないし」
アリサが軽く目を見開く。
「いや、あのおっさんにかすり傷とは言えて傷を負わせるとは思ったよりできるねえ、異国の傭兵ってやつも」
「できないようにするのも腕なんですよ」
いかにもか弱そうに見せかけて裏を掻くのが仕事の肝だと厳しく躾けられているアリサはにっこりと笑ってやった。
「奇遇だねえ、俺も」
実際ルカは荒事に向いているようにはとても見えない優男のような顔をしている。体格も細く見える。
うふふ、アハハと殺気を押し殺した状態で朗らかに笑いあう。
子供は何故か固まっていた。
「もちろん俺に何をそのスカートの下に隠しているかとか聞く気はないよ」
「いやですねえ、どんな時でも恋人でもない女のスカートの下が気になるなんてしゃべった日には犯罪者扱いですよ」
「それじゃ痴漢はどうなるんだよ」
「痴漢はもちろん犯罪です。私の実家で痴漢なんて出たら逆さづりにされて石を投げられますよ」
「そうなんだ、物騒だね」
「ええ、これが普通じゃないんですか」
痴漢の罪につき逆さづりの上石投げは実際にあった刑罰だったりする。
サフラン商会の重鎮の孫娘を狙うというどう考えても意図的な自殺を試みた馬鹿だった。
もちろんアリサも石を投げた一人だった。