同業者
これは何事?
アリサは自分の状況がわからなかった。王宮に勤める武装女官候補であったにもかかわらずこの体たらく。
不覚としか言いようがない。
ザイーフ人に取り囲まれていた。それも屈強そうな明らかに戦闘職とわかる部門の人間だと分かるような手合いに。
「あの?」
いかにも可愛らしい少女らしい首の傾げ方を披露してみた。いかにも保護欲を誘う稚い少女のふりをして。
「その芝居はやめた方がいい」
真ん前に立っている男が言った。
「おかしいですか?」
「普通の女の子ならこの状況でならもう泣いている」
そりゃそうだと思ったアリサは周囲を伺う。人通りはないわけではないようだが思いっきり遠巻きにしている。屈強な男に取り囲まれたか弱そうな少女を見捨てる気満々だ。
「何か?」
アリサはそう言って相手を観察する。異人種の質の悪いところは顔の見分けがつけにくいところだ。周りを取り囲む男達に血縁関係があるのかと言いう検討すら付けられない。
「いや、異国の同業者は偉く毛色が違うな」
確かに色だけで見れば正反対だ。肌は浅黒く髪は漆黒、アリアの雪のような白い肌と銀髪では。
「ああ、ありがとうございます」
アリアはにっこりと笑った。
「演技指導ありがとうございます。私はこの見た目で油断させてからやるスタイルなもので」
何をやるのかは想像してもらうしかないが。
「確かにな、つまりバレバレの状態ではどうしようもないか」
アリサはほんのりと笑う。
そしてアリサの袖口から針が一本飛び出した。素早く繰り出されたそれに思わず飛びのく。
「かすりましたわね、本気なら死んでいましたよ」
針先には血がついていた。針一本なら鎧の隙間でも貫通する。そしてそれに毒が仕込んであれば。
「たとえ、不利でも最低は一人は仕留めろと教育されております」
至近距離ならさすが、遠距離ならばねの力で打ち出すこともできる。
「可愛くない女だな」
「商売敵に可愛いなんて思われたら終わりでしょ」
アリサはそう言っていなす。
アリサのようなのが特殊なだけで、サフラン商会の傭兵たちはわかりやすく傭兵な人たちの方が多い。
「アリサに絡まないでよね」
ネリーが事態を見て慌ててアリサとザイーフ人たちとの間に割って入る。
「あの、大丈夫ですよ」
「こんな小さな女の子に絡むなんて」
いやそこまで小さくないとアリサは言いたかったがそれ以上は言えなかった。
「あら、どうなさいましたのサダム殿」
奥様、シンシアがにっこりと笑う。
「アリサ、この方は旦那様がお仕事の取引相手のサダム殿ですの、覚えておいてくださいな」
「はい、奥様」
「アリサ、変なことをされたらすぐに声を上げるのよ、何か武器を用意しましょうか」
武器なら持っていると言おうと思ったがネリーがどれほど情報があるのか、とりあえず旦那様ことカーライル様に相談だな。
アリサは今後の予定を立てた。




