乱入者たち
音楽が聞こえた。スローテンポのダンス曲。
和やかな雰囲気のそれをアリサは眺めている。
メイドたちはそれぞれ知り合い通しで固まっているが何故かアリサとネリーだけは遠巻きにされている。
アリサはこの国に来たばかりの新参者なのでそうなるのは仕方がないがどうして古参であるはずのネリーまでそうなるのだろう。
音楽とひそやかな笑い声が聞こえるその空間で不意に聞こえてきたのは
なんだろう。アリサはそっと入り口に向かって顔を出した。
「駄目よ」
ネリーがアリサを押しとどめようとする。
アリサは舞踏会の会場に新たに入ってきた男達の様子に目を見開いた。
アリサのいた大陸とこちら側の大陸の人種差はほんのわずかだ。
アリサの板地方では珍しい黒髪も別の国では珍しくない。
この大陸では珍しい薄い髪もいなくはない。
それを考えれば人種差はないと言ってもいいかもしれない。
だが、今アリサが目にしている男達は見上げるほどに背が高くそして肌は浅黒く黒々とした黒髪を肩に垂らしていた。
顔だちにも違和感を感じる。
「あれ?」
つい出てきてしまった疑問にネリーがあきらめたように答えてくれた。
「あれはザイーフ人よ、遠いどこかからやってきたという異邦人、ちょっと危ない人たちだからあんたみたいなちっちゃい子は近づいちゃだめよ」
ザイーフ人、その奇妙な音をアリサは心に刻む。
そして、旦那様がザイーフ人に近づいていく。そして聞き覚えのない言葉で会話を始めた。
まったく聞き取れないのでアリサは首をかしげた。
そして、何となくザイーフ人たちと旦那様を中心に少しずつ離れていく。
「なんだか引かれてない」
アリサの目には怯えと嫌悪のようなものが感じられる。
そして、反対側の扉から別の一団が入ってきた。
人種は同じだろうけれど着ているものは違う。硬いしっかりとした生地で作られた服は飾りは全くない詰襟でくるぶしまでの長さがある。
割合温暖なこのあたりではあの格好はかなり暑いのではないだろうか。
頭髪は確認できない。髪をすべてそり落とし、黒い頭にぴったりとした帽子をかぶっていた。
先を進むたびに人が割れ手を組んで祈りの聖句を唱える。
おそらく司祭か何かだろう。アリサのいた場所でも司祭は尊敬を受け近くを通りかかったら聖句の一つも唱えるのが習慣になっていた。
ただ祈りの言葉は違う。
アリサの信じる神と違う神をこの場にいる者達は信じているのだろう。
髪には魂が宿るという。だからか宗教に携わる者達は髪を長く信じられないくらい長く伸ばすかそれともそり落としてしまうかの両極端に走る。
だから髪をそり落とした司祭が二つの大陸にいるのはおかしいことではない。
アリサの知識はそう言っている。
そう教えられた知識だが。それを間違っていると思ったことは無い。
そんなことを考えているうちに司祭だろうと思われる一団とザイーフ人たちが正面切って顔を合わせた。
氷が割れる音をそのときアリサは聞いた。
殺気にも似た敵意のぶつけ合いを感じたのだ。




