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私のにしては読んで貰えてるっぽいやつ

悪役令嬢に生まれて

作者: 大貞ハル

「全て…、終わったのね…」


公爵令嬢エリヴィラ = アヴデーエンコは馬車の中で呟いた。

青みがかった白髪に、青い瞳の冷たい印象を与える美女だ。

向かいの席に座る護衛の騎士が悔しさに俯き、メイド長がハンカチで涙を押さえた。


王太子の婚約者だったエリヴィラは非道な行為を咎められ、婚約を破棄された上で追放となった。

馬車は王都から遠く離れた魔物の住む森へと向かっているのだ。




「こんなモノは食べられませんわ!!」


エリヴィラは小さな頃から我儘で有名だった。

食事の度に、いや料理一品一品に対して文句を言った。

それも料理長を直接呼びつけて。


挙げ句の果てに料理長を追い出した。

エリヴィラが追い出した料理人は1人や2人ではなかった。


メイドに対してもいちいち難癖を付けた。

礼儀がなっていない、所作が悪い、気が利かない、などなど。

エリヴィラが学園に入る頃には彼女の侍女は皆追い出され、メイド長が1人で世話をしていた。


出入りの業者にも口煩く注文した。

対応が遅い、それだけの量しか仕入れられないのか、流行遅れだ、と。


時には職人などを直接呼びつけて文句を言うこともあった。


だが疎まれても商人に嫌われることは無かった。

エリヴィラは金遣いが荒いのだ。常に最新の物を買い付ける。

ドレスに宝飾品、流行りの食材に菓子、手当たり次第に買い付ける。


公爵家の財政が傾くほどのお金を使い続けた。

アヴデーエンコ公爵領は税金が高く、令嬢が無駄遣いばかりしているからではないかと言われていた。




王立魔法学園に入学すると、光の魔力を持つと言うピンク色の髪を持つ美少女エレーナ = ムイタコフに纏わりついて、ことあるごとに罵詈雑言を浴びせた。時にはその親である男爵に圧力をかけたりもしていた。


高位貴族の令嬢を取り巻きにして女王の様に君臨した。




そんなある日、エレーナが階段で足を滑らせた。

貴族としての生活を学ぶために作られた本校舎には、大貴族の屋敷と同じ様な作りの大階段があり、そこから転落しそうになったのだ。エリヴィラはエレーナにそっと手を触れ防御魔法をかけた上で、他の生徒に当たらない方向に押し出した。


エレーナは怪我ひとつ負わなかったが、周りからはエリヴィラが突き落とした様に見えたのだった。




「あの方、エレーナ様は王太子殿下の婚約者としてやっていけるかしら…」


光の魔力を持ったエレーナは必ずどこかに取り込まれる。そう思ったエリヴィラは高位貴族の中でも生きられる様に鍛え上げるつもりだったのだが、事故のせいで思ったよりも早く、学園を去ることになってしまったのだ。


「お嬢様が鍛え上げた者たちが王宮に居ますから、彼女たちがフォローするでしょう」


メイド長はエリヴィラの願いを受け、エリヴィラと共にメイド達を徹底的に鍛え上げた。周りからは追い出された様に言われていた彼女達は公爵の紹介状を使い王宮などで働いている。


ただ追い出されたわけでは無かったのは、料理人達もだ。宮廷料理人になった者、王都で有名なレストランの料理長になった者、様々だ。


「公爵領の事業の結果を見る事が出来ないのも、ちょっと残念ね…」

「あと2〜3年もしたら公爵領はこれまで以上に豊かになるでしょう。大丈夫です」


メイド長は心配要らない、そう言って慰めるが、これまでの努力の成果が見られない寂しさは理解していた。だが、他に言いようがない。エリヴィラがそれを見ることはおそらくないのだから。


河川の工事に街道の整備、新たな作物、新技術、どれも時間とお金がかかる。


目に見えて実感できたのは衣服や装飾品の技術の向上やら、流通だろうか。

新しい商品と、その品物が即時に市場に回るのは重要なことだ。


「王太子殿下の側近の方々の婚約が上手くいかなかったのは残念だわ。私が御令嬢のみなさんに近づいたのが逆効果だったのかしら」

「そんな。おそらくお嬢様のせいではありませんわ。そもそもお嬢様が身を引くことで治めようとしたのに、王太子殿下と恋仲になったエレーナ嬢に恋慕するような男どもと婚約し続ける方がかわいそうと言うものです…」

「ふふふ、確かにそうかもしれませんね…」


「とりあえず、殿下とエレーナ様が上手く行ったことだけでも良しとしなければね。お父様には申し訳ないけれども、我が家がこれ以上力を持つのは正直良くないと思うし、領地の発展だけで我慢してもらいましょう…」




しばらくすると道が悪くなり、公爵家の馬車でも喋りながらと言うわけにはいかなくなった。

みな揺れる車内にしがみつく様にしていた。




「お嬢様、お手を…」

「ありがとう」


王都を遠巻きに囲む様に存在する森の前に着いてしまった。


「あなた達はもう引き返して…」

「お嬢様…」


馬車の前に御者と騎士とメイド長が並んで動こうとしない。

困ったエリヴィラはダンスでも踊るかの様にくるりと回った。

スカートがふんわりと広がり、再び元の形に戻ると見事なカーテシーを披露する。


「わたくし、ちゃんと悪役令嬢を出来たかしら?」


「それはもう、これ以上ない最高の悪役令嬢でした…」


従者達が泣き出すのを困った顔で見つめるエリヴィラだった。




その後、予定通り王太子が国王に即位し、光の魔力を持つ王妃を迎えた王国は大いに発展し平和が続いた。公爵令嬢エリヴィラ = アヴデーエンコのその後は誰も知らない。



最後のシーンを描きたかっただけなんです(オ

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― 新着の感想 ―
[一言] せつない…… 現実味を帯びた、悪役令嬢物語が凝縮していると、そう感じてしまいました。 この物語を拝読できた事に感謝を。
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