第八話:彼女からのお誘いはデートと言う程、甘いモノじゃなくて
「――リゼ!」
昼を少し過ぎた頃。
多くの住人と冒険者が行きかう冒険者ギルド前の広場で待つリゼッタ・バリアンを見つけて、レオン・グレイシスは焦って彼女の元に走る。
チラリと大きい噴水の中心に立つ時計を見上げて、僅かに眉を顰めた。
「ごめん、待たせたよな」
「いえ、私が早く着き過ぎただけですので、お気遣いなく」
それよりも、と、
「折角のお休みに、お時間を割いて頂き申し訳ありません、グレイシスさん――あ」
彼女は頭を下げるが、彼を呼ぶ際に癖が出た。
「はは。地上じゃ呼び易い方で良いよ。俺はもう短く言うのに慣れちまったから、そのままにさせて貰うけど」
リゼッタは困った様な表情になるが、レオンは軽く笑って、
「それにあのリゼッタ・バリアンからのお誘いなら誰も断らないさ。それよか、足の方は大丈夫なのか? 無理すると本当に長引くぞ」
「問題はありません。一晩休んで、違和感は大分、治まりました。街を少し歩く位は大丈夫です」
では、と、リゼッタは、
「早速――武器屋に行きましょう」
◇
広場から少し離れた武器屋『強者たちの集い』。
投擲用の短剣や矢から人が持つには明らかに大きく重い大剣まで、ブレ幅がデカすぎる迷宮都市きっての名店。
レオンの「武器はこの短剣以外はあんまり使ってこなかったなー」なんて呟きにリゼッタは、“一般的にですが”と前置いて、
「単純な攻撃力を重視するなら重量のある大剣ですが、使用するスキルのタイプで選ぶのが良いとされています」
フム、と彼女は考えつつ、
「“斬る事”に特化させるのであれば、極東由来の薄く反りのある『カタナ』という刀剣がありますが、一般的な剣とは製法から異なり『硬化のルーン』を付与しても耐久値に問題がありますし、扱いも難しいとされています――」
逆に、と、
「“突く事”に特化させるのであれば細剣ですがその形状上、点としての攻撃が主になってしまいますし、薙ぎ払うスキルには適しません」
彼女はレオンを見て、
「グレイシスさんの場合は固有スキルが防御系ですし、魔力武装と近いバスタードソードが合っていると思います。例えば……えぇ、丁度あの様な――!」
どこか得意げだったリゼッタは、呆気に取られるレオンを見て、表情を引きつらせた。
「――――もう、しわけありま、せん……。調子に、乗り過ぎました」
肩を落として彼女は、
「以前の……『ホーリーソード』でもそうでした。私はその――小賢しい女、と言われていたのです。後衛である私が前衛職の方の武装に口を出すのは、おこがましいとは分かっているのですが……性分というか、悪癖というか」
溜息を溢す。
元々、彼女が誘ったのはレオンの装備を揃える為だった。
固有スキル【ソウル・エンハンスト】の効果を発揮させるには使いこまれた彼の短剣が媒介とする必要がある。
逆に固有スキルを使わないのなら、その短剣である必要は無い。
実際、レオンの戦闘スタイルからすると、武器が“大振りな短剣”というのはイマイチ合っていない。
大振りといっても元が短剣なのだ。防御系固有スキルの【インパクトアブソーバー】でパリィするにも軽く取り回しの良い利点もあるが、リーチの短さと攻撃力の物足らなさは、いかんとも……。
今は“使い慣れている武器”で良くともあと一つか二つ、下の下位層に降りれば“自分に適している武器”にする必要があるだろう。
“冒険者となる為の誓いと思い出の剣”
冒険者を続けて来た支えでもあるのだが、それを使い続ける、ある種の縛りとも言える拘りが、レオン・グレイシスをBランクに留めてしまっている要因の一つだった。
――彼女の指摘は、もっとも。
リゼッタは、小さく首を振るい、姿勢を正した。
「私の事はお気にせずに、ご自由にお選び下さい。攻略に必要な経費ですので、費用は私の方からも出させて頂きます」
「んーと……」
気まずそうな彼女の表情に、レオンは少し考えて、腰に提げた剣の柄をポンポンと叩く。
「――さっきも言ったけど、俺は“コイツ”ばっかりでさ、実は武器に関してあんまり詳しくないんだ。一応、前衛職なのに情けないんだけどさ――コレを機に色々教えてくれると助かる」
両手を合わせたレオンに、リゼッタは目を丸くさせ、
「――私の話は長いですよ?」
小さく微笑んだ。




