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第四話:お前らがパーティ組めば良いんじゃニャーか?



「――お見苦しい所をお見せしました……」


 打撃部が花の蕾の様な小振りの長柄のメイスを傍らに神官の法衣を纏う少女とも女性とも思える彼女は深々と頭を下げた。


「いや、まぁ……お互い様だからね」


 あはは、と向かいに座るレオンは苦笑する。


 まさか、後ろの席でも“自分と同じ様な事”が起っていたとは驚いた。


 お互いの事情をあの瞬間に察し、そのまま席を立つにもなんだかバツが悪く、取りあえず冒険者ギルド内の酒場の端にある席に移動した次第。


 ……ではあるのだが、いざ面と向かうとそれはそれでバツが悪い。


 彼女もソレを感じてか、自ら、


わたくしはリゼッタ・バリアン。――先ほどまではパーティ『ホーリーソード』に所属していました」


 躊躇いながら自己紹介をした。


「『ホーリーソード』の……リゼッタ・バリアン――!?」


 思わず、レオンは絶句する。


『ホーリーソード』といえば、レオンの所属していた『鋼の翼』と同期と言えるパーティで同じくSランク。


 その名の通り、リーダーはクラス【パラディン】。固有スキル【聖なる祝福】を持ち、手にする武具に属性:聖を付与するもの。


 そのメンバーであるリゼッタ・バリアンといえば【ヒーラー】であり回復・防御魔法を熟す優秀な後衛として有名だった。


 確かに、彼女と面識は無いがその名と噂位は知っている。


「マジか! 『ホーリーソード』は気でも狂ったのか!? アンタみたいな“要”を切るなんて……!」


 ついレオンは声を荒げてしまう。


 しまった、と口を押さえるが周囲はそれぞれの談笑に夢中で聞かれる事は無い様だった。


「――申し訳ない」


「いえ、お気になさらずに――レオン・グレイシスさん」


 まだ名乗っていない筈だが、自分の名を呼ばれて目を丸くする。


 リゼッタは小さく微笑んで、


「貴方もSランクパーティ『鋼の翼』の壁役(タンク)として、敵の攻撃を防ぎ捌き切りるパーティの守護神と有名ですよ」


「それは、流石に尾びれが付き過ぎだよ。実際の俺は微妙な防御スキルしかない半端者さ」


「私も同じです。【ヒーラー】として名が通ってしまっていますが、実際の私は【エンハンサー】。クラスとして【ヒーラー】の側面もあり回復や守りの術も使えますが、味方を強化し補助する事が本職です」


 Sランクの冒険者、パーティともなれば自身の功績と共に周囲の幻想も背負う事もある。

 尾びれが、別の尾びれをひく事もよくある事だ。


 リゼッタは眉を顰め、


「『ホーリーソード』はクラス上、メンバーの全員が回復魔法を使えますし、私のバフに頼る事などもうしばらくありません。寧ろ、個人の戦闘能力が低い私を守る事が、負担となりパーティを抜ける事に――いえ、追放されたのです」


「俺も似た様なもんだよ。盾役(タンク)にしても半端、前衛(アタッカー)としても半端……ガンガン攻めるアイツらの中じゃ、足手まといだからな」


 はぁー、と重い溜息が重なった。


 それにお互いは苦笑して、


「それで、これからリゼッタ――さん、はどうするつもりで?」


「私に敬称は不要です。グレイシスさん」


 なら、俺も良いよ。


 いえ、これは性分ですので。


 ――と、挟んで、


「私は孤児院の出で、施設の維持にまとまったお金が必要なのです。その為にあのパーティに入り、この迷宮都市まで来たのです。……例え、無茶でも最低限の資金が集まるまでは、この都市を離れる訳にはまいりません」


「……まぁ、俺も何するにしても、金は必要だしなー」


 よし、とレオンは、


「なら、パーティ応募の掲示板を見てみよう。流石にソロであのダンジョンに潜る訳にもいかないしな」





「――所で、そっちは何階層まで行けたんだ? 俺達は十階層まで強引に行ったけど、多分、真面に進むなら七階層までが良い所だ」


「私達は十三階層でしたが、確かに無理はしていたと思います。余裕をもって戦闘を行うには確かに、七か八階層という印象ですね」


「『ホーリーソード』でもか……。流石は“殺意の塊”だ。あ、アレは見たか? ミミックのトラップ」


「見ました! というか引っ掛かりました! あのあからさまな宝箱、もう見るからに怪しいのに、良いアイテムが出るかも、と剣士がろくに調べもせずに開けてそれはもう大変な目に!」


「あー、やっぱどこもやるのかねー。三階層だったけど、魔法剣士殿が駆け寄った時は焦った焦った。まぁ、止めたけど」


「止めて正解です。種類にも寄りますが、宝箱から手が出て来てそれはもう、悍ましい魔物でした。こう、長い腕で這って執拗に追い回されて……!」


あぶねー、変態呼ばわりされたけど、羽交い締めして良かったー」


 冒険者ギルドに貼り出されているパーティ募集の掲示板の前でレオンとリゼッタは盛り上がっていた。


 それにしても、とレオンが、


「――割りと“俺達みたいな連中”って多いのな」


「ええ、正直驚いた、といいますか何といいますか……。どこのパーティも事情は似たようなものなのですね」


 リゼッタもギルドの酒場側を振り返り肯いた。


 今も丁度、


「このパーティから出て行けこの役立たず! お前のせいで全滅する所だったんだぞ!」


 とか、


「お前の様な無能はクビだクビ! 直ぐに出て行け!」


 ――なんて、既に数件そんなパーティを目にしている。


 そして、酒を飲んでいる客の中でも、


「お、また追放された奴いるぜ!」


「ほらな、あそこのパーティはそうだって、言ったろ!」


「でも、追放された奴は違うだろ、賭けは俺の勝ちだ!」


 なんて、さかなにする連中がいる始末。


「なんか、流行はやってるのかねメンバー追放」


「酷い流行りゅうこうもあったものですね」


 それにしても、と溜息をついて、改めて掲示板を見る。


 確かに募集は多いが、その条件が『ソロでダンジョン五階層突破可能な者』だとか『攻撃特化系の前衛冒険者』や『回復支援特化の後衛冒険者』なんかが目立つ。


 一応、中には、『急募! 募集条件無し!』なんてものもあるが……色々と怪しいのだ。


「――どうしたものかねー」


「――どうしたものでしょうか」


 うーん、と唸っていると、


「昨日今日、追放されたばかりのクソ雑魚冒険者を拾う様な真面なパーティはこの都市には居ないのニャー」


 頭に猫耳を生やしたギルド職員が二人の後ろのテーブルを片付けながら、軽い口調とわざとらしい語尾で言う。


 彼女は、二人が何か言う前に、


「諦めて野垂れ死ぬか――もう、クソ雑魚同士、お前らがパーティ組めば良いんじゃニャーか?」


 トレーに空いたグラスや皿を乗せて、獣人の特徴である尾をくねらせながら職員は厨房へと消えていく。


 レオンとリゼッタは顔を見合わせて、


「その手があったな」


「その手がありましたね」


 ――理解のある冒険者が直ぐ近くに居たのを、割りとガチで失念していた。




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